走り好きだとどうしてもATの変速はダルに感じてしまうモノ。DCTは基本的に高級外車にしかついてないしMTはちょっと億劫……。そんな悩みを解決するのがGRヤリスに新しく搭載されたDAT!! ATなのに変速は速くMTいらずのデキとの噂も! 実際に乗って十分なのか体感してきた。

※本稿は2024年8月のものです
文:岡本幸一郎、渡辺敏史、山本シンヤ、ベストカー編集部/写真:ベストカー編集部、トヨタ
初出:『ベストカー』2024年9月10日号

■ハイスペックなホモロゲーションモデルをATで楽しむ!

2024年1月にマイナーチェンジを受けたトヨタ GRヤリス。同時に8ATモデルが追加された

 GRヤリスは2020年1月の東京オートサロンで発表され、WRCのホモロゲ取得モデルという特殊なコンペティションモデルながら堅調な販売。

 そのGRヤリスは2024年1月にマイナーチェンジ。1.5L直3ターボは272ps/37.7kgmから304ps/40.8kgmにアップし、同時に8速ATが追加された。

 この8ATモデルは2月26日号で国沢光宏氏がプロトタイプを試乗。走り出すまでまったく興味がなかったという国沢氏だが、その楽しさにメロメロ。

 続いて7月10日号の『AT対MT』企画で、テストドライブした松田秀士氏はローギアードの8ATは6MTよりも山道でのピックアップが楽しめると絶賛。今回は岡本幸一郎氏、渡辺敏史氏、山本シンヤ氏が評価する。

●トヨタ GRヤリスRZ High performance(8AT)
・全長×全幅×全高:3995×1805×1455mm
・ホイールベース:2560mm
・車両重量:1300kg
・エンジン形式:1.6L、直3DOHCターボ
・最高出力:304ps/6500rpm
・最大トルク:40.8kgm/3250-4600rpm
・WLTCモード燃費:10.8km/L
・最小回転半径:5.3m
・価格:533万円

■レースでMTと同等に戦えるATどころか、それを上回る完成度:岡本幸一郎

1.6L、直3DOHCターボはマイナーチェンジ前の272ps/37.7kgmから304ps/40.8kgmにスペックアップ。最強の3気筒エンジン

 DCTが世に出て、当初はあたかも理想のトランスミッションのような言われ方をして、やがてそうでもないことがバレても、高性能車にはDCTという概念は不変。

 その頃から筆者は、ATを突き詰めたほうが、故障の心配が小さく、乗りやすく、戦闘力も高いものになるはずだとずっと思っていたが、進化型GRヤリスに設定された「GR-DAT」はまさしくそれだ。

 一般的にATだと遅れやすべりが気になるところ、MTと比べてもそん色ないほどダイレクト感があることにまず驚いた。

 あえて変速ショックを感じるように味付けされているので、自らの手で操っている感覚も強い。さすがはトルコン側に多板クラッチを組み合わせて全ギアで瞬時のロックアップを実現したというだけのことはある。

 ATだと心配な熱の問題についても、市販車でここまでやるかと思うほど万全に対策されているのも助かる。「レースでMTと同等に戦えるAT」を目指して開発したというが、実際にはずっと上回っているんじゃないかと思う。

 6速までのギア比がクロス気味なので、タイトなコースでも選択に迷う可能性が小さいところもいい。それでいて8速がハイギアードなので高速巡行時のエンジン回転がMTの6速よりもずっと低くなるのもありがたい。

●POINT採点チェック
・ハンドリング……9点
・加速性能……8点
・ブレーキ性能……8点
・乗り心地……7点
・運転のしやすさ……9点
・コストパフォーマンス……7点

■アクセル・ブレーキの操作に集中できるため、より速く走れる!!:渡辺敏史

ドラポジを25mm、センタークラスターの上端を50mm下げたことで前方視界が拡大。競技実戦からフィードバックして進化

 8速ATを手に入れてより開かれたクルマとなったGRヤリス。さりとて、家族で共有するようなブツではないことは明白で、街乗りもできる競技車両に「楽」というキーワードが加わっただけの話だ。

 街中で多用する速度域での乗り心地にザラ味が減ったのは、スポット増しや締結強化などの剛性対策が奏功しているのだろうか。速度域が高まれば上屋の動きはフラットさを増していくも、やはり車内は相変わらず騒々しい。そして時折踏む目地段差の鋭い突き上げが、そういう出自だとリマインドさせてくれる。

 そもそも楽するためではなく、速く走るために開発されたATが真価を発揮するのはいかにも日本の峠道的なタイトコーナーだろう。

 低回転域のトルクが厚くはないハイチューンの1.6L、3気筒ユニットの特性を、トルコンとワイドレシオとが巧くカバーしてくれるおかげで、加減速の繋がりはスムーズだ。そういったスポーツドライビング状態では、クルマ任せの変速でも攻めたギアを拾い続けてくれる。

 すでに速さはとんでも領域のクルマゆえ、ステアリングとアクセル・ブレーキの操作に集中して運転に没頭できれば、結果的に速さへのプラスとなる。対すれば6速MTは運転という行為を慈しみたい人への選択肢となるだろう。

●POINT採点チェック
・ハンドリング……10点
・加速性能……9点
・ブレーキ性能……10点
・乗り心地……5点
・運転のしやすさ……7点
・コストパフォーマンス……9点

■8速DATのDレンジでのパドル操作不要の完全自動変速が新鮮!!:山本シンヤ

サイドサポート性に優れたフロントシートもGRヤリスの魅力。街乗りでの快適性とスポーツ性を両立している

 エクステリアの変更はすべて機能のためですが、エボモデルらしいアグレッシブさがプラスされた印象。インテリアはインパネ刷新、シートポジション改善で、操作性が格段にレベルアップ。ただ、ジャパンタクシーっぽいデザインはもう少し頑張ってほしかった(笑)。

 エンジンは出力向上よりも、応答のよさとパンチのある力強さ、そしてレッドゾーンを超える勢いで回るフィーリングと、より野性味のある特性に。

 新設定の8速DATはDCTと錯覚するシフトスピードとダイレクト感に加えて注目はDレンジでパドル操作不要の完全自動変速で、コイツは新鮮。

 現状では走行条件でシフト制御が悩むところはあるが、MT同等に戦えるATに仕上がっていると感じた。

 ハンドリングはややじゃじゃ馬的だった従来モデルに対して、操作に対する反応は自然になっており、「ダイレクトなのに穏やか」という不思議な感覚。

 コーナリングの一連の流れの連続性も増しており、イメージ的にはGRMNヤリスの安定感と従来型GRヤリスのヒラヒラ感をバランスよく両立させた走り。より安心、より自由度が増した走りだ。

 総じて、進化型と言いながらその伸び代はフルモデルチェンジ並み。その伸び代に筆者は従来モデルから乗り換えた。

●POINT採点チェック
・ハンドリング……9.5点
・加速性能……8点
・ブレーキ性能……7.5点
・乗り心地……7点
・運転のしやすさ……9点
・コストパフォーマンス……8点

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。