2021年12月に営業運転を始めた、道路と線路を1台の車で走れる「DMV(デュアル・モード・ビークル)」。もうすぐデビュー3周年を迎える2024年の夏、ちょっと様子を見に現地へ行ってみた。

文・写真:中山修一
(阿佐海岸鉄道DMVの写真付き記事はバスマガジンWebもしくはベストカーWebをご覧ください)

■徳島県が誇る「世界初」の乗り物

一般道を通って阿波海南駅に入ってきたDMV。出入口に遮断機がある

 DMVが運行している場所は徳島県の南部。第三セクターの阿佐海岸鉄道が、自社の線路を活用して仕立てた新しいスタイルの乗り物だ。

 定期運行している区間の総延長は15kmほどあり、そのうち5kmが一般道路、10kmが線路の区間になっている。

 道路上は通常の路線バスと同じようにゴムタイヤで走り、線路の区間では車両の走行モードを「バス」から「鉄道」にチェンジすることで、そのまま鉄のレールの上を走れる、変形メカのような仕組みだ。

 道路と線路どちらも走行できる、バスのような乗り物の歴史自体は、国内外含めて90年以上と大変古い。

 とはいえ問題だらけで試作止まりだったり、手間がかかりすぎて結局は普通のバスとして運行されたりと、これまでうまく行ったものは殆どなかった。

 そんな中、工事・点検用を除いた、お客を乗せたまま素早くモードチェンジできる“軌陸両用車”が一般営業運転に就く=実用化に成功したのは、阿佐海岸鉄道のDMVが世界初とされている。

海陽町 海南庁舎に「世界初」を冠するDMVの横断幕が……

 DMVの見た目はマイクロバスとよく似ていて(トヨタ・コースターがベース車)、鉄車輪を格納するためのボンネットが先頭に取り付けられているのが特徴だ。

■ちょっと変わった利用の仕方

 遠方からDMVに乗りに行くなら、よっぽどの天邪鬼でもない限りはJR牟岐線の終点・阿波海南駅になるはずで、とりあえず阿波海南にしておくのが確実とも言える。

 ここのホームの隣にDMVの乗り場と、道路/線路のモードチェンジ場(阿佐海岸鉄道での呼称はモードインターチェンジ)があり、DMVのポータル的な役割を持つ場所だ。

阿波海南駅でJR牟岐線と阿佐海岸鉄道DMVが顔合わせする

 DMVも路線バスの一種に数えられる。それなら他のバスと同じ要領で、現地へ行けば好きなように乗れるかと思いきや、DMVは全席指定。高速バスと同じ方法で予約を入れるのが基本だ。

 これは座席の数が18席しかない、DMVの輸送力が深く関係していると思われる。せっかく来たのに満員で乗れない状況を防ぐ目的もありそう。ただし、当日席が空いていれば予約なしでも乗車できる。

 予約は大手の高速バス予約サイトで行う。サイト内で場所から検索する際は、出発地/目的地どちらも徳島県にすると簡単に出てくる。

■観光を視野に入れた路線バス

 下りのDMVは阿波海南駅から1kmほど離れた、阿波海南文化村からやって来る。利用者には阿波海南駅でイベントが用意されていて、道路を走行して到着したバスに乗ってから、モードチェンジ場へと移動する。

 お客を乗せたままモードチェンジできるのがDMVの醍醐味であり、外から見るのではなく、車内でチェンジ中の様子を楽しめる、ツボを押さえた仕掛けになっているわけだ。

ごく普通のマイクロバスとほぼ同じレイアウトのDMV車内

 モードチェンジは10〜15秒ほどで完了。駆動用に使う後輪のゴムタイヤをレールに密着させて、粘着力を稼ぐ必要があるため、車体がちょっとウイリーしたような姿勢を取る。車内にいても、飛行機の離陸時のような物凄く傾いた感覚はあまりない。

 鉄のレールに乗ってすぐに、DMVはスルスルと走り出す。鉄車輪は前と後ろ1軸ずつ・鉄道車両的には2軸車にあたる。

 走行中に奏でるジョイント音は、同じ四国の「しまんトロッコ」のトロッコ車両に近い。遊びの大きいゴムタイヤを駆動輪にしている特性から、左右に少し振れるのも独特な乗り味だ。

 DMV導入検討時点から観光目的を視野に入れているためか、普通の公共交通とはちょっと違う車内サービスが行われたのも印象に残った。

 運転手さんや便によって内容が違ったり、実施しない日もあると思うが、「あり」の際は、DMVにまつわる小話が聞けたり、撮影時間を設けてくれたりと、観光客フレンドリーな演出が嬉しい。

■あのレア要素まで持っていた!?

 鉄道パートの区間は阿波海南〜甲浦(かんのうら)までで、そこから先は走行モードをバスにチェンジして、一般道に出て海沿いを走る。

海が広がってくると終点までもうすぐ

 鉄道パートも含めて、青が映えるキレイなオーシャンビューを望めるバス路線の一つと言える。バス下り便の終点は、海沿いを通る国道55号線沿いの「道の駅宍喰温泉」だ。

 ここで注目すべきは、甲浦は高知県に位置する一方、道の駅宍喰温泉は徳島県にある、という点。

 甲浦〜道の駅宍喰温泉は道路パートのためバスモードで走行する。つまりこのDMVは、全国的に数が少ない、県境越え系路線バスの一面を持っているわけだ。

南側の始発/終点になっている、道の駅宍喰温泉

 一般路線バスでも高速バスみたいな予約制、不思議な形をしたバス車両、鉄のレールの上を走れて、観光特化型のサービスかつ景色良好、さらに県境まで越えてしまう……これだけユニークな要素がてんこ盛りになった路線バスも実に珍しい。

■「周回」できます

 DMVに乗って道の駅宍喰温泉まで行くと、そこから先(帰り)は折り返しのDMVしかないのか、と思いきや、ちょっと小技が使える。

 同じ場所を徳島バス南部の「牟岐線」が通っており、これを捕まえて乗ると、DMVの反対側の始発/終点の「阿波海南文化村」方面に向かえる。

徳島バス南部 牟岐線にはマイクロバスが使われている

 文化村に徳島バスの停留所はなく、近隣の病院(海南病院前)が停車ポイントになっているが、病院から文化村まですぐ歩いて行けるくらいの近さ。

 牟岐線を併用することで、DMVが走るエリアを「周回」でき、DMVをアトラクションの如く乗り回して遊ぶ、なんて贅沢な使い方も叶ってしまう。

 一般路線バスながらも普通のバスとは全く違う、テーマパークの遊具にも似た、非常に風変わりなオーラを放つ阿佐海岸鉄道DMV。

 物珍しさは抜きん出て高く、1度ならず2度や3度の利用では、物足りなく感じるかも知れない。この乗り物には、そんな奥深い楽しさや夢がいっぱい詰まっているように思える。

阿波海南文化村がDMV北側の始発/終点

【バス路線の基本データ】
阿佐海岸鉄道 DMV(阿波海南文化村〜道の駅宍喰温泉)
・跨ぐ県:徳島県 → 高知県
・移動距離:約15km(定期ルート)
・所要時間:約34分
・運賃:800円
・停留所の総数:7
・高知県内の区間距離:約2.7km
・高知県内の停留所の数:2

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