クルマのデザインはさまざまだが、同じカテゴリーのクルマが互いに似てしまうという現象はままある。そんな“本家”に対して模倣といわれたクルマが成功した例はあるのか? 果たしてオマージュの結果は?

文/長谷川 敦、写真/ダイハツ、CarsWp.com

■どうしてデザインが似てくるのか?

スポーツカーの空気抵抗軽減のように、はっきりとした目的があると、意図せずにボディ形状が似てしまうケースはある。しかし、それを超えた類似車も存在する

 クルマをデザインするうえで、サイズや乗員人数など多くの制約があり、その制約のなかで各メーカーはクルマの個性を出そうと試行錯誤する。

 とはいえ、例えばスポーツカーなどのカテゴリーが同じであれば、どうしてもクルマの基本デザインは近いものになる。

 だが、時にはカテゴリーレベルの類似性を超えて既存の車種に外観が似ているクルマが出現することがある。

 意図的か、あるいはホントに偶然なのかはともかくとして、そんな“模倣車”が現れ、商業的な成功を収めてしまうケースも皆無ではない。

 今回はそうした“激似”のクルマを紹介し、それが成功につながったのかを見ていこう。

■オリジナルを超えるほどの人気を獲得したモデルたち

●後発/マツダ RX-7シリーズ→本家/ポルシェ 924

 1978年にマツダがデビューさせたスポーツカーがRX-7。

 初代は人気モデルのサバンナシリーズの新型として登場したRX-7だが、その姿が公開されると、多くの人からとあるクルマに似ているという声があがった。

 それがポルシェのフロントエンジンモデル・924だった。

 伝統的なRR(リアエンジン・リアドライブ)ではなくフロントエンジンレイアウトとリトラクタブルヘッドライトを採用した924は、ポルシェの新たな挑戦でもあった。

 そんなポルシェ 924と初代サバンナ RX-7が似ているというのは、両車を見比べたほとんどの人が感じるはず。

 そのためRX-7は「プアマンズポルシェ」と揶揄されることもあったが、クルマとしての完成度は高く、それは基本コンセプトを継承した2&3代目でも同様だった。

 結果的にRX-7は歴史に残る名車のひとつに数えられるようになり、初期の冷やかな視線を跳ね返すことに成功した。

●後発/初代トヨタ ウィッシュ→本家/初代ホンダ ストリーム

 2003年に販売が開始されたトヨタのウィッシュはロールーフタイプのミニバンだが、実は2000年デビューのホンダ製初代ストリームとまったく同じボディサイズを採用していた。

 さすがにグリル回りなどのデザインが違うため、一見ではそこまで似ているとも思えないが、ウィッシュがストリームによって確立されたロールーフミニバンのコンセプトを踏襲しているのは明らかだった。

 ホイールベースはウィッシュのほうが長く、これによって実用性が高まり、トヨタの販売力もあってウィッシュはストリームを上回る販売成績を記録した。

 当時はストリームVSウィッシュの戦争ともいわれたこのロールーフミニバン対決は、後発のウィッシュに軍配が上がっている。

■オリジナル超えはならず、でもやっぱり似ている?

●後発/ダイハツ ブーン(スポルザ リミテッドパッケージ)→本家/BMW ミニ・ジョンクーパーワークス

 ダイハツが自社製のコンパクトカー・ブーンの上級グレード・シルクに、スポーツ志向の強いエクステリアを装着するバージョンのスポルザ リミテッドパッケージを登場させたのが2017年。

 そしてちょっとクルマに詳しい人は、このモデルがBMWのミニ・ジョンクーパーワークスによく似ていることに驚いた。

 スポルザ リミテッドパッケージがジョンクーパーワークスを意識していたのは一目瞭然だが、似ているのは外観のみで、両車の中身はかなり違っていた。

 しかし、本家がメジャーすぎるためか、スポルザ リミテッドパッケージの本家超えはならなかった。

●後発/トヨタ MR-2→本家/ポルシェ ボクスター

 トヨタのミドシップライトウエイトスポーツのMR-Sは、かつて人気を集めたMR2の事実上の後継車として1999年にデビューした。

 基本コンセプトはMR2を継承したが、ヘッドライトはMR2のリトラクタブル式ではなく埋め込み式に改められた。

 そんなMR-Sは、登場直後から「ポルシェのボクスターに似ている」といわれることがあった。

 ボクスターはポルシェが1996年にリリースしたモデルであり、同社では久々のミドシップレイアウトを採用していた。

 つまり、MR-Sのレイアウトはボクスターと同じということになる。

 実際のサイズはボクスターの全長4315mm・全幅1780mmに対してMR-Sは全長3895mm・全幅1695mmとひと回り小さく、エンジンの最大出力もボクスターの204psに比べると140psと控えめだ。

 MR-Sはコストパフォーマンスの高さや高い運動性能が評価されたものの、後継モデルを生み出すことはなく2007年に生産が終了。

 対するボクスターは、4代目モデルが現役で世界の公道を元気に走っている。

■元祖をリスペクトしつつ、独自の評価を得たクルマ

日本のスポーツカー史に燦然と輝くトヨタ 2000GT。直6エンジンをフロントに搭載するロングノーズのボディフォルムは現在でも色あせない魅力を保っている

●後発/トヨタ 2000GT→本家/ジャガー Eタイプ

 クルマ好きのみならず、多くの人にその名を知られるトヨタ製スポーツカーの2000GTが登場したのは1967年。

 直6エンジンをフロントに搭載するロングノーズボディの美しさは、発売から60年近くが経過した現在でも色あせることはない。

 だが、この2000GTにもお手本にしたとされるクルマがあった。

 そのクルマとは、イギリスのジャガーが1961年にリリースしたEタイプだ。

 ヘッドライトの形式が異なるため、パッと見ではあまり似ているとも思えない2000GTとEタイプだが、全体に視点を広げるとそのシルエットには共通のラインがある。

 実際にはジャガー Eタイプのほうが全長、全幅ともに大きく、2000GTがEタイプを模倣したとは言い切れないのだが、先に登場して高評価を得ていたEタイプの影響を2000GTが受けていた可能性は高い。

 トヨタ 2000GTは性能とスタイリングに優れ、さらに生産台数が少なかったという希少性もあり、Eタイプに勝るとも劣らぬ人気を現在でも保ち続けている。

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