国内メーカーからも多くのモデルが登場し、街中でもよく見かけるようになってきたBEV。しかしながら、日本では、新車販売台数に対するBEVの割合はわずか1.8%。欧米や中国と比較して、10分の1から4分の1程度しかありません。なぜ日本人はBEVを買わないのでしょうか。

文:吉川賢一/アイキャッチ画像:Adobe Stock_Tupungato/写真:NISSAN、TOYOTA、MITSUBISHI、SUBARU、MAZDA、HONDA

BEV販売割合は、欧州では15%、中国22%、米国8%にも

 冒頭の国内の新車販売台数に対するBEVの割合1.8%というのは、2022年6月発売の軽BEV「日産サクラ」も含まれた数字。サクラが登場する以前のBEV販売比率は1%未満と、日本では本当にBEVが売れていません。

 一方、海外でのBEVの販売比率は、EUが約14.6%、米国では約8%、中国では約22%(いずれも2023年1~12月の統計結果)もあります。欧州では、かつて主力だったディーゼル車の販売割合(13%ほど)をすでに抜いてしまいました。

 日本は、世界でいち早く量産BEV「日産リーフ(2010年12月~)」が登場した市場であり、日産、トヨタ、マツダ、三菱、スバルなど、国産各メーカーからBEVが登場していることに加えて、テスラをはじめとしてメルセデス、BMW、アウディ、ヒョンデ、BYDなどのグローバルで評価されているBEVも多く販売されています。どれも完成度が高く、快適な乗り心地で、自宅充電ができれば移動コストも抑えられます。

 もちろん、BEVの特有の使い勝手が、自身のクルマの使い方にそぐわない人も少なくないでしょうが、それは海外も事情は同じ。それなのに、日本では販売比率が伸び悩む要因は、海外でのBEVの使われ方に、特有の傾向があることが関係していると思われます。

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海外はカンパニーカー制度によってBEVが普及した

 日本では、BEV購入に対する優遇策として、購入時の諸税金の減免税と、購入資金に対する補助金が導入されています。なかでも補助金は、日産アリアならば最大85万円、日産サクラも最大55万円もの補助が国から交付される(いずれも2024年度)ほか、自治体によってはさらなる補助金、もしくはなんらかのメリットが受けられる場合もあります。最大85万円もの補助金は決して少なくない金額ですが、実は欧米では、「カンパニーカー制度」によって、これ以上のメリットがあります。

 「カンパニーカー制度」とは、大企業の課長職以上など、一定の地位がある社員に、会社がクルマを支給する制度のこと。社用車と違い、業務時間外に乗ることも許されています。クルマは会社が購入(もしくはリース)してくれ、自動車保険、メンテナンス代、燃料までもが必要経費として会社が負担してくれ、経費であることから法人税上で損金として処理できる(純利益を減らすことができる)など企業側にもメリットが大きい仕組み。また、一定の期間で車両入れ替えが行われるため、新車が定期的に売れ、これによって経済がうまく回る、というメリットもあります。

 企業が、カンパニーカーにBEVを選べば、企業としてのCO2排出量カウントの抑制にもつながりますし、国からの高い評価も期待でき、補助金も受けることもできます。こうしたメリットによって、企業がカンパニーカーにBEVを選ぶようになり、前述のようなBEVの販売比率となったのです。

欧州市場で売れているフォルクスワーゲンのID.4。一時期、欧州市場でID.4が爆売れした月があったが、カンパニーカーとしての購入が重なったことが原因かもしれない

性能のいいハイブリッド車が比較的安価で購入できるもの要因

 また、日本のハイブリッドカーが優秀すぎるのも、日本でBEVが普及しない理由でしょう。20km/Lを超えるハイブリッド車が税込300万円~購入することができますし、BEVよりもバリエーションが豊富で、好みのクルマを選ぶことができます。また、リッター300円を超えている欧州の燃料価格と比べて、日本の燃料価格は、レギュラーガソリン170円、ハイオク180円、軽油150円と、高くなったとはいえ、安いのも、BEVを選ぶ必然性に欠ける理由でしょう。

 燃料代がさほど高くないことに加えて、BEVよりも低価格で購入できるハイブリッドカーがあり、このハイブリッドカーと、まともに勝負ができるBEVがない、となれば、BEVが選ばれないのは、もはや必然だと思われます。

ハイブリッド専用コンパクトの「アクア」。35.8km/Lという圧倒的な低燃費と、ハイブリッド車らしい軽快で上質な走りを両立。価格はなんと税込214万円~

力技でBEVを売ることはできるだろうが、どれほど意味があるのかは疑問

 中国では、BEVに対して多額の購入補助金を交付したり、大都市を中心にナンバープレートの発給制限を、BEVは無制限に許可するなどによって、BEVを半ば強引に普及させましたし、米国の中でも環境意識の高いカリフォルニア州では、渋滞時に2~3人が乗車しているクルマが優先的に走ることができる有料レーンを、BEV利用者はドライバーだけでも無料で使うことができる制度なども導入されています。

 日本でも、日常的に渋滞が発生する高速道路に、BEV優遇レーンを設けるなどすれば、BEV購入を考える人は増えるでしょうが、こうした力技でBEVを売ることにどれほど意味があるのかは疑問。もちろんカーボンニュートラル問題は、もはや待ったなしの状況ではありますが、日本では日本の条件にあった方法でカーボンニュートラルを実現していかなければ、持続可能ではなく、効果的ではないのではないか、と考えます。

日常的に渋滞が発生する高速道路に、BEV優遇レーンを設けるなどすれば、BEV購入を考える人は増えるだろうが、力業でBEVを売っても持続可能ではないのではないか

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