ホンダがEICMA2024(ミラノショー)で発表した「電動過給機付きV型3気筒エンジン」は詳細は発表されておらず、どんなモデルになるかも謎のベールだ。気が早いが予想してみた。

  文/市本行平  

V型エンジンをあきらめていなかったホンダ

 ホンダは1979年にNR500で世界GPに復帰した際にV型4気筒エンジンを採用し、従来の並列レイアウトのエンジンからV型に転換を図った歴史がある。以来、世界GPにおいては一貫してV型を採用し続けており、これまで数多くのエンジンを開発し、活躍してきている。

 そして、市販車でもホンダはV型を主力にすべく1980年代に大攻勢をかけたが、こちらはレースほどの功績は残せていない。当時のバイクブームに乗ってVT250Fシリーズは大ヒットしたが、他は直4モデルほどの人気を得られず、現在は全てのV型スポーツが生産終了してしまった。

 理由は「直4はフィーリングが良くエキサイティング」とよく言われる。並列4気筒の排気音やなめらかな回転フィールは魅力的で、商品性においてはV型は敵わなかったのだ。それでもホンダが再びV型にトライするのは、どういった戦略なのだろか。

 

 

 

 

     

次期MotoGPとのリレーションはなさそう

 ホンダが改めてV型エンジンのマシンを出すにあたってまず気になるのは、2027年からMotoGPの排気量が850ccに引き下げられる際に登場する新型マシンとの連携を図るかどうかだ。仮に新型V3マシンの発売が2026年だとするとタイミングも近い。

 しかし、これは違うかも知れない。2027年からのMotoGPは「Engines will remain 4-stroke only, with 4 cylinders」とされ、「4ストロークのみ、4気筒」なので、1~3気筒は除外されているのだ。だだし、4気筒「のみ」とも書かれていないので異なる解釈もできる。

 そして、もう一つの否定材料は、ホンダ二輪事業統括の加藤稔氏が850ccの新型MotoGPマシンについて、「量産開発にリンクするかと言えば今の時点では難しいと思います」と語ったことだ。開発中とされる新型RC214V(仮称)は、V型3気筒ではない可能性が高い。

 ミラノショーで登場した新しいV型3気筒エンジンはアッパーミドルクラスと言われており、850ccの次期MotoGPマシンに近い排気量になると思われるが、MotoGPイメージを受け継いだレプリカ的なモデルではなさそうだ。

 

 

 

 

レースとは一線を画したスポーツモデルに期待

 新V型3気筒モデルの完成車についてヒントはいくつかある。前述の加藤氏は「お客様からは“もうちょっと新価値が欲しいよね”と言われています」と語っており、大型ファンモデルの既存プラットフォームにはない価値を生み出すことを目的とした新型モデルになるはずだ。

 ホンダの欧州での販売状況は好調で、CRF1100L、CB750ホーネット、NC750Xなどの並列2気筒エンジンとCB650Rなどの並列4気筒エンジンの計4つのプラットフォームが牽引している。新V型3気筒は第5の柱として位置づけられており、オリジナリティが重視されている。

 アッパーミドルの3気筒ではヤマハのMT-09シリーズが欧州で地位を確立しており、ネイキッドやツアラー、スーパースポーツまでバリエーションを拡大しており、ホンダはこれに独自のV型3気筒+過給機で対抗するだろう。バイクでは世界初の例となり注目度も高い。

 ヤマハが2025年からYZF-R9で参戦するWSSPクラスにホンダはCBR600RR、上位のSBKにもCBR1000RR-Rを投入しており、新しいV3マシンはレースとは一線を画した自由度の高いコンセプトを選択できる。それが「新価値」という新たな提案に結びつくだろう。

 

 

 

 

 

 

V3エンジンは過去のGPマシンの技術を受け継ぐ

 ホンダがV型3気筒を選択した理由は1983年にWGP500でタイトルを獲得し、市販車のMVX250FやNS400Rのイメージを受け継ぐことがまず考えられる。ホンダならではのオリジナリティを追求する上で重要な歴史的背景として価値を高める好材料だ。

 技術面では、V3にしたのはエンジン内部の運動部を左右対称にできるからと推測できる。これはRC211VのV5エンジンで強調された特徴でカップリング振動を抑えることができるのだ。2010年のVFR1200FではV4でこの特徴を受け継いで発売された経緯もある。

 また、75度という挟み角はRV211Vの75.5度に近く、一般的な90度V型4気筒よりもコンパクトにできる。RC211Vでは1次振動をキャンセルできる角度になっており、新しいV型3気筒でも1次振動を打ち消す工夫が施されている可能性があるだろう。

 バランサーを不要にする技術はパワーを追求するホンダの伝統でもあり、新V型3気筒マシンはこの特徴を受け継いでいることに期待したい。公開されたエンジンはケースにバランサーとらしき張り出しも見当たらず非常にコンパクト。振動を抑えるとエンジンやシャーシを軽量にできるのもメリットだ。

 

 

 

 

過給機の採用もホンダのオリジナリティ

 過給機と言えば2015年にカワサキが発売したスーパーチャージャー搭載のNinja H2/H2Rを思い浮かべるが、バイクで先鞭をつけたのはホンダだ。1981年にホンダは二輪初のターボ車「CX500ターボ」を発売し、498ccの2気筒エンジンで82PSのパワーを発揮した。

 ミドルクラスの車体でリッターバイク並みのパワーを発揮させることが狙いで、この考え方は新しいV型3気筒エンジンにも通じているだろう。アッパーミドルの800~900cc程度の排気量でも過給することで、リッターバイクを上回るパワーを発揮できるはずだ。

 また、現代ならではのテーマとして過給機をエコに活用しているとも考えられる。燃料噴射量を抑えたリーンバーン時でも過給することでトルクを確保する制御ができることから、パワーと同時に燃費を追求していくこともテーマになると思われる。

 さらに、電動とすることでかつてのターボで指摘されたターボラグの解消も可能。ホンダが新しいV型3気筒エンジンでアナウンスする「内燃機関領域での新たなチャレンジ」には、エンジンレイアウトだけでなく制御面での進化も期待できるはずだ。

 

 

 

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