船を動かす装置といえば、スクリュープロペラを思いかべる人が多いだろう。小型の船舶から大型の貨客船、軍艦など、さまざまな船で採用されている。しかし、実はスクリューにはいくつもバリエーションがあることはあまり知られていない。また、スクリュー以外にも推進装置には種類があり、それぞれに特徴と向いた用途がある。本稿では、知っているようであまり知らない、船を進める推進装置について紹介していく。

文・イラスト/坂本 明、写真/海上自衛隊、US Navy

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■最も多用されているスクリュープロペラ

アメリカ海軍のアーレー・バーグ級駆逐艦「ベインブリッジ」のスクリュー・プロペラ。ブレードにはスキュー(先端を捻って後退角を付けている)が施されている(出典:アメリカ海軍)

 最も一般的な推進装置はやはりスクリュープロペラだ。19世紀半ばに発明され、改良が加えられながら今日まで使用されており、軍艦から民間の船舶まで多用している。

 長い間、最も多用されている推進装置なので、船舶には一番適しているといえなくもない。

 スクリュープロペラは水中で回転すると、プロぺラが水を排除し、その反動として進むための推力が得られる。そして水が排除された後にはそこを埋めるために反対側から水が流入し、ふたたびプロペラで排除されるという繰り返しによって船は進んでいく。

 このときプロペラの動きはネジと同じで、1回転するとネジ山が1つ分進む。この距離はピッチと呼ばれる。ピッチは船の用途や搭載する動力機関の出力に応じた大きさが必要で、機関の出力が大きくてもピッチが小さければ出力を十分推力に変換することができないし、逆にピッチが大きすぎても推進に必要な回転が得られない。

 また推進装置が船の後部に取り付けられるのは、少ないパワーで効率良く船を推進させ、燃料を節約することができるからだ。

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■船の高速化を妨げるキャビテーション現象

 一方、スクリュープロぺラ自体の効率という点からみると、回転数が速ければブレードの枚数が少ないもののほうが推進効率がよい。

 そこで動力機関の速い回転数に対応できるようにブレードの枚数を設定し、機関の回転数を落としてもブレードのプロペラのピッチを状況に応じて変えることで必要な推力を得られるようにした可変ピッチ・プロペラというものもある。

 このプロペラはピッチを逆にすることで、機関を逆回転させなくても後進することができる。

 またプロペラの効率を高めるために回転方向が逆な2つのプロペラを取り付けた二重反転プロペラというものもある。

 ところで、スクリュープロペラを高速で回転させるとブレード先端で流速が非常に速くなって圧力が急激に低下することから水中に気泡が発生する。それがキャビテーションと呼ばれる空洞現象。中低速で航行する船舶の場合はあまり関係ないが、高速で航行する船舶では大きな問題になる。

 これによってプロペラの推進効率が低下して船の速度の高速化をはばむ。さらには激しい振動や発生した気泡が急激に潰れることでエロージョン(侵食)と呼ばれるブレード表面が侵食される現象も起きるのだ。これによりプロペラがボロボロになってしまう場合もある。

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■キャビテーションを防ぐハイ・スキュー・プロペラ

 ではキャビテーションをどう防ぐのか。結論からいうと、スクリュープロペラではキャビテーションを完全になくすことは難しい。

 そこで大量にこれが発生することを防ぐためにブレードを細長くして後退角を大きく取り、ブレードが徐々にキャビテーションの中に入っていくようにすることで、先端付近で生じるキャビテーションを抑える。

 このようなスクリュープロペラをハイ・スキュー・プロペラといい、プロペラの回転で生じる振動や騒音を減らすことができる。そのため比較的高速で航行し低振動が望まれる艦船などで多様されている。

 ハイ・スキュー・プロペラといえば潜水艦が使用していることで有名。潜水艦の探知技術が発達し高性能なソナーが使用される現代にあって、潜水艦にとって静粛性は必須。プロペラの発する騒音や振動音は簡単にソナーで探知されてしまうからだ。ハイ・スキュー・プロペラの技術を極限まで突き詰めたのが潜水艦のプロペラなのである。

 またブレード断面の前端を薄く、後端を厚くして、キャビテーションで生じる気泡でブレード全体を覆うようにして推進効率の悪化を防ぐスーパーキャビテイング・プロペラというものもある。これは高速船で使用される特殊なプロペラである。

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■高速船に使用されるウォーター・ジェット推進装置

 ウォーター・ジェット推進は、主機で駆動する高圧ポンプで船底から吸い上げた海水をポンプ内に設置されたインペラ(高速で回転する羽根車)で加圧し、ノズルから後方へ高速で噴出する反力で船を推進させる装置。

 ウォーター・ジェットはポンプ内が高圧のためキャビテーションの問題がない。また、推進機の取り付けの自由度が大きく、ジェットの噴流の吹き出し方を変えることで操船が容易に行なえること、プロペラのような回転流がなく、低速時でも最大出力を出せるなどの利点がある。

 高速での航行を重視する船舶に使用されることが多く、軍艦ではアメリカ海軍のフリーダム級やインディペンデンス級沿海域戦闘艦、海上自衛隊の1号型ミサイル艇、はやぶさ型ミサイル艇、民間船舶ではナッチャンRera(東日本フェリー)やセブンアイランド(東海汽船)などで使われている。ちなみに1号ミサイル艇やセブンアイランドはウォータージェット推進と水中翼を組み合わせたジェットフォイルになっている。

 またアメリカ海軍のシーウルフ級やヴァージニア級、ロシア海軍のボレイ級などの原子力潜水艦で使用されているポンプジェット・プロパルサーと呼ばれる推進装置があるが、これもウォーター・ジェット推進の一種。スクリュープロペラを円形シュラウドで覆うことで推進効率を高め高速を出すことができ、さらに静粛性も高いという利点がある。

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■船の動きを細かく制御できる推進装置

 船舶を推進させるだけではなく、プロペラの方向を変えることで船の動きを細かく制御できる推進装置もある。

 これらは正確で細かな動きが必要とされる掃海艇やタグボート、消防艇、潜水救難艦などの特殊用途の艦船に使用されることが多かったが、近年では民間の船舶にも使用されるようになった。

<ポッド式推進器>
プロペラと電動モーターを一体化してポッドに収納し、船尾の船底に吊り下げた推進器。船内に置かれた発電機で発生させた電力で電気モーターを駆動させプロペラを回す。旋回駆動部により360度回転が可能なので舵の役割も果たす。もとは砕氷船用に開発された装置。

<ノズルプロペラ>
推力を生み出すプロペラと動力を伝達するギアケースを一体化して円筒形のノズルで覆い、上部に360度旋回できるように油圧モーターなどの旋回装置を取りつけたもの。推力を30~40パーセントほど増加させることができる。プロペラを回転させる動力機関は船内に置かれている。

<シュナイダープロペラ>
回転面に対してブレードが垂直に取り付けられており、ブレードの角度を変えることでスクリューと舵の機能を兼ねることができる推進装置。直進性に劣るが、旋回性や制御性に優れており、この装置を装備した船舶は船首を中心とした360度急旋回や反転が可能。

<サイドスラスター>
艦首や艦尾の狭い部分に設置され、船を横方向に動かすための装置。船体の左右を貫通するようにトンネルを設置し、内部にプロペラを取り付けて船体を左右に動かす水流を作る。海自のもがみ型で護衛艦に初めて採用されている。

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