この度、日米で2023年版のトラックドライバーの賃金調査が相次いで公開された。米国ではトラックドライバーの年収は職種により1100~1400万円(日本円換算)だという。日本のドライバーとは、絶望的な差が開いてしまった。
その米国でもドライバー不足は課題となっている。ドライバーの賃上げに本格的に取り組まないと、「物流の2024年問題」は悪化するばかりではないだろうか?
文/トラックマガジン「フルロード」編集部
図表/フルロード編集部・全日本トラック協会
写真/ Daimler Truck AG・Western Star
米国のトラックドライバーの給与は2年で約10%の上昇
米国トラック協会(ATA)は2024年9月3日、最新の2023年版ドライバー賃金調査(Driver Compensation Study)をリリースした。文字通り米国のトラックドライバーの賃金実態を調べたもので、前回調査(2021年版)からは2年ぶりとなる。
調査は、運送会社の従業員ドライバー(カンパニー・ドライバー)15万人と、IC(独立コントラクター)1.4万人を対象に行なわれた大規模なもので、米国のトラックドライバーの賃金の実態をかなり正確に反映したものと思われる。
完全版のレポートは有料だが、プレスリリースにおいてその内容の一部が公開された。
後述する通り、米国のトラックドライバーの平均年収は日本円にすると全職種で1000万円を大幅に超えている。運送業の市場環境が困難さを増すなか、ドライバーの賃金・報酬は上昇が続いているようだ。
なお、日本のトラックドライバーはほとんどが運送会社に所属し、会社員としてトラックに乗務するが、米国では自らトラックを所有し、ICとして貨物ブローカーや荷主から仕事を引き受ける個人事業主(オーナー・オペレーター)が、運送業において一定の役割を担っている。
ICは、運賃収入の中から車両の購入費、保険料、燃料代、メンテナンスコスト、税などを自ら支払う必要があるが、一般論としてカンパニー・ドライバーより稼げるため、運送会社で経験を積んだ後、独立するドライバーが多い。
最近は労務管理などの観点から、米国でもIC/オーナー・オペレーターに対する規制が強まる傾向にある。
2023年のドライバーの年収は?
2023年の米国のトラックドライバーの賃金は、おおむね次のようになっている。すべて年間の中央値で、各職種の中央値の平均は日本円にして約1241万円となる。
・トラックロード : $76,420 (約1095万円)
・LTLの路線便 : $94,525 (約1350万円)
・LTLの地場輸送 : $80,680 (約1156万円)
・自己運送 : $95,114 (約1363万円)
・ICの年間売上げ : $186,016(約2665万円)
若干の解説を加えると、「トラックロード」(あるいはFTL)はトラック・トレーラ1台分の輸送力の対価として運賃を収受する輸送形態で、日本の「一般貨物」に相当する。
「LTL」(Less than Truckload)は、複数の荷主の商品などトラック1台分に満たない小口貨物の積み合わせで輸送力を提供する形態で、日本でいえば「特別積合せ貨物(特積)」などがこれに相当する。
また、「自己運送」(プライベート・キャリア)は、メーカーが自社の保有トラックで自社の貨物を運搬する形態で、製造業の物流部門のことだ。ICは先述の通りで、売上げから経費等を引いた額が収入となる。
トラックドライバー不足は日本のみならず世界的な課題となっているが、米国では新人ドライバーの「紹介料」や「就職一時金」の支給が縮小するいっぽう、在職中のボーナスは拡充する傾向にあるという。
ATAのチーフ・エコノミストを務めるボブ・コステロ氏は、プレスリリースにおいて次のようにコメントしている。
「前回の2021年調査は、貨物運送業界の市況が史上最も強いとされるなかで行なわれました。今回、運送業の景況感は悪化しているものの、賃金は前回同様に伸びています。新規ドライバーの確保が難しくなるなか、現職のドライバーに対するボーナスを拡充するなど、リクルート(人員補充)からリテンション(人員保持)へ、プライオリティが変化しています」。
いっぽう、ATAのクリス・スピアCEOのコメントは次の通りだ。
「トラック運送業は、今日の米国経済において、学位を必要とせず、借金を負うリスクも犯さずに中流階級に至る数少ない道の一つです。今回の調査が示しているように、プロのトラックドライバーとしてのキャリアを目指すことで大きな収入を得る可能性があります。ドライバーの需要は高止まりしており、今後数年間はさらに成長し続けると思います」。
日本もドライバーの賃上げに取り組む必要がある
日本では全日本トラック協会が「トラック運送事業の賃金・労働時間等の実態」調査を実施しているが、2024年9月13日に2023年度版が公開された。それによると、賞与・手当込みの1か月平均賃金は一般貨物で37万2200円、特積みで36万0500円だった。年間(12か月)になおすと、単純計算でそれぞれ446万6400円、432万6000円だ。トラック運送業全体の平均賃金は、前年比で1.3%の「減少」だった。
平均年収が1100~1400万円という米国トラックドライバーの実態は、日本のドライバーからしたら「うらやましい」の一言ではないかと思う。なぜここまで差が開いてしまったのか?
社会保険と税金、インフレ率、経済成長率、輸送の需給ギャップ、為替の影響もあるので単純に比較はできないが、日米の商慣習の違いは指摘するべきだろう。一般に米国はメーカーの出荷価格に運賃が加算され小売価格が決定する「足し算」、日本は最終価格から運賃が差し引かれる「引き算」方式とされる。
このため米国では進行するインフレがドライバーの賃金に反映されやすく、反面、物価高が消費者の家計を直撃する。対して日本は物価の変動が抑えられ、(消費者としては助かるが)インフレがドライバーの賃金に反映されにくい。
また、メーカーとしては原材料費の高騰はともかく運賃を理由にした値上げが難しく、運送会社自らが積極的な価格交渉を行なわないと運賃が上がらない=ドライバーの賃上げ原資が確保できないという構造が、日本の運送業界にはある。
とは言え、「物流の2024年問題」に代表されるように、日本のトラックドライバー不足は米国以上に深刻で、社会的な課題にもなっている。これ以上日米の差が広がらないよう、ドライバーがその労働に見合った賃金を受け取れる環境の整備に取り組むことは、運送業界以外にとっても重要なのではないだろうか。
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