自民党に政権が変わり、トヨタがGMに代わって2年ぶりに世界販売台数でトップを奪った2012年。全国の読者に人名、車名、CM、技術、スローガンなど、国内メーカー8社それぞれに最も強く思いつくことを挙げてもらった。回答していただいた総数は507人、2001年、2009年、2010年に同じ質問をしているので、変化にも注目してみてほしい。 (本稿は「ベストカー」2013年3月10日号に掲載した記事の再録版となります)
【トヨタの2013年のイメージ】プリウスを超えた! 豊田章男社長が急上昇
好調な業績をあげたトヨタに対するイメージは厳しい意見もあるが、どちらかと言えば好意的な意見が多い。大きな理由が、イメージの2位に躍進した豊田章男社長の存在だろう。
社長就任は2009年6月からだが、直後に起きた北米でのリコール問題で忙殺されていたため、前回の数値は低かった。
しかし、落ち着いてからは、メガウェブフェスタでステージに登場したり、新城ラリーにドライバーとして出場したりという、親しみやすい経営者像が、読者に伝わっての躍進だと思う。
ちなみに、上位に経営者の名前が登場するのは日産とスズキだ。名前は挙げるまでもないが、この2人のカリスマに近づきつつあるといえるのかもしれない。
1位はやはりハイブリッド。2010年はハイブリッド9%でプリウス19%とプリウスのほうが上位だったが、3年後の今はハイブリッドが17.9%でプリウスが12.5%と逆転している。アクアやカムリなどいろんなモデルにハイブリッドが広がった証拠だろう。
そのほか車名として挙げられるのは86の8.9%。クラウンと同点ながら、歴史のあるモデルではないから、数字以上にインパクトがあったということ。
補足として、86に続くスープラのようなモデルが欲しいとか、86のセダンバージョンは出るのか? いつターボが出るのか? といったスクープ情報を教えてほしいという声が数多く挙がっていた。
86そのものが好きというよりもトヨタというブランドイメージを変えたという点で86の存在は大きい。
同じことがクラウンにもいえ、CMのコピーである「ReBORN」が10.7%と強い印象を与えている点に注目したい。
「80点主義」という声もあるにはあるが、以前よりも積極的な評価をトヨタに与えているように思う。このあたりはモリゾウ氏の広告塔としての働きが効いているのだろう。
残念なのはカローラという意見が消えてしまったこと。2010年には第3位の13%だったのに今は話題に上らないとすれば、トヨタが次に行なうべきことはカローラの改革といえるだろう。
【日産の2013年のイメージ】絶対の存在、GT-Rをゴーン社長が上回る
今回のイメージ調査でもカルロス・ゴーン、GT-R、スカイラインの上位3つは不動。
ただし、GT-Rとゴーン社長の順番は入れ替わっている。これはどういうことだろう?
ひとつはGT-Rの登場から丸5年以上経過し、フレッシュな印象を持たれなくなったことが大きい。
また、期待された昨年のマイナーチェンジでは大きな変更がなく、最高出力も変わらなかったということもあるのかもしれない。いずれにしても日産といえばGT-Rがテッパンだったから、今回は大きな変化といえそうだ。
またスカイラインは3位にランクしているが、2010年の調査では19%だったのに今回は11.3%と相対的に落ちている。今年登場するといわれる新型を見た後、この数字は上がるのか? 下がるのか? 興味深いところだ。
そのいっぽうで「デザイン」を挙げた人が9.7%と10%近くいることは興味深い。
昨年誕生したクルマはラティオ、シルフィ、ノートと比較的地味なクルマが多かったが、それでもデザインを挙げた読者が多いということは、定評になったということだろう。ジュークあたりの個性の強さが、日産車のイメージを向上させているのだろう。
本来ならばリーフがトップ3に入らなければいけないのだろうが、8.1%にとどまる。あまり売れていないという要素はあるが、トヨタの1番がハイブリッドであるのとは好対照だ。EVを普及させるには何が必要なのか? 日産のイメージ調査で5番目になるようではいけないだろう。
日産の昨年の国内販売台数は11.6%伸ばしているが、シェアは逆に1.8ポイント落としている。そのことに関係しているかわからないが、いくつかの意見には「平凡」や「つまらない」という意見が見られた。
潜在的な日産ファンは多いからそんな意見も出るのだと思うが、新しい日産をイメージできる何かを読者は待っていると思う。
【ホンダの2013年のイメージ】タイプRよりもVTECが上位となった意味
ホンダのイメージのトップは何かといえば、相変わらずVTECだ。ホンダファンにとってのVTECはNSXを頂点とするDOHC VTECであろうし、具体的には、CR-Xやシビックに搭載されたB16AやインテグラタイプRに搭載されたB18Cがイメージされているはずだ。
ホンダのエンジンは軽自動車以外なんらかのVTEC技術が投入されているが、もっとホットなVTECが欲しいという期待の声なのではないだろうか?
そのことは2010年に21%を占め、1位だったタイプRという声が圏外に去ったことの裏返しといえるかもしれない。
当時はシビックタイプR(4ドア)の販売中止が決まったタイミングでもあったから、従来から不動の一番であったF1を超える答えになったのだろう。その後、その声に応えるカタチでイギリスからシビックタイプRユーロが限定販売のカタチで輸入されたが、大きな反響を呼ぶまでにはいたらなかった。
つまり、タイプRにこだわらないが、ホンダにふさわしいエンジンが欲しい、それがVTECということなのだろう。
2位はフィット。2010年は7位だったが、今回は2位に躍進。2010年にはラインアップされていなかったハイブリッドの存在が大きい。ハイブリッドの追加でフィットが時代をリードするメジャーな存在になったことは否定できない。
ベストカー読者だったら、NSXやビートという声がもっとあるかと思ったが、そうでもないのは意外。軽自動車に舵を切ったホンダに対して読者は冷めた対応なのかもしれない。
3位はF1。これは小林可夢偉が日本GPで3位に入りながらシートを失わざるを得なくなったことで、F1に目がいったことと、やっぱりホンダがF1をやらなきゃドライバーは育たないということが一体となった3位であろう。
4位は昨年なんと前年比157%となり、現在のホンダを引っぱる軽自動車だ。最後に少数意見だが過渡期という意見があり、言い得て妙だ。
【三菱の2013年のイメージ】今も、少し前も、きっとこれからも、ランエボが一番だ
三菱はランエボである。2010年の35%には及ばないが、4人に1人、25%がランエボと答えるほど他を圧倒している。
ようやく次期ランエボの開発が動き始めたようで、三菱ファンもひと安心といったところか。またベストカーで連載中のRSベースのオリジナル特別仕様車計画が読者を刺激したのならうれしいところだ。
ちなみに付随する意見としてランエボがWRCを席巻していた頃の三菱はすごかった。「マキネン最高!」とか、「ランエボは三菱に必要なんだ。ランエボXIの開発凍結なんかもってのほかだ、限定でいいから早く発売しろ!」という声もあって、三菱ファンはとにかく熱いぞ。
2位は12.5%でi-MiEVが入る。EVの三菱というイメージは確かにあるが、ランエボの半分に過ぎないところが、EVの現状を物語っている。
3位のミラージュは昨年久しぶりに復活したことから妥当なところ。
4位のPHEVはアウトランダーPHEVのことだが、まだどのようなクルマか、知られていないので期待値としてはなかなか高いといえるだろう。あと3カ月もすれば、口コミから話題になってぐんと上がってくるはずだ。
5位がラリー。WRCのワークス活動撤退からすでに7年が経過しているが、全日本ラリーほか世界各国でランエボは活躍中で、その速さとともに色あせないイメージとなっている。
ベストカーはクリーンディーゼルという答えが少数意見にとどまったのが惜しいと思うところ。デリカD:5にも搭載されただけにもっと盛り上がってほしいところ。クリーンディーゼルによってデリカD:5の人気も必ず浮上するはずだから、三菱ももっとアピールしなくちゃいけないだろう。
もう一点今年発売されるeKワゴン後継となる軽自動車への期待も少なかった。情報が出てきていないから仕方がないが、三菱ファンの皆さん忘れないでくださいよ。
【マツダの2013年のイメージ】「ロータリー」を「SKYACTIV」が抜くのはいつの日か?
昨年登録車で14.7%も販売台数を伸ばしたマツダは、SKYACTIVによってエコなイメージを獲得。2010年とはがらりとイメージが変わっているかな? と思いきや1位は堂々のロータリーで、2010年の38%まではいかないが、31.6%と圧倒している。
もちろん昨年はRX-8が絶版になったメモリアルな年でもあり、復活を願う気持ちが強いのはわかる。あんなに気持ちよく回るエンジンはロータリー以外ないし、エコじゃないとわかっているけれど、なくなっちゃうと寂しいものです。
エコと両立するスポーツモデルとしてロータリー車が欲しい。ロータリーはやっぱりマツダの象徴なのだ。
2位はSKYACTIVだ。昨年登録車で14.7%も販売台数を伸ばしたのはこの技術により、エコカー減税やディーゼルが補助金を受けられるメリットがあったからこそ。
CX-5に続きアテンザも好調なようで、アクセラの登場する今年もSKYACTIVには大いに期待できそうだ。
3位は「Zoom-Zoom」。CMの音楽とともに、とてもキャッチーだからアタマから離れない。うまいコピーだと思う。SKYACTIVとZoom-Zoomは、エコでも走りの楽しさは失わない、マツダ車のクルマ作りを表わす2本の柱になっている。
4位が亡霊のように蘇るRX-7。根強いというか本当に熱いファンがいるのだと感心させれる、今をときめくクリーンディーゼルよりもRX-7のほうが上位というところがマツダファンの思いのたけだろう。いやはや参りました。
いっぽう少数意見になっているのがロードスター。2010年は3位だったのに今や7位。スポーツカー不遇の時代だけれど、2014年にはフルモデルチェンジするとされ、そろそろ気になるところ。
他社に比べると新しいイメージがいくつか加わって、マツダの前途に期待を抱かせる結果といえそうだ。
【スバルの2013年のイメージ】シンメトリカルAWDこそスバルブランドの象徴
昨年一年間で、登録車の伸び率が最も大きかったのは富士重工でなんと46.4%も伸び、10万8071台の販売を記録した。これは一昨年フルモデルチェンジしたインプレッサのヒットのおかげだ。もちろんアイサイトが購入理由の大きな要素を占めている。
米国志向と嫌みをいう人もいるが、オリジナルの軽自動車を作ることをやめ、トヨタグループとの結束を固める吉永社長の手腕が評価されるところであろう。
従来のSTIありきのインプレッサから万人に受け入れられるインプレッサへの飛躍は、難しいと思われたが、結果は見事というほかない。
販売が好調ななか、イメージの1番は4WDで、25%が支持している。富士重工の背骨に当たるのが、やはり4WDであることを読者も理解している結果だろう。ここでグラフをよく見ると、BRZが出て来ないことに注目してほしい。
もちろん少数意見としては、「86ともっと差別化せよ」とか、「STIバージョンはなぜ出てこない?」といった声はあるが、多くの人はBRZについて触れていない。
4WDを持たず、トヨタ86と双子のBRZは、特にスバリストにしみればトヨタというお金持ちの家に里子に出したようなものなのかもしれない。
しかし、昨年登場したばかりだし、今年モータースポーツで目立った活躍すればイメージは変わるはずだ。
2位は水平対向エンジン。2010年の33%から17.2%に半減したが、これも86が採用したことで富士重工の専売特許でなくなったという意識が影響しているものと思われる。
3位はラリー。こちらもランエボ同様、メーカーとして活動はしていないが、国内チャンピオンはインプレッサWRX STIに乗るラックの勝田範彦選手であり、ランエボとトップを争う戦闘力があるところを見せており、納得だ。
4位、5位はほぼ似た答えだが技術と職人気質となっている。技術者がこだわり、妥協を許さず、いいものを作っていると評価する回答であろう。
【スズキの2013年のイメージ】日本的経営者のカリスマ、鈴木修社長で異議なし!
スズキは鈴木修会長兼社長が堂々の1位。2010年1位だったワゴンRを逆転して文字通りスズキを代表する顔になった。
昨年フルモデルチェンジしたばかりのワゴンRよりも強いイメージを残したのは、VWとの“喧嘩”にも一歩も譲らず、筋を通しているところなども好印象に思われているのであろう。
日本を代表する経営者であることは間違いない。
2位はワゴンR。エネチャージなど新技術を打ち出し、改めて軽のリーディングモデルであることを証明したが、軽自動車はN-BOX、N-ONEなども人気でクルマの出来はすばらしいが、かつてほど印象は強くないのかもしれない。
位はスイフトスポーツを含んだスイフト。スイフトスポーツは旧型から高い評価を集めていたが、ベースモデルのスイフトの評価も現行モデルになって以来、相当に高い。特に同じ1.2Lエンジン搭載のRSはジャーナリストたちをうならせる足回りを持つ。
スズキがスイフトを作ったことは自動車会社としての実力の高さを証明するものでもある。
4位は軽自動車。漠然としているが、軽自動車が根幹をなしていることは間違いない。注目したいのは5位の省燃費技術で、ワゴンRのエネチャージもそうだが、アルトエコがJC08モードで30.2km/Lとミライースの30.0km/Lを上回る数字を出したことが大きいのだろう。
スズキもしっかりと省燃費技術を持っていると認識されていることは、メーカーにとって大きなことだと思う。
少数意見として機密を漏らさないというものがあったが、読者の皆さんもスズキのスクープ情報はなかなか出て来ないと感じているのだろうか。
同様に「スタイリッシュ」という意見があったが、モーターショーなどで見るスズキのコンセプトモデルはスタイリッシュそのもの。
ベストカーとしてはそんなショーモデルを、できるだけイメージを崩さず市販してほしいと思うのだが。
【ダイハツの2013年のイメージ】全性能を革新したミライースがコペンに代わる「ダイハツ代表」に
2010年の回答ではリードしたコペンだが、昨年絶版になり、軽自動車という抽象的な答えが1番になった。
とはいえ、僅差でミライースがつけており、燃費もいいし、走りも悪くない、価格も安いとケチのつけようがないミライースがダイハツを代表する存在と言ってもいいだろう。
3位はコペン。復活が期待され、ダイハツとしてもスポーティなイメージを持つコペンは貴重な存在だけに、読者の意識に残っていることは意義がある。
4位はワゴンRに負けじと29.0km/LというJC08モード燃費を記録したムーヴだ。2001年、2009年の調査ではムーヴがダイハツの代表だったから、順位は下がっているが、引き続き印象は強いものだ。
法廷劇にした、ムーヴの最新のCMも評判のようで、ミライースのさりげないCMも好評で、ダイハツのCMは面白いという声が少数意見のなかにある。
5位の「コンパクト」には、2つの意味があると思う。ひとつは軽自動車を含めた小さなクルマ作りの上手なメーカーというもの。もうひとつは、パッソ/ブーンやラッシュ/ビーゴに代表されるコンパクトカーに期待する意見。この2つが11.3%に詰まっているのだと思う。
補足になるが、「シャレードやコンパーノを思い出せ」、とか「ディーゼルが脚光を浴びている今こそ、リッターディーゼルを搭載しろ!」という意見があった。5平米カーと呼ばれた初代シャレードのことを知る読者にすれば、パッソ/ブーンは物足りない存在だろう。
トヨタとの関係がありカンタンではないだろうが、ダイハツの思想が詰まった、革新的なリッターカーを見てみたいものだ。
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以上8社のイメージ調査を分析したが、過去に比べ変化が現われている会社に勢いを感じる。会社というものは、変わらないと成長しないともいわれるが、次回はどんな変化があるか? 楽しみだ。
(内容はすべてベストカー本誌掲載時のものです)
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