ドイツ連邦政府と同国のバーデン・ヴュルテンベルク州およびラインラント・プファルツ州政府は、燃料電池トラックの開発、少数量産、顧客展開(運用・保守)のために、ダイムラー・トラックに2億2600万ユーロ(約370億円)に上る資金提供を行なうことを承認した。
この資金提供はEUの「欧州共通利益のための重要プロジェクト(IPCEI)」の一部として行なわれ、メルセデス・ベンツ製の量産型燃料電池トラックが2026年末にも顧客のもとで実運用に供せられる。
政府が巨額の公的資金をメーカーに提供する背景とは?
文/トラックマガジン「フルロード」編集部
写真/Daimler Truck AG
ドイツ政府などがダイムラーに巨額の資金提供
ドイツ連邦政府と同国のバーデン・ヴュルテンベルク州およびラインラント・プファルツ州政府は、欧州連合(EU)の「欧州共通利益のための重要プロジェクト(IPCEI)」の一部として、ダイムラー・トラックに総額2億2600万ユーロ(約370億円)の資金提供を行なうことを承認した。
2024年11月18日にダイムラーが公表したもので、ヴェルト・アム・ラインにある同社の試験・開発センターで、連邦デジタル・交通大臣兼法務大臣のフォルカー・ヴィッシンク氏からダイムラーのカリン・ラドストロムCEOに通知書が手渡された。なお、この申請は欧州委員会による厳正な審査を受けていた。
巨額の公的資金をメーカーに提供する目的は、燃料電池トラック(FCEVトラック)の開発、少数量産(small-series production = 量産車と同じラインで少数を製造する)、顧客展開(運用・保守)とされ、100台のFCEVトラックが2026年末ごろから顧客の下での運用を開始する。
長距離トラック輸送の脱炭素に向けて、開発から運用までの各段階で知見を蓄積し、商用車産業におけるドイツの国際競争力を維持する狙いがあるが、もしかしたら乗用車の電動化では政府から強力な支援を受ける中国メーカーの躍進を許したことへの反省もあるかもしれない。
ダイムラーCEOのカリン・ラドストロム氏は、「100台のFCEVトラックの開発と少数量産に対する資金提供が認められたことは、道路輸送における水素の利用にとって大きな後押しとなります。これはダイムラー・トラックだけでなく、商用車業界全体にとって大きな出来事です」と話している。
また、ドイツ連邦のヴィッシンク氏は、「ダイムラー・トラックは液体水素を燃料とする量産型トラックを製造する欧州初の企業であり、道路輸送分野での水素技術の商用化を力強く推進しています。新しいFCEVトラックを導入することで、持続可能な輸送を可能にする駆動技術の組み合わせについて、重要な知見が得られます」と話した。
ダイムラーは2021年に資金提供の申請を出していた。IPCEI申請額の約3分の2を受け取ることになった同社だが、燃料電池トラック開発にかかる総投資額のかなりの部分を自社でも負担する。
IPCEIは欧州連合の共通利益のためのプロジェクトで、今回の資金提供はその水素プログラムの枠組み内で創設された。車両の開発と製造の両方の活動を対象とし、さらに水素バリューチェーンの実現可能性に関する調査や、量産準備のための投資にも使用可能だという。
電動アクスルを製造するメルセデス・ベンツのカッセル工場など、重要なコンポーネントはドイツ国内で製造する。中でも中核となる燃料電池ユニットはダイムラーとボルボが折半出資するセルセントリック社がエスリンゲンでパイロット生産したものを、ガッゲナウ工場で組み立てる。
最終組み立ては大型トラックを製造しているヴェルト工場で行ない、2026年末にも様々な顧客のもとで実運用を開始するという計画である。
ダイムラーが一貫して追求する「デュアルトラック戦略」
資金提供のアセスメントにおいて欧州委員会は、早い段階からこのプロジェクトに匹敵するベンチャーが存在しないことを確認しており、IPCEIの基準として肯定的に評価された。
水素をエネルギーを保持するキャリアとしてみると、液体水素は気体水素よりはるかに密度が高く、すなわち大量のエネルギーを持ち運べることを意味している。トラックの燃料とした場合、航続距離が大幅に伸び、従来のディーゼル車に匹敵するパフォーマンスが得られる。
さらに液体水素タンクは、気体用の高圧タンクよりコストと重量の両面で利点があり、「極低温」が必要という一点を除けば、液体水素は長距離輸送にとって理想的な燃料だ。ダイムラーは「GenH2」プロトタイプトラックによる公道走行「#HydrogenRecordRun」により、液体水素タンク1つで1047kmを走行し、その可能性を実証している。
2022年に拘束力のない資金提供の見通しが出ており、ダイムラーは早くから対応を進めることができた。プロトタイプの製造もその一部で、既に5台がカスタマートライアルを進めている。いずれもセミトレーラ・トラクタで用途はドイツ国内の様々な長距離輸送だ。
その燃料となる液体水素(過冷却によりボイルオフ損失を抑えた「sLH2」燃料)はヴェルト・アム・ラインとデュイスブルクにある液体水素充填ステーションで補給している。
2026年末から順次100台が追加されることになったが、変革を成功させるためには今後数年間で国際的な燃料補給インフラの構築と、コスト競争力のあるグリーン水素の供給を併せて確保する必要がある。
世界最大の商用車グループの一つであるダイムラーは、2039年までに主要市場(欧州、米国、日本)で提供する新車のすべてを、走行時にCO2を排出しない車両にするという目標を掲げている。
バッテリーEVは配送車両としては最適で、また長距離輸送でも走行ルートと時間があらかじめ決まっている定期便(幹線輸送)では、適切な充電オプションを備えた車両(メルセデス・ベンツ「eアクトロス600」など)により可能となる。
ただし、柔軟な配車が必要な一般的な長距離輸送や重量物輸送などは、水素がより優れたソリューションとなり得るとして、ダイムラーは水素とバッテリーを両輪とするデュアルトラック戦略を一貫して採用している。
また、適切なインフラと充分なグリーン電力を確保する上でも、エネルギー移行を迅速かつコストを抑えて実現するためには、どちらかに依存するのではなく両方の技術が必要であるというのがダイムラーの主張だ。
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