クルマと道路は切っても切り離せないもの。交通ジャーナリストの清水草一が、毎回、道路についてわかりやすく解説する当コーナー。今回は、近年増えつつある首都高上での車両火災について考察する!

文/清水草一、写真/フォッケウルフ、首都高速道路、資料/首都高速道路、消防庁

■この夏、首都高上で車両火災が多発!

 首都高速道路は、首都高上で車両火災が増えているとのプレスリリースを発表した。それによると、今年度は7月までに9件と、2023年度の同時期に比べて倍増している。

 昨年8月は5件と、月間では飛び抜けて多かった。気温が上昇する時期は車両火災が多く発生する傾向にある。8月も間もなく終わるが、近年残暑が厳しいため予断を許さない。

 首都高によると、車両火災が発生する原因の多くは、オーバーヒートやオイル漏れなどによるエンジン部からの出火で、その他、タイヤのバーストから火災に至るケースもあるという。

車両火災の様子。乗員の命を守ることは何より優先すべきだが、同じ道路を通行する人々にとって迷惑となっていることも忘れてはならない

 車両火災が発生すると、消火活動や道路施設の復旧作業等のため、平均4時間程度の長時間の交通規制の必要が生じ、周辺交通に多大な影響を及ぼしてしまう。

 2008年8月に首都高・熊野町JCTで発生したタンクローリ横転火災事故では、積み荷のガソリンや軽油が5時間半にわたって燃えたため、高速道路施設に甚大な損害が生じ、全面復旧までに2カ月以上を要した。この時首都高が受けた損害は、復旧費用20億円、料金収入25億円、合計45億円。事故を起こした運送会社は、最終的には破産に追い込まれた。

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■車両火災の原因第1位は?

 近年、クルマの信頼性は極限レベルに達している。「今どき車両火災なんて起きるの?」「燃えるのはフェラーリやランボルギーニだけじゃないの」と思ってしまう部分もあるだろう。

 消防庁によると、車両火災の年間発生件数は、2021年で3512件。10年前は5000件強だったので、確実に減ってはいるが、まだ意外なほど多い。フェラーリやランボルギーニが燃えれば「やっぱり!」という感じでニュースになるが、その他のクルマの火災をニュースにしていたらキリがないほどしょっちゅう燃えている。

全国の車両火災件数(年間)のデータ。出荷件数は徐々に減りつつあるが、被害額はそれに準じていないという

 さらに消防庁によると、車両火災の原因第1位は「排気管」で15.1%。漏れたオイルやガソリンが排気管にかかって炎上するパターンだ。2位は配線でいわゆるショート。3位は電気機器で、これもショート。2位と3位を合計すると16.2%で1位の排気管を僅差で逆転する。それ以下は放火やたばこの火などで、車両の故障ではない。

 オイルやガソリン漏れ、ショート、タイヤバーストなどは、定期点検を受けることである程度防ぐことができる。

 首都高速道路は、「ご利用いただくお客さまには車両火災の削減に向けて、冷却水やエンジンオイルの量、タイヤの劣化や空気圧の状態をご確認いただくなど、定期的に日常点検を実施していただきますようお願いいたします」とアナウンスしているが、定期点検はドライバーの義務。確実に実施したい。

■古いクルマを所有するなら知っておきたいこと

 ただ、きちんと点検を受けていても、クルマは古くなるだけで車両火災のリスクが増していく。オイルやガソリン漏れ、配線等のショートは、車両が古くなり劣化することで、発生確率が大きく上昇する。

 たとえば、私が所有するフェラーリ328(89年式)は、生産から33年後に燃料ホースの劣化でガソリン漏れが発生した。以前所有していた古いメルセデスも、生産から30年強でガソリンが漏れた。

 どちらも駐車場で漏れ始めたので、そのまま積載車に積んで整備工場行きとなり解決したが、どんなクルマもゴムや樹脂部品は徐々に劣化していく。さりとてホース類を定期的に全交換するかと言えば、そこまでやっている人は稀。ダメになってから交換するのが普通だ。

1980年代スーパーカーなどは、それほど頻繁に乗る人も多くないと思われるが、メンテには気を使いたい。車両火災を起こすと、ブランド名込みで報道されがち……

 配線等のショートも、多くは古くなって劣化することで発生する。こちらも、ただ古いだけで配線を全交換するなどちょっと考えられない。

 つまり、古いクルマ(10年10万km以上が目安)の車両火災は、通常の点検だけで防ぐことは難しい。古めの愛車を猛暑の中で走らせる場合は、少なくともクルマの状態には敏感でありたい。

 たとえば、ボンネットから湯気が漏れ始めた段階で気付けば、オーバーヒートによる車両火災は防げる。私はかつて、アルファロメオ155の電動ファンが電気系の不良で止まってオーバーヒートし、首都高三宅坂トンネル内のゼブラゾーンにクルマを止めざるを得なかったことがある。

 この時は水温計をまめにチェックしていたことで、エンジンの焼き付きや火災などの大事に至る前に対処することができた。ちなみにそのアルファは、まだ買って1年ちょっと。新車だからって絶対なにも起きないとは限らない(今の国産車ではまず起きないと思いますが……)。

 猛暑でのドライブは、エアコンの効いた車内にいれば人間は快適だが、クルマは過酷な状況にあることを忘れないようにしたい。

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