クルマ界のあらゆる不思議に迫ることで一部でカルト的な人気を誇ったかもしれないベストカー本誌企画「不思議でたまらない」。今回は本企画から、パトカー入札価格にまつわる「フシギ」を深掘り!(本稿は「ベストカー」2013年6月26日号に掲載した記事の再録版となります)

文:編集部

■発端は、キザシとSX4のリコールが届け出られたことだった……

こちらは市販車のキザシ

「2013年5月15日、スズキはキザシとSX4のリコールを国土交通省に届け出た」。……といってもこれは覆面パトカーの話。

 なんでも、「サイレンが充分鳴らない恐れがある」というのが今回のリコールの理由だ。

 その原因は、水抜き用の穴がないことで内部に水が溜まることだという。リコールの対象は覆面パトカーとして使われるキザシとSX4の2車種で、その台数は1040台となった。

 キザシといえば、その販売台数は月販で数十台ほどだった。

 しかし、本誌の過去記事でも取り上げたように警察用車両として大量入札があったため、特に2013年に入ってから販売台数を伸ばしている。

 下の表を見ればわかるが、2012年の11月と12月は8台しか売れなかったキザシが2013年に入り3ケタの月販台数を連発!

1~3月の3ヵ月間は好調だったが4月に入り台数急落!

 2013年3月のキザシの販売台数は424台で、過去最高台数を記録した。

 この件についてスズキ広報に聞くと「(販売台数が増加したことについて)警察用車両としての大量導入の影響は確かにありますね」との回答をいただいた。

 もともと月10台ほどしか売れていなかったクルマでは、街なかでお目にかかるケースもあまりないはず。

 それが今回の警察への大量導入を機に、今号の「みんなの駐車場」でも読者の皆様からの目撃情報が続出。

 じゃあいったいどのくらい警察にキザシが導入されたのか? これも表とともに見ていく。

■908台ものキザシが覆面パトに!

合計908台が落札されている

 具体的なデータは上の表の通り、導入台数が2WDと4WD合わせて908台。2WDの落札価格が7億4799万2700円、4WDが2億8665万円。

 それぞれの金額を1台あたりで割ると2WDが約105万円、4WDが約147万円となる(いずれも本誌の独自調査に基づくデータ)。

 これだけの台数と金額が動いているだけでも驚きだが、さらに驚くべきは市販されるキザシの価格とのかい離だ。

 キザシはワングレードのみの構成になっており、その価格は2WDが278万円7750円、4WDは299万7750円(いずれも税込み価格)となっている。

 つまり2WD、4WDともに市販価格と今回の入札価格には約150万円もの開きがあるのだ。

■なんで覆面パトのキザシはそんなに安いのか?

 警察用車両は国費で購入されており、それは私たちの税金から賄われているのだからそりゃ安い方がいいに決まっている。

 しかし、これだけ市販と警察車両の落札価格に開きがあると「なんでそんなに安くなるんじゃい!!」という疑問が出てくるのも当然だ。

 まずはスズキ広報に尋ねてみた。すると

「細かい仕様についてのコメントは差し控えさせて頂きます」

 との回答。うーん、何とも煮え切らない。ならば、警察庁に問い合わせてみる。すると

「価格についてはオープンな入札での結果になっており、それ以上はお答えできません」

 とのこと。聞いてもいないことを答えられたばかりか、これじゃあキザシの覆面パトカーが安い理由はサッパリわからない。

 そこで、キザシの覆面パトの謎を解くべく、担当、覆面パト仕様のキザシを実際に見てきた。

■外観のポイントはフロントのフォグ

こちらが覆面パトカーのキザシ。フロントフォグがないのが覆面の証!

 まず、外観の違いで最初に気づいたのはフロントにフォグランプがないこと。

 市販されるワングレード構成のキザシにはフォグランプが標準装備されている。よってフォグランプのないキザシは基本的には存在しない。

 また、後方から見える無線用アンテナの存在も覆面パトカーを見分けるポイントのひとつではあるが、クルマとして捜査用=覆面パトカーのキザシと一般ユーザー用を見分けるには、やっぱりフロントにフォグランプがあるかないかを確認することが一番のポイントとなりそうだ。

写真右上に注目! 無線用アンテナが確認できる

 さて、もっと近寄ってみる。

 近くに立っている警察官からは、不審者を見るような怪訝な表情をされたが「自分たちの税金で買われたものを見ていて何が悪いんですか!?」という心の声を押し殺しつつ車内の様子をチェック!

 そんな状況から満足に眺めることはできなかったが、ひとつ気づいたことがあった。

 それはシートの違いだ。市販のキザシは本革シートを標準装備するが、この覆面パト仕様のキザシはどうやらファブリック生地のシートを装備しているように見えた。

 ほかの部分の細かい仕様については確認できなかったが、市販のキザシから大幅に装備の簡素化が行なわれていることは間違いないようだ。

 こうした装備の簡素化が約150万円の価格差につながった理由だろうか?

 しかし、それにしても105万円はちと安すぎる印象。

 キザシはスズキの国内販売においてフラッグシップを担う位置づけなので、しかたない部分もあるけれど「ならば、もう少し廉価版のグレードを!」というユーザーの声も出てきそう。

 そういったグレードがあれば、「キザシを買いたい!」という人が出てきそうなだけにもったいない気がしてならない。

 もう一点、この問題を調べていて気になったところがある。それは、情報がきわめて閉鎖的なことだ。

 覆面パトカーを警察が導入する方法として、競争入札を行なう、もしくは入札が不成立になった場合、随意契約で車両を調達する方法がある。

 こうした契約の内容は税金を納めている立場からすれば、クルマ好きならずとも気になるものだが、このような情報を知るためには情報公開請求をしなくてはならない。

 これは手間がかかることだし、請求したからといってすべての情報が公開されるとも言えない。

 だからもっと普通の人が情報を知りやすい制度にしてほしいもの。

 そうすれば市民を守ってくれる警察車両に対してのイメージがよくなるハズだし、きちんとした契約内容が多くの人の知るところとなれば、「覆面パトの価格が安すぎる!」なんて声も減ると思うんだけどなあ。

●キザシ覆面パトの4大ポイント!

1. フォグのないキザシは覆面の可能性高し!
2. 2WDで約105万円という驚きの安さ!
3. 安さの理由は装備の簡素化
4. 908台ものキザシが覆面パトに!

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