以前に大阪・関西万博開催にともなうバス輸送力を担う運転士の募集について考察記事を書いたが、どうやらそれでも集まらないようで、とうとう大阪メトロの社員を一時的にバス運転士に養成して従事させるカードを切ったようだ。
文/写真:古川智規(バスマガジン編集部)
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■政治的には民営化で決着した大阪シティバス
大阪・関西万博の会場へは鉄道を利用しても、自家用車で行ったとしても、それぞれ会場まではバス輸送に頼る。しかし万博開催の構想段階ではさほど問題になっていなかったバスの運転士不足が顕著になり、足元の路線バスの運行さえ危うくなっているのは大阪に限らず日本全国で起きている危機的な事実だ。
公営であったころの大阪市バスの運転士(だけではないが地下鉄職員を含めて)は公務員であったが、高給とやり玉にあげられ民営化され、低い方(民営のバス事業者)に待遇が寄っていく形となった。当時は市民の批判の方が強く、まさかバス運転士がいなくなるとは夢にも考えていなかったのだろう。民営化はあっという間に完了し、大阪メトロ傘下の大阪シティバスに転換された。
それで政治的には決着したはずだったが、バス運転士の採用がままならず離職するものが後を絶たないのは全国的な流れで、あわてた業界と国は大型二種免許の取得要件を講習により緩和する等の施策を実施したのだが、問題はそこではないのは誰の目にも明らかだった。
■最後のカードを切ってしまった!
報道によると、大阪メトロ(大阪シティバスから見ると親会社で地下鉄運行会社)の社員の中から大型二種免許保有者はもちろんのこと、希望者を募り大阪メトロが費用を負担して大型二種免許を取得させ、万博期間中は不足する運転士を大阪シティバスに出向させるという。
当然ながら教習所に通い大型二種免許を取得する時間は業務中とみなされ、出向期間中は会場内の巡回バスと駐車場とを結ぶシャトルバス2路線の運転士として乗務する予定だそうだ。
■根本的な解決はしないのか?
これは自社の社員を運転士に仕立てて運行台数を確保しようとするものだが、外部からの新規採用は積極的に行っているので、経費の問題ではないだろう。外部からの応募がままならず本当に足りないので、タコが自分の足を食う(本当はそんなことはしないが)がごとく、自社グループ内で業務として運転士を養成しなければならないのだろう。
アイデアとしてはこの上ない効率的なものだが、本来は鉄道業務をしなければならない人材をバス運転士に回すというのは一時的な万博という期間中であるにせよ、あまり褒められた状況ではない。
■免許はハードルなのか?
報道によると全国で新たに免許を取得する人材に対して助成をしている日本バス協会は、運転手の養成は費用と時間がかかり、各社の高いハードルになっている。助成が少しでも人材確保につながれば…との見解を示したようだ。
物事には本音と建て前があることは十分承知の上なので、あくまでも立場上そう言わざるを得ない建て前であろう。現状では教習所に通えば大型二種免許は取得でき、費用もかかるが1回の支出なので長い勤務をしてもらえれば事業者としてはさほど高額な負担ではないだろう。
よって免許取得が高いハードルになるとは思えない。そこが問題ではないことは天が知り地が知る誰にも明らかなことなのだ。
■待遇か健全化か?
一番の問題は待遇と責任である。非常に重い責任が1乗務ごとにかかる運転士の待遇としては現状では新規採用は難しいだろう。かといって安い運賃で乗客減に悩まされるバス事業者がこのままで待遇を高められるとも思えない。
要は、待遇が先か(運転士確保)、健全化(路線の合理化や廃止)が先かの問題であり、両立するには相当な資金が必要だということも頭が痛い事実だ。
その出どころは借金か公的資金しかなく、どちらを選択しても国民の負担は増す。事業者の借金ならば運賃に転嫁するので負担は増し、公的資金であれば原資は税金なので広く国民に負担がかかる。
国民的な議論が必要だが、公的資金で運転士も確保し路線も維持するのが最適解だと思われるがいかがだろうか。考え方にもよるが、これらはバス事業者の税負担を軽減させることも含まれるので、直接的な国民の増税となることだけを意味するものではない。軽油引取税や車検にかかる税負担を軽減させるだけでも経費は減るからだ。
いずれにしてもタコが足を食うことが常態化していいわけがないので、国民が広く意見を出し合うことで関心ごとである事実を政治家に認識させることも重要なのかもしれない。公共交通機関等の住民の足確保が選挙の争点になれば、政治家が慌てるのは明らかだからだ。
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