富士スピードウェイは会場内に、モビリティリゾートもてぎには付近にキャンプ場ができたのはご存じだろうか。この2つが宿泊施設を建設したのにはある理由がある。この記事では、その理由について綴っていく。
文/写真:段純恵
■日本モータースポーツのさらなる発展へ
残念なことに、日本国内でモータースポーツの人気が高いとはお世辞にも言えないことに異を唱える人はまずいないだろう。
春開催となった今年のF1日本GPは3日間で史上最多の延べ22万9千人を動員したというが、会場のキャパシティの違いがあるにせよ、30万枚以上のチケットを捌いているインディ500やル・マン24時間レースと肩を並べているとは言い難い。
これがスーパーフォーミュラはじめ国内レースとなると桁が下方に違うのだから、各サーキットが集客の方策に知恵を絞るのは当然である。
その方策のひとつとして、日本が誇る2つのサーキットを運営するモビリティランドと富士スピードウェイが同じ方向、つまり野外での一時的な生活や宿泊を提供する施設に狙いを定めたのが興味深い。
モビリティリゾートもてぎの「森と星空のキャンプヴィレッジ」と富士スピードウェイ内の「RECAMP富士スピードウェイ」だ。
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■レースも大自然を存分に感じれるグランピング施設
「森と星空のキャンプヴィレッジ」だが、こちらはその名の通り、コンセプトからしてモータースポーツとの関係はあまり念頭に置かれていない。コースから離れた森の中のキャンプ村には、豪華なグランピング施設、冷暖房付きログキャビン、そして持参のテントを設営できるエリアがある。
実は筆者はここで初めてグランピング施設というものを見たのだが、ちょいと高めのシティホテルの設備を持つオシャレなゲルというか、部屋にいても自然を肌で感じられるシティホテルというか。
心地よいベッドに横たわりながら満天の星空を見られるなど非日常の極みで、砂漠のベドウィンかモンゴルの遊牧民もかくやの贅沢だが、砂や大地の底冷えと無縁なのが素晴らしい。
夕食はBBQで、栃木産の各種肉や魚、野菜をテント外の専用キッチンで自分で調理する。熾った炭や食材の焼ける香りが森の空気と調和し、胸いっぱいに吸い込むと心が伸びやかになっていく。
こんな開放感、コンクリートの街中ではまず味わえない。栃木の山並みを眺めながら自然との一体感を満喫していると、同じ敷地内で開催されているレースのエンジン音は遠く、森の小鳥たちの声のほうが耳に近い。
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■レース場でしか味わえない癖になるグランピング施設
「RECAMP富士スピードウェイ」になると事情はガラっと変わる。何しろ施設が建っている場所からして100Rのイン側である。
レース開催中なら疾走するマシンや車両同士の接近バトルを、客室のコテージやトレーラーヴィラの室内やベランダから居ながらにして観戦でき、レース中にマシンが発する実際の音を全身で体感できるところがスゴい。
完全なプライベート空間が確保されているため、周りを気にせず景色とレースを堪能できる点も良い。同じキャンプ場内には持参のテントを張れる個別エリアもあり、そこから100Rやヘアピンコーナーを見渡せる観戦ポイントはすぐの距離だ。
夜になると、マシンの咆吼に包まれた昼間の喧噪がウソのような静寂の帳が下りる。この激しい落差に驚き、虫の音をバックに流れ星を数えた数時間後には、小鳥の鳴き声とともに霊峰・富士の姿で新しい一日が始まる。
ユーノディエールの朝焼けも美しいが、早朝の凜とした空気のなか、最終コーナーのむこうに眺める朝日に輝く富士山はただただ神々しい。これはもう「RECAMP富士スピードウェイ」でしかできない体験で、レースファンならずとも一度は目にしたい光景だろう。
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■”非日常”を”日常”へ…まずは敷居の高さの払拭から!!
モータースポーツに関わる職業以外の人にとってサーキットは非日常の空間だが、ファンとして何度もレース観戦に訪れていれば、やはりそこは日常の一コマになる。つまり日常と非日常を分けるのは回数ということだ。
とはいえ、富士で第一回F1日本グランプリが開催されてからほぼ半世紀、日本では相変わらずモータースポーツはメジャーとは言い難く、圧倒的大多数の人々はサーキットに出かけて生でレースを観戦する経験を持ったことがない。
何しろ大抵のサーキットは人里離れた山の中。モータースポーツに興味が湧いたとしても、子供同士や女性だけでサーキットに訪れることはいろんな面で敷居が高い。
だがプラスアルファのもうひと押しがあれば、高い敷居を超えてでも行ってみようという気持ちも強まる。
これまた子供や女性にとってちょっと敷居の高い野外での生活と、サーキットの抱き合わせは「一粒で二度美味しい」効果を産み、これまでモータースポーツを観る機会のなかった人々が、ファミリーや友だち同士(もちろんカップルでもOK)が未体験ゾーンに足を踏み入れるきっかけになるのではなかろうか。
ル・マンの一般駐車場でテントを広げ、簡単な料理やワイン、ビールで乾杯し、寝袋で熟睡する人々の手慣れた様子を見ていると、もう何回、何十回と同じことを当たり前にしてきたことが容易に想像できる。
彼らにとってル・マンを始めとするモータースポーツイベントやキャンプは、「非日常」というよりも「スパン長めの日常」といったほうが近い。
多くの日本人にとってモータースポーツが「スパン長めの日常」になる日はそう急には来ないだろう。それでも二つのサーキットにある野外宿泊施設を通じてモータースポーツへの興味が湧き、一度レースを観てみようかと思う人が少しでも増えればもっけの幸い。
人々の生活の延長線上にあってこそ、その事象は『文化』となるのである。
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