トヨタのAIの研究開発をしているTRI(Toyota Research Institute)CEOのギル・プット博士が「交通安全と人生の意義」と題した講演を行った。そこから見えてきたのはまったく新しい自動運転の姿だった

文:ベストカーWeb編集部/写真:ベストカーWeb編集部、トヨタ

■ロボットが学習する大規模行動モデルを開発中

TRIのCEOを務めるギル・プラット氏はアメリカ国防総省の研究機関でロボット開発の責任者を務めた経歴を持ち、生成AIによって自動運転に楽しさという要素をもたらすと語る

 昨年TRIはロボットに新しいスキルを時間をかけずに教えることを可能にする画期的な生成AIの手法を開発した。ChatGPTのような大規模言語モデル(LLM)の行動版といえ、ロボットの大規模行動モデル(LBM)の構築が可能になるものだ。

ケチャップを洗い流すことだと学習するロボットは洗い終わって水も止める

 TRIの開発したロボットは道具を使って皿を洗ったり、ビニール袋のジッパーを開け果物を移したりと、複雑な作業を何回か失敗しながらも、タスクをしっかりと達成させている。プログラムのコードを変えることなく、データを与えるだけで、ロボットはカメラ映像と触覚センシングを使って学習し達成していく。

 つまり、人間がロボットにさまざまな動作を教えることによってロボットが自ら学んで行動できるようになるのだ。これを使えばロボットはさまざまなスキルを迅速にマスターできるといい、TRIは2024年末までに1000以上のスキルを教えるという目標を立てている。

 ChatGPTのロボット版といえる技術が確立すると自動車の安全性向上にも大きな可能性を生むとギル・プラット氏は語る。

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■安全のためにドリフトできる自動運転を開発中

TRIのタンデム映像では2台が自動運転の状態でドリフトしていく。高度なテクニックが必要となるが生成AIを使えば可能になる

 LBMの手法を使えば、ドリフトのような高度な技術を使って自動運転することも可能だ。現在量販車に搭載されているトラクションコントロールだけで車の衝突を回避することは実際不可能だが、ドリフトすることで、クルマは高速でも障害物との衝突を避けることができるという。

 ギル氏はここで興味深い動画を見せてくれた。2台のスポーツカーがどちらも自動運転で走っている映像だ。先行車は次々と変わる軌道に応じてドリフトし、後続車は道路環境に合わせ、先行車との衝突をギリギリ避けながらドリフトして追従走行するものだ。安全かつ楽しいという、究極の安全運転が生成AIを使ったLBMに実現できるというわけだ。

 ギル氏は目標とするのはモリゾウのAI版だという。「この技術によって衝突を防ぐために、必要に応じてモリゾウがクルマをドリフトさせ、さらにモリゾウがやさしくドライビングを教えてくれる、そんなクルマを作りたい」と話す。「重要なのはおせっかいすぎずドライバーのスキルを伸ばしていくことです」と付け加えたことも印象的だ。

 モリゾウさんのAIが入ったドリフトできる自動運転とは、言い換えれば「クルマ好きのための自動運転」であり、「FUN TO DRIVE」が自動運転でも実現するとなれば、クルマの未来は面白いんじゃないか!

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