過度な短期開発から適切な開発へ。現場の声が経営陣に上がりやすい体制を目指す(写真:風間仁一郎)

前代未聞の一大不正からの再出発だ。

ダイハツ工業は4月8日、新たな事業方針を発表した。新車の認証試験不正によって大きく毀損したブランド力を取り戻せるかが焦点となる。「もう一度ダイハツがあってよかったと言っていただけるように会社を再生していきたい」。3月に就任した井上雅宏新社長は意気込みを語った。

井上氏はダイハツの親会社であるトヨタ自動車で、南米など新興国での営業畑を歩んできた。直近で務めていた中南米本部長時代にはトヨタ初の海外生産拠点であるブラジルのサンベルナルド工場閉鎖を含む工場再編などを指揮してきた。トヨタ幹部は「井上氏はとにかくいろいろな人と対話を重ねていく、会話型の人間」と評する。

発表会には、トヨタの元人事担当副社長の桑田正規、ダイハツ生え抜きの開発・生産担当役員である星加宏昌の両副社長も登壇。新たなダイハツ経営陣の船出を印象づけた。

トヨタとの役割分担を見直す

ダイハツが新たな経営方針で示したのが、小型車事業における組織再編とトヨタとの役割分担の見直しだ。両社にまたがっていた「新興国小型車カンパニー」を廃止。トヨタの「トヨタコンパクトカーカンパニー」に製品企画機能を移管し、トヨタが開発から認証まで責任を持つ体制に改める。

ダイハツが設置した第三者委員会では、トヨタの完全子会社となった2016年前後からトヨタの開発委託が増えたのに対し、安全試験や認証に関連する人員が急減したことが問題として指摘されていた。

トヨタ幹部は「当時の経営陣が合理化を優先させた結果だ」とするが、ダイハツ元幹部は「そもそもトヨタからの開発委託が増えて技術者を取られたことで負担が増した」と振り返る。

責任の所在がどちらであるにしろ、ダイハツの開発現場への過大な負荷が不正を招いた。このため従来、新興国向けの小型車ではダイハツが開発から認証まで責任を負っていたものを、実際の開発業務だけをダイハツが担うようにする。

海外向けの新車開発では「毎年のように法規が変わり、その法規と国の数、車両の数が掛け算となって、かなり膨大な負荷になっている」(トヨタの中嶋裕樹副社長)。こうした業務はトヨタが責任を持つ。

ダイハツは、法規認証室の人員を、2024年6月をメドに2023年1月比7倍まで増やす。海外向け業務を軽減したうえで、国内向け認証体制を増強。「軽自動車を中心としたモビリティーカンパニーとなる」(井上社長)方針だ。

人事や組織改革にも手をつける。5階層あった組織は、統括部長・副統括部長職の廃止によって社長・副社長・本部長の3階層に削減。若手の抜擢もしながら、経営陣と現場の距離を近づける。部門間ローテーションの活性化や形式優先の書面リポートの撤廃など風土改革を進めていくという。

開発標準日程を見直し

第三者委は、短期開発を重視するあまり、理想の開発日程を前提とした開発が常態化し、現場に過度なプレッシャーがかかったことが不正への直接の原因とも指摘。2011年9月に発売し大ヒットした「ミライース」の成功体験がきっかけとなったと分析した。このため、ダイハツは開発スケジュールを従来の1.4倍とした標準日程を規定化した。

しかし、あるダイハツの元首脳は「短期開発、ミライースそのものに原因を求めるのには違和感がある」と反論する。

ミライースでは、トヨタ系列に頼ってきた部品の調達網をダイハツ独自に開拓。低コスト化と高効率生産の確立といった幅広い領域での事業見直しで、短期開発と商品力を両立させた。こうした取り組みはダイハツの競争力の源泉だ。

そもそも新車の開発には一般的に5~6年かかるとされ、すべての自動車メーカーにとって短期開発は至上命令。まして、トヨタグループの小型車戦略でダイハツが担う東南アジア市場は、低価格EV(電気自動車)を武器に中国勢が猛攻を仕掛ける。1~2年で新車を開発するとされる彼らと戦わなければならないダイハツが短期開発の旗を降ろすべきかはわからない。

星加副社長は「開発期間は短いに越したことはない。正しい開発ができることを最優先に、諦めることなくやっていく」と話す。トヨタの中嶋副社長は「ダイハツは顧客の意見を反映した小さな車づくりに長けている。これはトヨタ以上だ」と評価する。

適正な開発体制を構築しながら、良品廉価で競争力を持った車をつくる──ダイハツに求められるミッション達成への道は険しい。

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