地形に海と山が多い日本の国土には、「ここが通行止めになると地域の物流路が断たれる」という、地域の生命線となる道路がいくつもある。

 これらの道路は、数十キロも迂回路が無い谷間や、峠道、トンネル連続区間、断崖絶壁の海岸線など、交通の難所が多い。いっぽう、平野部を走る東名高速などの幹線でも、ひとたび通行止めが起こると周辺の道路に大量のクルマがあふれて大渋滞となり、地域の交通が機能不全になることがある。

 最近は車両火災や事故、さらには自然災害による通行止めも多く発生している。いくつか事例をふり返り、1.通行止めを発生させない上手な道路の使い方、2.通行止めが発生した際の対処、について考えてみたい。

文/長野潤一、写真/トラックマガジン「フルロード」編集部、西日本高速道路、写真AC

日立市の常磐道でトンネル事故

重要な道路で通行止めが発生すれば物流に与える影響は大きい。あらためて最近頻発している交通遮断の事例とその対策を考察していこう

 7月18日未明、日立市の常磐道下り線、日立南太田IC~日立中央IC間のトンネル内でトレーラ3台による事故があり、10時間余り通行止めとなった。通行止めの影響で、18日午前中、日立市内の国道は通勤車両で激しく混雑した。

 日立市は全国有数の工業都市であるが、山地が海岸線から約2.5kmの所に迫り平地が少ない。このため、普段でも通勤時間帯は渋滞が激しい。常磐道は山地側の高い所を通っており、トンネル連続区間となっている。この区間での事故や車両火災は地域への影響が大きく、何としても避けなければならない。

 事故の状況は、まず1台が故障か事故で停止し、その後2台のトレーラがぶつかったと見られる。トンネルは片側2車線だが、故障車が退避する路肩のスペースは無い。もしトンネル内で故障やバーストで停車すれば、高い確率で後続車の追突事故を誘発してしまう。

 ドライバーとして注意すべき点は、1.故障しないように点検整備をする、2.常に前方をよく見て運転する、3.自動ブレーキは過信しない、4.もし故障車がいても避けられるよう、並走や密集しての走行をしない、である。

 さらに、このように片側2車線で路肩がほとんど無い断面の小さいトンネルは、国家の大動脈である新東名(愛知県内の片側2車線区間)にも混在しているので(臼子トンネル、観音山トンネルなど)、気を付けて運転しなければならない。

山陽道・尼子山トンネル火災

 2023年9月、兵庫県の山陽道下り線、尼子山トンネルでトラック火災を発端とする車両23台の火災があった。トンネル内部の焼損が激しく、復旧工事による通行止めは102日間と長期化した。

 これにより、並行する国道2号では交通量が倍増し渋滞が深刻化、多くのトラックが播磨道→中国道→岡山道という約90km増の迂回を迫られた。迂回先の中国道では、430休憩のためのパーキングエリア不足、GSの軽油給油制限などの問題も発生した。

 また今年2月にも、新東名下り線北沼上トンネルでキャリアカー火災が発生、2車線規制による影響が長引いた。

令和4年のお盆、福井県分断

 北陸道の今庄IC~敦賀IC間は、福井県の北部と南部(嶺北~嶺南、かつての越前と若狭)を結ぶ、地形の険しい区間である。過去何度も台風や大雪で交通遮断の危機に遭ってきた。

 なかでも、被害が大きかったのは「令和4年8月4日からの大雨」で、北陸道、国道8号、JR北陸本線(当時)ほかすべての交通が遮断された。迂回路は東海北陸道や、東名経由で東北行き、日本海回りの長距離フェリーなど。

 復旧工事がもっとも長くかかったのは大量の土砂が流入した北陸道下り線で、通行止め解除まで22日間を要した。国道8号は9日に通行止め解除となったが片側交互通行の区間があり、お盆の時期とも重なり、下り線を中心に10km程度の渋滞が発生した。

 また、北陸本線の運休を補うべく、災害時緊急バス(無料)も運行された。

幾度も孤立の危機・山梨県

2019年の台風19号の影響で災害通行止めとなった中央道上り・大月IC。要路が分断された影響は甚大であった

 山梨県は盆地で周囲を山地に囲まれているため、県内への物流ルートが限られている。これまで幾度も長期通行止めの危機が発生している。

 2019年10月の東日本台風(19号)で、中央道、国道20号、JR中央本線のすべてが不通となり、東京~山梨間の行き来が遮断された。人的な移動もできなくなったため、通行止めの翌13日から東富士五湖道路~東名を経由した臨時高速バスが運行された。

 2016年2月の豪雪では、2月14~17日の3日間、山梨県中心部への道路交通や鉄道がすべてストップした。

 ヤマザキパンのトラックドライバーが積荷のパンを談合坂SAで立ち往生中の一般ドライバーに配ったことでも記憶に残る。

 スーパー、コンビニでは商品が品薄になったほか、停電や大雪で営業できず。セブン&アイはヘリコプター2機で東京から商品の空輸を行なった。

 災害時には県内の食品倉庫から、普段とは別ルートで商品を調達するということも考えておかなければならないのかもしれない。

駿河湾地震による東名通行止め

 2009年、お盆前の8月11日早朝に駿河湾地震が発生し、静岡市の駿府城の石垣が崩れるなど、各所で被害が出た。

 東名でも上り線の牧之原PAから吉田側で路肩が崩落、全面通行止めとなった。その後、下り線でも地盤の緩みが見つかり、工期は延びた。

 当時、新東名はまだ開通しておらず、お盆の時期の交通はパニックとなった。ネクスコ中日本の突貫工事の結果、崩落部分に盛り土をして、8月16日の午前0時から通行可能となった。

JR貨物、トラックで代行輸送

 JR貨物は幾度も災害による線路の寸断に遭い、その都度、コンテナをトラックに積み替えてピストン輸送する「代行輸送」を行ってきた。

 2018年の西日本豪雨では西日本の鉄道が至る所で寸断された。山陽本線も難所の「セノハチ」(瀬野—八本松間)ほかで土砂災害が発生、約3カ月運休した。

 九州—広島・岡山間でトラックと船舶による代行輸送を行なったが、その輸送力は鉄道の約14%にとどまった。トレーラでも輸送も行えるように、国土交通省は特殊車両通行許可申請を迅速化する特例措置を行なった。

 翌2019年の「東日本台風(19号)」(長野市の北陸新幹線車両基地が水没した)では、4路線5区間が不通となった。東北本線・新白河―岩沼間でトラック代行輸送が行なわれた。

 2020年の熊本豪雨では鹿児島本線・肥薩おれんじ鉄道が被災、代行輸送が行なわれた。
ただし、代行輸送には多くのドライバーと積み替えの労力を必要とする。代行輸送に使用できる車両が限られるなどの問題点もある。

タンクローリーのエスコート走行

 2020年の熊本豪雨(球磨川水害)で球磨川沿いの国道219号が寸断され、人吉市への一般道ルートが絶たれた。人吉市への石油輸送を確保すべく、タンクローリーのエスコート通行が行なわれた。

 九州道の八代IC~人吉IC間には肥後トンネル(全長6340m)があるが、道路法で長大トンネル(全長5000m以上)と水底トンネルは危険物積載車両の通行が原則禁止されている。

 2016年に、代替路が少ない長大トンネル等について緊急時に規制を緩和する改正がなされ、このとき初めて実施された。通行の安全性をより確かなものにするために前後を警察車両や石油会社の車両が伴走(エスコート)した。

近年、地域の生命線となる道路が寸断されるような事故や災害が相次いで発生している

道路を守る方策

 近年はトラックや乗用車の車両火災も頻発しており、地域に与える影響も大きい。また、事故による通行止めも多発している。どのようにしたら事故による通行止めを回避できるだろうか。私のドライバー経験からの考えを述べたい。

1.通行止めを発生させない上手な道路の使い方

[トンネル内の速度抑制]長大トンネルやトンネル連続区間には速度違反自動取締機(オービス)を設置。乗用車・トラックを問わず、トンネル内で飛ばすクルマが多過ぎる。

[事故・故障にもペナルティー]道路で事故や故障を起こすと、多数の人、顕著な例では都市全体に影響が及ぶ。事故や故障停止に一定のペナルティー(罰金)を検討すべきではないか。違法改造車の故障など、やりたい放題。罰金の徴収にはコンセンサスが必要だが。

[大型車のブレーキ火災防止]トレーラ台車のスプリングブレーキチャンバー整備不良による火災が多発。スプリングブレーキの定期交換を徹底する実効的対策が必要。

[旧車の長大トンネルの制限]長大トンネル(全長5000m以上)や水底トンネルで、製造から20年以上経った車両の通行を禁止する。故障が多い。

2.通行止めが発生した際の対処

[大雪時の対応]大雪による高速道路通行止めの際に、並行する国道に大量のトラックが殺到して、立ち往生が長期化することがある。高速道路と国道が連携した早めの通行止め実施を。また、発送側の荷主や運送会社の慣習にも問題が。実際に通行止めが発生する深夜には、荷主や運送会社に運行に対し決定権のある社員が不在で、運行のコントロールができない。


[重要物資運搬車の事前指定]大雪や土砂災害などで、通行できる道路が限られている場合に、食糧・医薬などの重要物資を緊急的に運搬できるトラック・事業者を事前に指定しておく。災害時に渋滞に巻き込まれないことと、初動を遅れないため。

[フェリーの活用]重要な道路での災害通行止めの際、ネットワークの欠落を補うべく船舶による臨時航路を開設する(形態はフェリー、RORO船、コンテナ船)。こうした「海上バイパス航路」は2016年の熊本地震などで実績がある。フェリーの輸送力は、道路の交通容量に比べれば劣るが、緊急車両や重要物資を輸送することができる。

リダンダンシーの重要性

 現代社会は、道路交通の遮断以外にもシステム障害、停電などさまざまなリスクに晒されている。今年7月には、東海道新幹線の保守車両事故で浜松~名古屋間が丸一日不通に。

 また世界では、クラウドストライク社のセキュリティソフト更新障害により航空、金融、医療などに影響が出た。米国航空大手三社が全世界運航停止(=グローバル・グラウンド・ストップ)をする事態に至った。

 昨年には、名古屋港共通システムのサイバー攻撃被害により、コンテナの搬出入がストップした。いまあるシステムをいかに守るか、また、システムがダメになった時の次の一手を考えておくというリダンダンシー(冗長性)の重要性を感じる。

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