超重量物を運ぶときは、目的地の近くまで船で運び、陸送する距離をできるだけ短くします。しかし大陸国のインドでは、港から目的地までが600kmに及ぶとか……。インド史上最大規模の複合輸送を実現するため、鉄道を止め、電気を止め、水道も止めました。

 コンボイを通すためにいくつもの橋を架け、一般道を避けてバイパスまで建設するインドの超重量物輸送には、熱意とともに内陸部でのインフラ開発の大変さも感じます。

文/トラックマガジン「フルロード」編集部
写真/GOLDHOFER Aktiengesellschaft・PRISM LOGISTICS

インド史上最大規模の超重量物輸送

バージ(台船)への超重量物の積み込み。ゴールドホファーの自走台車(PSTモジュール)が使われている

 インドで超重量物輸送などを行なっているプリズム・ロジスティクスが2022年8月から2023年7月まで、およそ1年の期間で実施した輸送プロジェクトは、インドの歴史上で最大規模かつ前例のない輸送方式を採用した画期的なものだった。

 この輸送はインドのコングロマリットで原子力発電や建設・エンジニアリングなどを行なっているラーセン&トゥブロのために実施したもの。特大サイズの大量の荷を、ハジラ、ダヘジ、マンガロールの3地域から、インド北西部でパキスタンとの国境に近いラジャスタン州バロトラ地区のパチパドラまで輸送した。

 分割できない荷姿としての最大サイズは、長さ55メートル、幅10メートル、高さ10メートル、重さ750トンというもので、インドなどでは「オーバー・ディメンショナル・カーゴ(ODC)」を超える「スーパーODC(SODC)」と呼ばれる超重量・超特大貨物だ。

 問題は、このようなSODCが34ユニットもあり、目的地が内陸部にあるため1200kmという輸送距離の半分を陸路で移動しなければならないことだ。総重量12,582トンを、のべ1100軸の多軸トレーラが支え、115台のSPMT(自走式多軸台車)が投入された。その大半はドイツのゴールドホファー製だった。

超重量物の側方ROROはインドで初めて行なわれた。スペースに余裕がない上、潮の影響でスピーディに作業を終える必要があった

 荷は海路でグジャラート州のマンドラ港に集められ、その先は陸路となる。船舶への積み込み・積み下ろしは、通常は大型クレーンで行なうが、今回はインドの輸送史においてはじめて、超重量物の側方ロールオン・ロールオフ(RORO)が行なわれた。

 ROROは台車ごと船に載せる輸送方式のことで、港での荷扱いを省くことで輸送期間を短縮することができる。一般的なRORO船はトラクタでランプウェイを通ってシャーシ(台車)を積み込むが、ランプは急坂で重量物は超えることができない。

 そこで、接岸したバージ(自走台船)と岸壁の高さを合わせ、両者の間に鉄板を渡してバージの側方から自走台車で乗り込むことにした。当然ながら潮位・潮流と波の影響を受けスペースにも余裕がないため、ごく短時間に正確な操縦を行なわなければ、荷ごと海に転落しかねない「エクストリーム荷役」だ。

 海路でマンドラ港に運んだ荷物は港で一時保管し、2022年12月より7つのコンボイ(車列)を編成し、ラジャスタン州の石油化学複合施設に向けて陸路での輸送を開始した。

最大の試練は陸路に!?

鉄道との平面交差を通過するには線路を養生して架線を取り外す必要があった。当然ながら電力供給は止まり、鉄道は運休となる。鉄道との交差は合計6か所あった

 超重量物の陸送は、基本的に徐行だ(速度による軸重制限などがある)。また、先導車や資機材の運搬用の車両など、多くの車両を伴う。600kmの長距離・超重量物輸送には、やはり多くの困難が待ち構えていた。

 鉄道との平面交差はグジャラート州に5か所、ラジャスタン州に1か所あり、インド鉄道との事前調整が不可欠だった。通行のために架線を撤去する必要があり、そのためには電車と電力供給を止める許可を得なければならない。鉄道以外の電力網でも、コンボイを通過させるための計画停電は1000回に上ったという。

 巨大な荷物を通すため道路標識などは全て取り外され、暗渠は内部からも補強した。案内板・架線・その他の小さな構造物もすべて移動したが、重量物輸送の専門企業であるプリズムの技術者にとって、こうした作業は慣れたものだった。

 最大の挑戦はナルマダ運河を超えることだった。この川はラジャスタン・グジャラートの両州に送水しているが、重量物が川を超えるには仮設僑を建設する必要があった。そのために当局と協議のうえ、15日間だけ送水停止が認められた。そして、記録的な短時間で2つの鉄製仮設僑が架けられ、安全な通行を確保した。

この輸送のためだけに、いくつもの橋を架けた。運河からの取水停止を伴うため、政治的な駆け引きもあったようだ

 もう一つの挑戦がグダマラン・バロトラ間の135kmに及ぶ片側一車線区間だった。2kmのコンボイがここを通行すると、一般交通に多大な影響が及ぶため、プリズムはルニ川を渡るバイパスを建設するなどして交通への影響を最小限にとどめた。

 こうして1年に満たない364日で、34の超重量物全てを事故なく輸送した。重量物輸送は年単位の長期計画となることも珍しくないため、驚異的な早さだ。慎重な計画と政治調整・折衝、革新的なソリューション実現のために約400名の専門家(エンジニアや建築士など)のほか、輸送の様々な段階で数千人に及ぶ労働者が関与し、社会・経済的にも大きな雇用機会を生み出したそうだ。

 様々な課題を克服し成功裏に終了した、インド史上最大規模の複合輸送プロジェクトに、経済発展も著しいインドの熱気を感じる。

 なお、プリズムはこの輸送に関するケーススタディを公開している。(「驚異的な物流:ユニークな複合輸送プロジェクトの課題克服」)

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