毎日利用している路線バスを乗り継いでどこまで行けるのだろうか。今回はなるべくお金を使わず愛知県の知多半島を縦断してみた。本稿では後編としておどろきのコミュニティバスの実態をお届けする。
文/写真:東出真
編集:古川智規(バスマガジン編集部)
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■路線バスがコミュニティバス扱い?
前回は愛知県刈谷市にあるJR刈谷駅をスタートし、知多半島の中部に位置する半田市までやってきた。半田市の公共交通バス「ごん吉バス」岩滑小線・アピタルートに乗車し「西尾信用金庫西」バス停で下車した。さてここからは再びバスでといきたいのだが、他系統との連絡が悪いわけではないにもかかわらず、その先がつながらくなってしまうので、バス停まで徒歩移動することにした。なんだか某番組の苦労がわかるような気がする。
徒歩で着いたのは名鉄知多半田駅である。そろそろお昼にりどこかで美味しいものでも…となるころだが、バスで先を目指すことにした。既に停車中のバスが知多バス「半田・常滑線」である。見た目は通常の路線バスだが半田市によれば、市内の人口集積地と中心拠点を結び、主要道路における移動利便性を向上させる路線とされ、半田市の公共交通バスの1つとされている。
運営・運行は知多乗合が行い、運賃も半田市内であれば100円~200円で乗車できるように調整されている。筆者は名鉄知多半田駅前から名鉄青山駅前まで乗車した。運賃は100円だ。
■バス車内アナウンスがツンデレなのがイイ?
名鉄知多半田駅より2駅先が青山駅だ。車も少なくなんとも寂しい感じもするが、設置されたバス停の数が乗り換え、乗り継ぎの利便性を物語っている。ここまで乗車した知多バスのほか、半田市のコミュニティバスが2路線、そして次に乗車する武豊町のコミュニティバス「ゆめころん」と4つもバス停がある。以前に来たことはあり、バス停を見てうまくいけば知多半島をぐるっと回れるのではないか?と思ったのが今回の乗り継ぎ旅を考えるきっかけだった。
しばらく待っているとピンク色のバスがやってきた。武豊町のコミュニティバス「ゆめころん」北部赤ルート線だ。武豊町は半田市の南に位置する町で味噌と醤油が特産である。県内初の鉄道が敷かれた町でもあり、歴史遺産も見ることができる。そんな武豊町も他の市町のように南北に走る路線に交わるものがなく、コミュニティバスが移動の足を補完している。
赤ルートは北部を、そして青ルートが南部をカバーしている。多くの乗車があり筆者も今回の乗り継ぎでは初めて立席での乗車となった。運賃は1乗車100円で乗車時に支払う。
車体は分かりやすいようにルートのカラーでラッピングされていて、武豊町のマスコットキャラクター「みそたろう」と、知多半島で活動している若者支援と地域活性をミックスしたキャラクター&声優ユニット「知多娘。」の武豊町を担当しているキャラクター、武豊乙姫ちゃんが描かれている。
ちなみに車内のアナウンスは武豊町の観光大使を務めている知多娘のメンバー、栗田ももさんが武豊乙姫ちゃんとしてアナウンスを担当している。お好きな方はツンデレボイスの案内を楽しんでいただきたい。
■無料な理由は競艇のファンバスがスタートだから?
駅前のコンビニで昼食を買い、駅に戻ると次のバスが停車していた。次は青色の常滑市コミュニティバス「グルーン」である。近未来的なデザインのEV車はBYD製だ。常滑市からずいぶん離れているように感じるが、ちゃんと路線が伸びている。やはり車内は賑わっていて座席は満席、運賃は無料だ。知多武豊駅を出発するとEV車独特のスムーズな発進でとても静かだ。モーター音だけが車内に響く。
「Gruun(グルーン)」についてはEV車導入時に記事にしたが、ボートレースとこなめへ向かうファンバスから生まれたもので、2022年10月に常滑市内を走る他の路線バスと統合リニューアルされた。現在は北部エリア、市街地エリア、南部エリアに計6路線を6台のEVバスで運行している。ファンバスだったこともあり運賃は無料(当面の間)で、運行担当は知多乗合だが、事業主体はボートレース事業局なのはこのためだ。
バスは常滑市へ向けて知多半島を横断していく。距離はそこそこあるが、次は常滑市に入るまでバス停がないため、一気に走り抜けていく。3つほどバス停を過ぎると車窓には海が見えてくる。気がつけば知多半島の反対側に出て伊勢湾が見えてきた。筆者はその先の「熊野」バス停で下車した。
バスはそのまま常滑駅へ向かっていくが、南下を目指している筆者は逆方向のバスに乗り換える。時刻表を見ると20分ほどの待ち合わせなので昼食を取りのんびりと待つ。見送ったバスの方向から再びバスがやってきたが、今度は赤いバスだ。常滑南部・上野間線に乗車し、美浜町にある上野間駅を目指す。
■またまた運賃無料!
20分ほど乗車すると、終点の名鉄上野間駅に到着した。お昼頃乗車した知多武豊駅は名鉄河和線だが、上野間駅は知多新線の駅で、終点は内海駅だ。そして知多半島を巡って7つ目の町である美浜町までやってきた。知多半島の南部にあり、東は三河湾、西は伊勢湾に面している。海水浴場や観光施設が豊富だ。しかし見渡す限り、グルーン以外のバス停が見当たらない。乗り継ぎにあまり時間がないので、周りを探してみると駅施設の反対側の道路上にようやくバス停を見つけた。
続けてやってきたワゴン車が次に乗車するバスで、美浜町の巡回ミニバス「自然号」である。車体に書かれた「美浜町行ってきバス 自然号」がバスの目印だ。こちらも運賃は無料で、乗車時に降車するバス停を運転手に告げるタイプだ。乗客2人を乗せて出発した。
途中もう1人は下車したので、しばらくは貸切状態だったが、いわゆるバスの車内とは異なる乗用車に乗っている感覚だ。10分強で役場バス停まで来ると、他のルートのバスと連絡を取った後に出発し、目的地である知多厚生病院バス停で下車した。
■かの有名な羽豆岬はここなれや?
ここまで来ると長かったバスの乗り継ぎも最後だ。白いボディのバスでやってきたのは、南知多町のコミュニティバス「海っ子バス」である。知多半島の先端まで行けるバスだ。南知多町は知多半島の最南端にあり、マリンリゾート・海水浴場や県下一の水揚げ量を誇る豊浜漁港など観光資源が多く、船で渡る篠島・日間賀島を含めて年間を通して多くの観光客が訪れる。
そんな町を海岸線に沿って1周するルートになっているのが「海っ子バス」である。乗車した知多厚生病院から半島南端の師崎港までは40分くらいだ。運賃は1乗車400円とこれまで乗車してきたバスと比べるとずいぶん高く感じるが、海っ子バスには1日券のデジタルチケットが用意されている。アプリをインストールする必要があるが1日券は600円だ。
1乗車400円なので、2回乗車すれば元が取れるというありがたい料金設定だ。他にも回数券や定期券、クーポン付き1日乗車券などもスマホで購入できる。また各座席にUSBポートが設置されていて長時間乗車でも便利な仕様になっている。
バスは師崎港に到着した。時刻は14時25分で、刈谷駅を出発してから5時間半ほどかかって知多半島の先までやってくることができた。朝方は雨が残っていた天気もここに着くころには青空が広がっていた。少し港を歩いていくと、さらに港の先端までやってきた。ここがかの有名な羽豆岬である。やや強い日差しに照らされた海が輝いてとても美しい。この岬を見下ろす高台には羽豆岬展望台、そして羽豆神社がある。旅のゴールに無事と感謝の気持ちをこめて参拝した。
羽豆岬を巡るのであれば参道階段の近くにある公園にある石碑を見なければいけない。石碑はSKE48の「羽豆岬」という曲の歌碑だ。ご当地ソングで、PVには羽豆岬や羽豆神社、周辺の観光スポットなども登場し、今でも羽豆神社には多くのファンが訪れているようだ。
同曲を記念してリリースから3年後の2013年7月4日に歌碑が設置され除幕式も行われた。また海っ子バスにはラッピングされたバス車内にメンバーのサインが書かれている車両も走っている。
■10乗車中4乗車が無料だったってマジ?
さて今回は知多半島をゆくコミュニティバスを乗り継いでどこまで行けるのかお届けした。朝に刈谷市をスタートし、東浦町、阿久比町、半田市、武豊町、常滑市、美浜町、南知多町と8つの市町を巡りながら知多半島の先端まで到達した。コミュニティバスは地域住民の足を確保するために地方自治体が運行している公共交通機関だ。
今回 回のように町から町を渡り歩くという使い方はやや本来の目的から外れているようにも思えるが、それでも路線図や時刻表を調べていると隣接する地域とどう連携しているのか、利用しやすくするための工夫がダイヤに落とし込まれているのかが実感できた。
地域の足として、またいわゆる交通弱者の交通手段が失われないよう、積極的にコミュニティバスを利用したい。 ちなみに今回乗車したバスは10乗車で合計運賃は800円だった。うち4乗車は無料だった。
刈谷駅からJR、名鉄を利用して金山経由で河和まで向かうと1410円なので運賃だけを見ると安いがバスの乗り継ぎは時間がかかりすぎるので確かに現実的な選択とは言えない。しかし休日に時間をかけて遊びに行く「旅」としてとらえるのであればコストパフォーマンスは高い楽しい遊び方だ。
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