80年代後半から90年代にかけて巻き起こったバブル期は、日本中が好景気に沸き、高級車が飛ぶように売れた時代。そんななかで登場したクルマは、開発費が潤沢だったこともあり、豪華な装備や先進技術を積極的に採用し、数多くの名車が誕生した。そんなバブルの賜物と言えるクルマたちを紹介しよう。

文/木内一行、写真/スバル、トヨタ、日産、ホンダ、マツダ、FavCars.com

■「社会現象を巻き起こしたバブルの象徴的存在がコレ」日産・シーマ

セドリック/グロリアとシャシーを共有するものの、専用のボディパネルを採用して3ナンバー専用ボディに。シンプルながら、ボリューム感を強調したボンネットフードやボディサイド面が高級サルーンらしい重厚感を表現している

 バブル期を象徴する存在といえば、やはりシーマだろう。

 長らく日産では、セドリック/グロリアがフラッグシップに位置していた。しかし、世の中ではハイソカーブームが巻き起こり、ユーザーニーズも変化したため、日産はさらに上級の本格3ナンバーサルーンを計画。それがシーマだったのだ。

 プラットフォームこそ時間やコストを考慮してセドリック/グロリアと共用だが、ボディは完全な新設計。パーソナル感の強い3ナンバーサイズの4ドアハードトップボディは、それまでの国産車とはひと味違う美しいデザイン。

 シンプルながら曲面を強調したボリュームのあるスタイリングで、風格や気品も感じさせるものだった。

 インテリアには肌触りの良い天然素材を用い、光通信ステアリングや前後席で別々に温度調整可能なフルオートITエアコンなどのハイテク装備が投入された。

 そして、エンジンはトップに3リッターV6DOHCターボのVG30DETを据え、高級サルーン離れした動力性能を発揮。目一杯テールを沈み込ませてフル加速する姿は、シーマの代名詞となったのである。

 このように、新しい高級車像を作り上げたシーマは、日産の予想をはるかに超えるヒットを飛ばし、デビュー翌月には3ナンバー普通車最多販売台数を記録。これが、あの「シーマ現象」の幕を開けだったのだ。

■「高級車の世界基準を更新したフラッグシップサルーン」トヨタ・セルシオ

 新車を開発するためにテストコースを建設……。かつて、そんなクルマがあっただろうか。セルシオは、常識にとらわれず、トヨタの持てる技術を結集して開発されたフラッグシップだ。

 もともと北米で展開するレクサスブランドのトップモデルとして開発されたため、欧州のプレミアムサルーンがターゲット。そのためすべてをゼロから設計し、高級車の新しい世界基準を作り上げたのである。

 なかでも高速クルージング性能は、冒頭で触れたテストコースで徹底的な走り込みをすることで、優れた高速直進安定性や操縦性、高い動力性能と圧倒的な静粛性を実現した。

 その走りの核となっているのが新開発4リッターV8の1UZ-FEエンジンと最新仕様の4ATで、サスペンションは新設計の4輪ダブルウィッシュボーンを採用。電子制御エアサスやピエゾTEMSのほか、TRC(トラクションコントロール)や4輪ABSといったハイテク装備も投入されている。

 メルセデス・ベンツSクラスやBMW7シリーズと同等のサイズのボディは、美しさと気品を備えたエレガントなスタイル。それだけでなく、各部をフラッシュサーフェス化することでCd値0.29を達成し、高速での走行安定性や静粛性の向上に大きく貢献している。

 もちろん、インテリアも欧州車に対抗するべく入念な工作と仕上げを実施。しなやかな風合いの新タイプレザーを用い、各パネルにはウォールナットを採用するなど、贅を尽くした空間だ。

 ちなみに、デビュー時の新車価格は455〜620万円。当時としてはかなり高額だったが、バブル経済の後押しもあり、飛ぶように売れたのだ。

■「スーパースポーツに新しい価値を与えたホンダの傑作」ホンダ・NSX

ミドシップの利点を生かし、キャビンを最大限フロントに配置した前進キャノピーデザインを採用。これにより、圧倒的に死角の少ない全方位視界を実現した。また、大きなサイドエアインテークがミドシップであることを物語っている

 1990年9月、国産車初の本格スーパースポーツカーが誕生した。それがNSXだ。

 スポーツカーとして多くのメリットを持つミドシップレイアウトを軸に、世界初のオールアルミモノコックボディを採用。4輪ダブルウィッシュボーンのサスペンションも構成部品のほとんどをアルミ化することで、さらなる軽量化を達成している。

 さらに、搭載される新開発の3リッターV6ユニットもコンパクト設計で軽量化に貢献しつつ、VTEC機構により低中速域から高回転域まで谷間のない出力特性と優れたレスポンスを実現したのである。

 もちろん、見るものを魅了するスタイリングも特徴で、イメージしたのは超音速小型ジェット機。前進キャノピーデザインがミドシップであることをボディ全体で主張しているのだ。

 NSXのストロングポイントは、ハイパフォーマンスを実現しながら広い視界や快適な居住空間、大容量のラゲッジルームなどを備え、扱いやすさが光った点。スーパースポーツながらあくまでも人間優先という考え方は、それまでのライバル勢にはなかったものだった。

 そして、タイプRの追加やマイナーチェンジなどを行い、約15年にわたって販売。2005年には生産終了となり後継も発表されなかったが、2016年にハイブリッドスーパースポーツとして復活。再び脚光を浴びることになった。

 とはいえ、国産初のスーパースポーツとして誕生した初代は特別。バブルが産んだホンダのマスターピースなのである。

■「3ローターエンジンに先進装備 超バブリーなマツダの古豪」ユーノス・コスモ

 1989年にマツダが敷いた5チャンネル体制。そのなかで、プレミアムブランドというポジションで開設されたのがユーノスだ。

 同店では、ロードスターをはじめ、500や800、さらにはシトロエンも販売していたが、いかにもバブリーなとびっきりのスペシャルティクーペがコスモだった。

 ロングノーズショートデッキのフォルムは堂々としたサイズで、欧州のプレミアムクーペと比べても見劣りしない美しさと存在感を放つ。

 あくまでも2+2の室内は、斬新なデザインを取り入れ先進性を表現。CCS(カー・コミュニケーション・システム)と呼ばれるGPSナビは、世界初の装備だ。

 そして、コスモの最大の特徴がエンジンで、20B-REWと13B-REWの2種を搭載。前者は量産車世界初の3ローターロータリーで、シーケンシャルツインターボシステムを組み合わせることで280ps/41.0kg-mという自主規制上限の最高出力と国産車屈指のビッグトルクを発揮。

 さらに、V型12気筒エンジンに匹敵する極めて滑らかなフィーリングと、クイックなアクセルレスポンスも実現したのである。

 その一方、燃費性能はお世辞にも優れているとは言えなかったが、そういったネガもおかまいなしというのがいかにもバブル期っぽい。

 コスモは、実用性や経済性に重きを置いた現代では考えらないほど贅沢なスペシャルティクーペだった。

■「スバルのアイデンティティが詰まったグランドツアラー」スバル・アルシオーネSVX

 開発資金が潤沢だったバブル期には、スバルも新たなフラッグシップを開発。それがアルシオーネSVXだ。

 車名からアルシオーネの後継ということは明白だが、目指したのは本格グランドツアラーで、先進のメカニズムが積極的に投入された。

 まず、斬新なスタイリングに目を奪われるが、これはG・ジウジアーロが手がけたもの。ジェット機のキャノピーを連想させるラウンドキャノピーが特徴で、ダイナミックなブリスターフェンダーやエアロテールデッキはルックス的な要素だけでなく、空力性能にも大きく貢献している。

 インテリアもグランドツアラーらしく、長距離移動でも疲れの少ない居住空間を実現。広いグラスエリアが高い開放感を演出し、人間工学に基づいたスイッチや目に優しい照明がドライビングの負担を軽減してくれるのだ。

 そして、優れた運動性能やロングツーリングでも疲れにくい快適性を実現するのが、スバル自慢の水平対向エンジンと4WDシステム。

 エンジンは、当時のスバル市販車最大となる6気筒3.3リッターのEG33。ターボではなく自然吸気を選んだのは、繊細でリニアなアクセルレスポンスと低回転からトルクフルな特性を重視したため。

 駆動システムは、不等&可変トルク配分電子制御4WDのVTD-4WDを採用。さらに4WSも装備し、どんな環境下においても最高のパフォーマンスを安定して引き出せるようにしている。

 デビューはバブル崩壊後だが、華やかな時代を感じさせるスバルの意欲作なのだ。

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