2024年5月にトヨタとスバル、マツダの3社が行ったマルチパスウェイワークショップにおいて、スバルは、トヨタのハイブリッドシステムとスバルの水平対向エンジンを組み合わせた、待望のストロングハイブリッドを搭載したクロストレックハイブリッド(仮)のプロトタイプを公開した。エンコンレイアウト的にフルハイブリッド化が難しいことから、消滅してしまうのでは、とされていた水平対向エンジンの続行が示唆され、安堵しているファンは多いだろう。

 ただ、水平対向エンジンの窮屈なエンコンレイアウトは、この先もスバルを苦しめることになるはず。スバルの大崎篤社長は、「スバルのアイデンティティである水平対向エンジンとAWDは今後も続ける」としたが、はたして、スバルの強みは水平対向エンジンだけなのか!?? 考えてみよう。

文:吉川賢一/写真:SUBARU

延命方策が示された一方で、BEV比率向上も目指すスバル

 2024年5月のマルチパスウェイワークショップでスバルが発表したのは、電気エネルギーとエンジンの駆動を制御するPCU(パワーコントロールユニット)を、吸気系のレイアウトを変えた水平対向エンジンの真上に配置した、次世代ハイブリッドシステムだ。従来の北米向けハイブリッドユニットをコンパクト化し、ガソリン車と同等のタンク容量を確保しているという。今後は、カーボンニュートラル燃料にも対応する検討も進めるとのことで、水平対向エンジンの延命方策が示されたかたちとなった。

 ただスバルは、バッテリーEV比率の向上も発表しており、「2030年にグローバル販売台数(120万台)の半分(60万台)をバッテリーEV化する」ことを目標としている。2024年9月6日には、スバルが2020年代後半から生産する計画のBEVに搭載する、パナソニックエナジー製の次世代車載用円筒形リチウムイオン電池の製造工場を、日本国内に新設する旨も発表している。

 現時点、BEVのソルテラ(とOEM車)を除いて、すべてのスバル車に搭載されている水平対向エンジンだが、バッテリーEV比率が増えれば、当然、水平対向エンジンの搭載台数は減っていく。アイデンティティを延命させる方策は示されたものの、一方でそのアイデンティティの搭載台数を減らしていく判断もスバルはしているわけであり、この判断に疑問を感じているスバルファンは少なくないだろう。

水平対向エンジンにトヨタのTHS-IIを組み合わせたパワーユニットを搭載した、クロストレックハイブリッドのプロトタイプ
水平対向エンジンの前上にレイアウトしたパワーコントロールユニット。これにより、コンパクトかつ既存の水平対向エンジンを活かしたハイブリッドユニットをつくることができた
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必ずしも環境に向いていないとしながらも、今後もつくり続ける覚悟を表明

 水平対向エンジンは、(ポルシェを除いて)量産車メーカーではスバルだけがつくり続けているエンジンだ。水平対向エンジンが生き残るためには、まずスバルが生き残らなければならず、スバルが生き残るためには、カーボンニュートラル、つまり電動化は必須。産油国である米国がメインマーケットだとしても、これは避けられない。

 スバルの藤貫哲郎CTOも、先の発表会で、「効率化を求めると、水平対向エンジンは必ずしも環境に向いているとはいえない。ただし、水平対向エンジンをなくしたときのスバルとは何なのか。量産車で水平対向エンジンをやっているのはスバルだけだ。バッテリーEVでもスバルらしさを目指していくが、合わせて水平対向エンジンもしっかりつくっていきたい」と発言している。水平対向エンジンを造り続けるためにも、バッテリーEV比率を上げる方策を採らざるを得ないのだろう。

米国スバルでもっとも売れている「クロストレック」。コンシューマーリポートでは、走破性の高さと使い勝手の良さ、耐久性、信頼性など、総合評判がすこぶる高い
スバルのバッテリーEV「ソルテラ」。米国では2023年に約8800台が売れている(日本では631台)

スバルの強みはほかにもある!!

 それにスバルには、水平対向エンジンのほかにもアイデンティティがある。スバルは、グローバル販売のうち約66%が米国という、米国で人気のあるメーカー。日本よりも多くの自動車メーカーがクルマを販売している米国で、これだけスバルが奮闘している背景には、SOA(スバルオブアメリカ)が2008年ごろから行っている「Loveキャンペーン」がある。

 Loveキャンペーンとは、ユーザーの気持ち・価値観に寄り添った様々な取り組みを行うというもので、スバル車での楽しいカーライフをイメージできる画像や動画を公開したりするほか、年末のホリデーシーズンには、スバル車を購入したユーザーが選んだ慈善団体に、スバルが寄付をするという仕組みもある。この取り組みに共感した米国ユーザーによって、スバルは支えられており、こうしてスバルが、米国の人々の生活のなかに溶け込み「SUBARUは他メーカーとは違う存在だ」と認知されたことは、水平対向エンジンと同じくらい大きな、スバルのブランドアイデンティティであり、スバルの財産だ。

 もちろん、コンシューマーリポートなどでクルマの完成度のよさが認知されたこともスバルが米国で売れている要因だが、それもLoveキャンペーンによってブランドイメージが向上していることが少なからず影響しているだろう。

 いまスバルは、日本のテレビCMでも「安全性」をアピールする内容を提供している。家族や仲間など大事な人を乗せるクルマにとって、安全性は必要なことであり、機能的価値である一方、情緒的価値でもある。水平対向エンジンに加えて、情緒的価値というアイデンティティを手に入れたスバルは、今後も大いに国内外で活躍してくれるだろう。

SOA(スバルオブアメリカ)が、2008年ごろから行っている「LOVE キャンペーン」。犬を使ったCM放映やその関係団体への寄付、環境活動、教育支援など、様々な慈善活動に取り組んでいる

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