2013年6月24日、現在のスバル・クロストレックの前身・XVにハイブリッドモデルが加わった。スバル初のハイブリッドモデルとなった、そのデビュー目前に行われた、プロトタイプモデルでのサーキット試乗会の様子をプレイバックする。(本稿は「ベストカー」2013年7月10日号に掲載した記事の再録版となります)
文:鈴木直也/撮影:平野 学
■あえて4WDにハイブリッドを搭載して勝負!
今回、スバル初の量産ハイブリッド車となるXVハイブリッドのプロトタイプに乗ってみて、ボクはいかにも「スバルらしい」ハイブリッド車だなぁと感じた。
まず印象的だったのは、ハイブリッド車という前にスバルAWD、つまり4WDであることを重視している点を挙げておきたい。
ご自慢のシンメトリカルAWDや、最低地上高を200mm確保しながら他社のSUVモデルより100mm以上低い重心高など、インプレッサXVの魅力はすべて健在なのが嬉しいポイントだ。
今回の試乗ではオフロードを走るチャンスはなかったけれど、悪路走破性などのオールラウンド性能でユーザーの期待を裏切らない仕上がりとなっている。
ハイブリッドというと、ユーザーが期待するのは一にも二にもまず燃費性能になると思うけど、このXVハイブリッドは「燃費も大事だけど、そのために走りを犠牲にしたらスバルじゃないでしょ?」というスタンスが心憎い。
燃費MAXを狙うならエンジンは1.6Lにして、より軽量な2WD車とする選択肢もあったろうが、ユーザーがスバルに求めているのはソコじゃないという判断を下したワケ。その点はスバリストなら素直に喜ばしい点だ。
メカニズム的には、ハイブリッドシステムがシンメトリカルAWDと巧妙に融合しているのがスバルならではの特徴として挙げられる。
スバルが今回、XVハイブリッドに採用したハイブリッドシステムは一般的に「1モーター+2クラッチ」に分類されるタイプで、国産のハイブリッド車でいうとフーガハイブリッドの仲間になる。
だが、フーガがトルクコンバータを廃止してエンジン→モーター→7ATとしているのに対し、XVはエンジン→トルクコンバータ→CVT→モーターという配置にしている。
しかも、モーターはAWDトランスファーの手前にコンパクトに収まっている。
このシステムは、パッケージングやコストとの兼ね合いなどもあって、必ずしも100%エンジニアの狙いどおりになっていないフシもあるのだろうが、与えられた条件のなかではスマートな解を提示しているし、今後の発展性にも大いに期待ができる。
ただし、ちょっと微妙なのは「ハイブリッド車である前にスバルAWD」を実践した結果、いわゆる“ハイブリッド車っぽさ”がかなり希薄となってしまっていることだ。
例えば、キーをONにしてスターターボタンを押すと、XVハイブリッドはふつうにスターターモーターが回ってエンジンがかかる。
このあたりは、トヨタ系だと“スタンバイ”の表示点灯のみだし、ホンダ系なら走行モーターで「シュン!」とエンジン始動といった具合で、最初からハイブリッド独自のフィールが味わえる。
もちろん、メーターや表示されるディスプレイはハイブリッド車専用となってはいるが、個人的にはもうちょっと「サムシングエルス」がほしいと感じちゃうのだ。
実際に走り出してみても、XVハイブリッドはこの「ふつうの感覚」が続く。
XVハイブリッドの駆動用モーターは最高出力10kW(13.6ps)/最大トルク65Nm(6.6kgm)と小さめなものだから、アシストは発進から低速域が主体となっている。
実際には発進時などはけっこうモーターが頑張っているのだが、トルクコンバータ+CVTを介して感じる駆動感だとそれをあんまり実感できない。
今回の試乗は富士スピードウェイの構内とショートコースという設定だったが、わかってはいても公道と違ってついついアクセルを踏んでしまった。
インプレッサXVというクルマ自体、ハンドリングも乗り心地もこのクラスとしてはベストといえる優れたクルマだから、乗っていて楽しかったし、実に快適だなぁってな具合でゴキゲンではあった。
だけど、結果としてモーターよりエンジンが主体の走行ゾーンばっかり使っていることに後で気づくワケだ。
こういう走りをしていると、正直言ってXVハイブリッドのモーターの存在感は希薄。
例えば、フィットハイブリッドの場合、モーターアシスト率をスペックから計算すると出力が15.3%、トルクで64.4%の増強になる。これに対し、XVハイブリッドはそれぞれ9%と33.1%のアシストとなる。
これはあくまでも全開時の理論値となるのだけど、体感的にもフィットハイブリッドの半分くらいのブースト感というのが近いように感じるのだ。
ふだん初代インサイトの5MTモデルに乗っているボクの経験から言うけど、MTだとモーターが低速から発揮するトルクを強く実感するのに、途中にトルクコンバータやCVTが介在するととたんにその存在感が希薄になる。
モーターのトルク感を際立たせるには、トルクコンバータをロックアップしてCVTの低速側シフトを抑制するのが効果的だ。
SIドライブのエコモードでは、もっとモーターの存在感をアピールする制御モードがあってもよかったのかもしれない。
いずれにしても、スバルは「ファントゥドライブが実感できるハイブリッドシステム」と主張しているが、このモータースペックではそれは画餅、絵に描いた餅。
むしろ、スムーズな加速感や静粛でしなやかな走りのテイストをアピールしたほうがいいのではないかと思う。
また、今回の試乗では意外にエンジンが停止しないことも気になった。
同じ1モーター+2クラッチのフーガハイブリッドの場合は、高速巡航時でもアクセルオフでは即座にクラッチを切ってエンジン停止モードになるが、XVハイブリッドはその頻度がきわめて少ない。理論的には回生効率の面で損をしてるし、騒音/振動の面でもこれはあまり嬉しくない。
どうやらこれはモーター出力とバッテリー容量に原因がありそうだ。走行中にクラッチをつないでエンジンを再始動する場合、駆動用モーターがその間のトルク変動を吸収する必要がある。
日産がフーガハイブリッドで苦労したのはまさにこの点であり、モーターにはトルクの谷間を埋めるだけの瞬発力、バッテリーにはそれを賄う放電特性が要求される。
XVハイブリッドの10kWモーターと0.6kW/hニッケル水素電池には、それにはちょっと荷が重いというわけだ。
いっぽう、逆にスバルならではのハイブリッド車として今後に期待できるのが、アイサイトと連携した走りだろう。
残念ながら今回の試乗車には装備されていなかったのだが、アイサイトを搭載したモデルでは追従クルーズコントロール使用時により、積極的にEVモードを活用する制御モードを追加していて実用燃費を約10%向上させているという。
個人的には、XVハイブリッドは全車アイサイトを標準化して、その機能をフルに生かしたハイブリッド制御を目指すべきだと思う。
例えば、XVハイブリッドは2クラッチ方式だから、エンジンを切り離したEV走行が可能だ。ただ、バッテリー容量が小さいため、これを意図的に活用しようとすると、かなりデリケートなアクセルワークが必要になる。
それをアイサイトに任せて最適化できるとすれば、渋滞時の利便性はさらにアップ。アイサイトの追従クルコン機能がさらに魅力的になる。
なにはともあれ、スバルのハイブリッド第1弾であるXVハイブリッドには、スバルらしいユニークさとともにキラリと光る魅力があることは確認できたのだが、今は第2次ハイブリッドブームともいえる状況なだけに、ユーザーの目も肥えている。
こういう時に現状でとどまっていてはダメだと思う。この技術に磨きをかけ、さらにパフォーマンスを向上させたスバルハイブリッドの次期モデルを期待したいところ。
■スバルXVハイブリッド2.0i主要諸元
・全長:4450mm
・全幅:1780mm
・全高:1550mm
・ホイールベース:2640mm
・エンジン:水平対向2L DOHC+モーター
・モーター最高出力/最大トルク:13.6ps/6.6kgm
・駆動方式:4WD
・トランスミッション:CVT
・JC08モード燃費:20.0km/L
・価格:241万5000円
※XVガソリン車は219万4500円から
※数値はその車種の最高燃費を表示
■スバルXVハイブリッド価格表(※編集部調べ)
・2.0i……241万5000円
・2.0i-L……252万5000円
・2.0i-Lアイサイト……273万円
(写真、内容はすべてベストカー本誌掲載時のものです)
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