2021年12月、道路と線路の両方を走れる「DMV」が登場した阿佐海岸鉄道線。既存のインフラを活用できるのがDMVの長所と言われているが、普通の鉄道だった時代と比較してみると、どうも“そのまま”使えるわけではなさそうだ。

文・写真:中山修一
(2013/2024年の設備対比写真付き記事はバスマガジンWebもしくはベストカーWebをご覧ください)

■線路はあえて繋げません

「世界初」の乗り物・阿佐海岸鉄道DMV

 阿佐海岸鉄道DMVは、徳島県の阿波海南文化村〜道の駅宍喰温泉間およそ15km(定期ルート)を結ぶ、路線バス/鉄道のハイブリッド路線だ。

 ルートのうち、途中の阿波海南(あわかいなん)〜甲浦(かんのうら)間の約10kmが鉄のレールの上を走る区間で、両端にあたる区間は一般道を走行する。

 このため、阿波海南と甲浦には、DMV車両の走行モードを、バス/鉄道のいずれかに切り替えるための設備(モードインターチェンジ)が備わっている。

DMVのスペースが広く割かれたJR阿波海南駅隣

 阿波海南の隣には、JR牟岐線の阿波海南駅がある。DMVができる前、阿佐海岸鉄道線が普通の鉄道だった頃はJR線の標準的な途中駅で、次の海部(かいふ)駅が終点になっていた。

 DMV化した現在は、JR牟岐線の阿波海南〜海部駅間が廃止になり、阿波海南駅がJR線の終点に変わった。

 駅施設の全体像を見ると、駅ホームと以前からあった駅前交流館(待合所とトイレ)に追加する形で、広々とスペースの取られたDMVの乗り場兼モードインターチェンジが作られている。

 鉄道の線路というものは、運行会社が異なっていても、何かあった際に車両の通行ができるよう、各社の線路の境界にポイントを設けて、レールだけ物理的に繋げておくのが慣例と言える。

 しかし阿波海南駅周辺を観察してみると、以前は海部方面へと繋がっていたJR線の線路が50m分ほど撤去されて、阿佐海岸鉄道線のレールとは一切繋がっていない様子が確認できる。JR線側のレール末端には車止めが置かれている。

阿波海南駅の線路配置。左がDMV、右がJR牟岐線

 DMVと一般鉄道とでは、運転保安システムが異なる点も関係してくるはずで、JR線との相互乗り入れは最初から想定していないと思われる。

 一方でDMVは道路も走れる(何か起きても車両の逃げ道が確保されている)ため、レールを常に繋げておく必要があまりないのかもしれない。

■低いほうが乗り場です

 阿波海南駅から1.5kmほど南下した場所にあるのが海部駅だ。この駅は開業当初から高架の上に作られている。JR線の終点だった時代は、ここが阿佐海岸鉄道線との乗り換え地点だった。

海部駅でJR牟岐線と阿佐海岸鉄道線が並ぶ(2013)

 海部駅まで歩いて行って、外から見た限りでは以前とそれほど変わっていない印象。ところが階段を登ってホームに出てみると、何やら見慣れない設備が増えていた。

 マイクロバスをベースにしているDMVの車両は、裾(ドア)の位置が鉄道車両よりもずっと低く、通常のプラットホームは背が高すぎて使えない。

 そこで、DMV専用の低いプラットホームが、今もそのまま残る既存のプラットホームの端・阿波海南寄りに新規で作られている。雰囲気的には路面電車の電停とちょっと似ている。

DMV専用ホームが増設された海部駅(2024)

 また、2面2線構造の海部駅には、阿佐海岸鉄道で以前使われていたASA-100形ディーゼルカーが、使われなくなった側の番線に停められている。

 よくよく眺めてみると、以前はあった本線へのポイントが撤去されていて線路は繋がっておらず、そこに置かれたディーゼルカーはもう取り出せない状態、正真正銘1/1スケールの置き物になっていると気づいた。

 これはDMVの車体重量が、鉄道として見ると軽すぎ(ASA-100形が27.5tに対してDMVは約7t)、ポイントがあると通過時に脱線する可能性が高い……

……という事情からポイントを取り除いたため、2024年7月現在のところディーゼルカーが置き物化している経緯があるそう。

海部駅に置いてあるディーゼルカーはご覧の通り封じ込め(2024)

 また、海部駅の少し手前に鎮座している、元々山があってトンネルが掘られたものの、その後開発によって山が全部なくなり、トンネルのコンクリ部分だけ残ってしまった謎の構造物(トマソン)は今も健在だ。

2013年当時の海部駅から阿波海南駅方面を見た様子。奥にあるトンネル(の、ようなもの)が有名な例のアレ

■準備工事が活かされた!?

 最後に以前と比べてみる場所が、阿佐海岸鉄道線の鉄道パートの終点・甲浦だ。甲浦も海部と同じく高架上に作られており、現在は旧プラットホームが残っているほか、モードインターチェンジが新たに設置された。

室戸岬方面から来た高知東部交通の路線バスが、甲浦駅で阿佐海岸鉄道線に接続(2013)

 阿佐海岸鉄道線のルーツは国鉄に遡り、当初は高知県の奈半利〜後免駅方面までレールを延ばす計画であったが立ち消えとなり、その後甲浦が終点に落ち着いた。

 ただし工事自体は計画復活の可能性も考えてあったようで、一般鉄道だった時代の甲浦駅は、高架が途中でプッツリ切れる形になっていて、将来すぐ延伸できるよう準備工事の跡が窺えた。

 階段でアクセスする高架の下には待合所とトイレがあり、一般鉄道時代には高知東部交通の路線バスが駅前まで乗り入れていた。

 DMV化後に外見が劇的に変わったのは、この甲浦がダントツだろう。前述の通り、旧プラットホームはそのままで、アクセス階段や待合所の建物も昔と同じ。

 それでも見た目が全然違うと思える最大の要因はアプローチ道路の存在。甲浦は高架ということで、DMVを平地に戻す/平地から高架に上げる必要がある。

待合所を包み込むようなDMVのアプローチ道路(2024)

 そのため高架の端に「J」の字を描く、コンクリ製のアプローチ道路を連結させて対応している。鉄道向けに用意しておいた高架の“準備工事”が、DMVになってとうとう活きたとも思えてくる。

 大きめなホームセンターの立体駐車場くらいの規模で、けっこうな迫力。DMVの乗り場は高架上でなく、アプローチ道路の出入口の手前に置かれている。

 DMVになって以降、高知東部交通の路線バスは甲浦に立ち寄らなくなり、DMVとの主要乗り換え停留所は約1km先の「海の駅東洋町」に移った。

 既存のインフラを活用できるのがDMVの長所、と話に聞いてはいたものの、実際にお客を乗せて走らせようとするなら、似て非なる物に化けるほど手を加えなければ日の目を見ないと、現地を観察してみてつくづく痛感させられた。

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