これまで日本にはたくさんのクルマが生まれては消えていった。そのなかには、「珍車」などと呼ばれ、現代でも面白おかしく語られているモデルもある。しかし、それらのクルマが試金石となったことで、数々の名車が生まれたと言っても過言ではない。
当連載では、これら「珍車」と呼ばれた伝説のクルマや技術などをピックアップし、その特徴を解説しつつ、日本の自動車文化を豊かにしてくれたことへの感謝と「愛」を語っていく。今回は、新しいミニバンのカタチを提唱したブーンルミナスを取り上げる。
文/フォッケウルフ、写真/ダイハツ
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■クラスで定番になった箱型ミニバンに対するアンチテーゼの代表格
背の低いミニバンは、箱型ミニバンに対してユーザーが抱いていた「商用バンっぽい」とか、「重心が高くで走りが不安」といったネガティブファクターを払拭する、まさに背の高いミニバンに対するアンチテーゼ的なクルマだったことがウケてミニバンクラスに定着した。
しかし、箱型ミニバンのデザインや走行性能が進化したことによって、箱型ミニバンへの不満が少しずつ解消され、なおかつ実用性重視で選ぶならSUVという選択が脚光を浴びたことも重なり、背の低いミニバンの需要が減っていつしか新車市場から姿を消してしまった。
それでも全盛期には、実用的で狭いながらも多人数が乗れて、なおかつ走りがいい。そんな特徴を打ち出したロールーフミニバンが多数存在した。今回クローズアップする「ブーンルミナス」も、ミニバンクラスで箱型以外が注目されていた時代に登場した1台だ。
ブーンルミナスの最たる魅力は、コンパクトカーのブーンをベースにした小さな多人数乗り車だったこと。ミニバンと定義するにはやや小さなボディサイズとしながら、乗る人すべてが快適に過ごすことのできるゆとりの室内空間を持ち、必要に応じて、5人乗りにも7人乗りにもなる。
デビュー当時は、あえてミニバンとは定義せず「毎日の足として使えるスタイリッシュなコンパクトカーでありながら、いざというときには多人数でも乗車できるクルマ」であることを強く打ち出していた。
ユーザーサイドから見れば、3列シートを備えた小さなミニバンなのだが、新しいタイプのコンパクトカーを作ったというのがダイハツサイドの言い分だったわけだ。
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■あえてミニバンとは定義せずコンパクトカーの新しいカタチをアピール
開発時のテーマとして掲げた「広くて、使いやすい、7シーター スタイリッシュ コンパクト」を端的に表しているのは、やはり車両のパッケージだ。
全高を1620mmとしたロールーフのスタイリッシュなデザインでありながら、エンジンルームをコンパクトにしてタイヤを可能な限り四隅に配置することで2750mmのロングホイールとした。これにより、全長4180mmというコンパクトカーと同等サイズとしながら2550mmという室内長を実現した。
十分な室内長を活かし、特に2列目シートには余裕の足もとスペースが確保され、150mmのスライド量や最大20度のリクライニングを可能したことも相まって心地よく乗車できる。
3列目シートについては、大人でも乗車できるよう配慮されているが、ダイハツ曰く「自然な姿勢で座ることができる」ほどのスペースは確保されていない。
もともとボディサイズが小さいことが大きく影響しているが、ロールーフタイプのミニバンにありがちな「補助席」で、大人でなくとも長時間乗車するのは難しく快適とは言い難い。あえてミニバンと定義しなかった点もこうした特徴にあるのかもしれない。
ボディサイズが小さいためミニバンとしては居住性に物足りなさがあるものの、実用性については十分に満足できる能力を有している。特に荷室はサイズなりの容量が確保され、室内空間の機能性を高めるシートアレンジが採用されている。
ロールーフタイプに限らず、ミニバンを利用するユーザーは、普段は2列シートしか使わず3列目は常時格納していることがほとんどと言われている。その理由のひとつにアレンジ操作が面倒であることが挙げられる。
そこでブーンルミナスでは、必要なときに必要なカタチで2列目と3列目が使えるよう、シートバックを倒すだけで誰でも簡単にアレンジ操作ができるよう配慮されている。そもそもブーンルミナスは「子育て世代の女性をメインユーザー」に想定していたこともあって実用系機能が簡単に使えることにこだわっていた。
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■女性ユーザーも運転しやすくて使いやすいことにこだわる
女性ユーザーを意識していたことは実用性だけにとどまらない。特に取りまわしのしやすさはミニバンクラスではトップレベルの能力を有しており、これも運転が苦手な女性でも気軽に運転できるための配慮と言える。
全幅1695mmの5ナンバーサイズとしているので、車両感覚がつかみやすく、狭い路地を走るときやスペースのない駐車場でもスマートに扱える。ホイールベースを2750mmと、コンパクトミニバンにしては長めに設定されているが、最小回転半径は5.2mを実現。
これも狭い場所でも安心して運転できる取りまわしのよさを実現する要素となっている。また、大型の三角窓を採用するとともに、ドアミラーを三角窓の後方へ配置するといった工夫によって斜め前方の死角を減らし、周りの状況がよくわかる広い視界を確保したことも運転のしやすさをもたらした要因だ。
内外装のデザインは、ファミリーカーとしてだけでなくパーソナルカーとして魅力的な選択肢となることにこだわり、ファッションなどにこだわりのある女性にも納得してもらえるような上質感を目指したという。
外観はすっきりとしたシンプルなフロントビューに、エンジンフードからフロントバンパーへと縦に流れる立体的なラインを施すことで、躍動感のある印象を強調し、シャープさと親しみやすさを両立している。
フロントピラーを前へ出して伸びやかなワンモーションフォルムを形成し、流れるようなシルエットを実現。ウインドウの周辺を凹面で削ぎ落としたデザイン処理を施すことで、フロントからリアまで一体となったフォルムを形成している。
リアビューはワイドトレッドとしたことが功を奏し、タイリッシュなプロポーションをしっかりと受け止める安定感が表現されている。
運転席まわりは、左右に大きく広がるラウンド形状のデザインとし、両サイドを前方に出すことで広々としたイメージを演出。インパネ中央には視認性に優れた大型2眼メーターを採用し、厚みのあるアクリルを用いて立体的なリング加飾を施すなど、洗練された上質な雰囲気を漂わせている。
内装色はダークブラウンとグレージュのツートーンとし、インパネやドアトリムには質感の高い表面処理が施される。こうした作り込みによって特別感のある室内空間に仕上げている。
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■200万円を切る価格でミニバンに必要な機能と性能を追求
コンパクトとはいえ、ミニバンであるからには心地よくドライブできて、安全であることも重視される。走りついては、低・中速域での豊かなトルクと高速域でのスムーズな加速性能を両立した1.5L 3SZ-VEエンジンの搭載をはじめ、ロングホイールベース、ワイドトレッドによって優れた加速性能や走行安定性能を実現している。
街なかでのキビキビとした走りから高速走行まで、さまざまなシーンでゆとりのあるドライブが楽しめた。そのうえで10・15モード走行燃費は15.6km/L(2WD車)を達成し、まだハイブリッドが主流になる以前の新車のなかでも優れた経済性と環境性能を実現していた。
ファミリーカーとして家族の誰かが乗っても安心かつ快適に運転できることにもこだわっている。ロングホイールベースの採用とボディの四隅にタイヤを配置したこと、さらに空気抵抗の少ないスタイリッシュなフォルムも走行時の安定性にも寄与している。
安全性については現代のクルマのような全方位で安全運転を支援する機能は備えていないが、横滑り防止装置のVSCをはじめ、コンパティビリティの概念を取り入れた衝突安全ボディを採用。万が一の衝突時にはサイド、カーテンシールドエアバッグによって乗員を保護する能力が高められている。
コンパクトカーをベースにしながら、7人乗り3列シート車に求められる利便性を追求し、日常利用に十分な機能・装備を採用しながら200万円を大幅に下まわる153万5000円から、というリーズナブルな価格設定としたことも注目された。しかし、コストパフォーマンスの高さが販売に直結することはなく、ブーンルミナスは約3年の販売期間に、マイナーチェンジはおろか一部改良すら実施されていない。
ミニバンクラスは箱型ミニバンを定番としながら、走りのよさを追求したストリームやオデッセイ、スタイルのよさを強調したウィッシュ、ユニークな作りで独自性をアピールしたラフェスタやエクシーガなど、箱型ミニバンに対抗でき得る要素を持ち合わせたモデルが市場で一定の支持を集めていた。しかし、ブーンルミナスはロールーフミニバンを選ぶユーザーから支持を得ることは叶わなかった。
3列シート車は欲しいが、小さなミニバンでは用を成さないと考えるユーザーが多かったことが影響したのかもしれない。しかし、ユーザーをファミリーだけに特化せず、女性を意識して作り込むなどの画期的な試みは、今になって思えば高く評価できる一台だったといえよう。
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