ベストカー本誌で30年も続いている超人気連載「テリー伊藤のお笑い自動車研究所」。過去の記事を不定期で掲載していきます。今回はランドローバー ディフェンダー(2020年-)試乗です!(本稿は「ベストカー」2021年2月26日号に掲載した記事の再録版となります)
撮影:西尾タクト
■SUV新興勢力に見せつけた「歴史」と「伝統」
新型ディフェンダーを間近で見て、ベテランの意地を感じた。
近年、猫も杓子もSUVで、ロールスロイスもベントレーもポルシェもランボルギーニも、SUVを作って売り上げを伸ばしている。
そんな様子を片目で見ながら、少しは気になるところもあったはずだが、ディフェンダーは72年ぶり(!)のフルモデルチェンジで底力を見せつけた。
なんと言ってもデザインが天才的。丸目のヘッドライトはディフェンダーの伝統だが、あえて上部をスパッと切って未来感と個性を出す。
また、後席の上に窓を配置するのもディフェンダーの伝統で、それもしっかり守りながら新しさを出している。つまり、新しいのにどこから見ても「伝統のディフェンダー」なのだ。
SUVの新興勢力に「歴史の重み」を知らしめている感覚。160km/hの速球を投げる新人投手がSUVの新興勢力なら、そんな新人を相手にしないベテランエースがディフェンダー。
それも熟練のワザではなく、ベテランなのにストレートの真っ向勝負でバッターを牛耳る絶対的なエースの貫禄なのだ。
新興勢力に唯一ないもの。それは歴史と伝統だ。もちろん、ロールスロイスやベントレーなどSUVの新興勢力たちも、ブランド自体の歴史はランドローバー以上だが、クルマそのものに伝統がない。
歴史と伝統がすべてではないし正義とも思わないが、長く培ってきたものにはやはり価値がある。新型ディフェンダーを見ていると、歴史と伝統の「凄み」を感じる。繰り返すが、これが72年ぶりのフルモデルチェンジなのだ。そんなクルマ、ほかにあるだろうか?
今や輸入SUVは百花繚乱の時代。なかでもワイルド系オフロードテイストのベンツGクラスやジープラングラーは大人気で、街で見かける機会も多い。
その手のクルマが大好きな私でもちょっと辟易してしまうくらいだが、新型ディフェンダーはそのなかで独特の魅力を発揮している。
「古いのに新しい」のが最大の美点で、それを可能にしているのがこの「天才的なデザイン」なのである。
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■長く乗るほど愛着が湧き、味が出るクルマ
ここまで読んでもらえば、いかに私が新型ディフェンダーに惚れ込んでいるかわかってもらえると思うが、唯一、気になるのは全長5m、全幅2mに迫る巨大なサイズだ。
都内の移動が多く、しかもほとんどひとりかふたりで乗っている私の使用パターンからすると、あまりにもサイズが大きい。
最高の洋服を見つけたのにサイズが合わないようなもので、まさに忸怩たる思いだが、冷静に考えてみれば、それもしかたないことだとわかる。
つまり、大きさも魅力のひとつなのだ。合理的なサイズにした時にライバルの高級SUVに勝てるのか? ということだ。たとえ相手がロールスロイスやベントレーであっても、ことSUVでディフェンダーが位負けするわけにはいかないのだ。
最廉価グレードなら529万円という意外な安さのディフェンダーだが、それでも超高級ブランド相手に存在感で引けを取らないのが凄いところ。そのためには「大きさ」も必要ということなのだ。
今回試乗したのは4ドア、2Lガソリンターボエンジンの110だった。このエンジンが素晴らしく、ジェントルなのに踏めば300psが炸裂。力持ちだけど優しい理想的なエンジンで、このエンジンと古くて新しいデザインの組み合わせは最高である。
乗り味に高級感があり、フォーマルもアウトドアも似合う。もうひとつこのクルマの美点を言うと、長く乗れば乗るほど魅力が増してくるということだ。
買って5年目くらいで愛着が増し、10年目頃から味が出てきて、15年したら息子に譲りたくなる。そういうクルマは本当に珍しい。そこはほかの輸入高級SUVにはない、ディフェンダー独特の魅力だと断言できる。
百花繚乱のSUV界に真打ちが登場した。サイズが大きすぎるとか、自分の使用パターンでは無駄が多いとか、値引きはいくら期待できるのかとか、そんなシケたことを言っていないで、さらりと契約書にハンコを押す。そんな男に私はなりたい。
自分の器の小ささを思い知らされる今回の試乗でもあった。
(写真、内容はすべてベストカー本誌掲載時のものです)
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