熊本のバス5社がデータ分析を活用している様子が発表された。マウス操作だけで、便ごと区間ごとの利用者数や遅延の状況が地図やグラフで表示され、複数会社間の意思決定が容易になったという。このシステムがあれば「経験と勘」が中心だったバス業界が変わるかもしれない。
文/写真:古川智規(バスマガジン編集部)
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■今年の赤ちゃんは50代の3分の1?
九州産交バスの担当者らからデータ分析システムについて発表があったのは、様々な移動サービス向けにITシステムを提供しているWill Smart(ウィルスマート)社主催のセミナーだ。11月13日に東京都内で開催され、全国からバス、鉄道、レンタカー事業者、さらに自動運転やEV(電気自動車)等のベンチャー企業が参加したセミナーの様子をレポートする。
冒頭に、同社顧問で国土交通省自動車局長や観光庁長官を歴任した田端浩氏が基調講演を行い、日本の交通や観光の将来像やそのための国の政策が説明された。バスファンにとって注目だったのは、セミナー後半に行われたパネルディスカッションだ。テーマは「人口減少時代における次世代の交通デザインとは?」である。
モデレーター(進行役)は、高速バスマーケティング研究所の成定竜一代表。バスターミナル東京八重洲などの全国のバスターミナルにおいて、Will Smart社による車両管制・旅客案内システムが導入されていることを紹介した後、人口減少についてのオピニオンが述べられた。
要旨、「私は52歳だが全国に同い年が200万人いる。しかし今年の18歳は106万人、赤ちゃんは3分の1以下の70万人割れ」だとして、急激な人口減少が交通に与える影響を示し警鐘をならした。日本列島は欧米に比べ人口密度が高く、戦後は農業から会社勤め中心の社会となり「奇跡の通勤通学マーケット」が誕生したが、環境が変化した結果として、当時の「郷愁」は断ち切るべきだと述べた。
■「競争」より「共創」の一例は「SUNQパス」+鉄道乗り放題
次に登壇したのは、JR九州出身で「九州MaaS」協議会の木下貴友事務局長だ。九州内のあらゆる交通事業者をまとめ上げ、「競争」から「共創」へ導いた過程を説明した。以前は路線バスが駅前に停留所を設置させてもらえなかったが、停留所を駅の正面に移し、スマホアプリで鉄道との乗り継ぎ乗車券を発売した事例などが紹介された。
九州内の高速バスや路線バスなどが乗り放題の「SUNQパス」をベースに、JR九州の鉄道も乗り放題となる「ALL KYUSHU PASS」も成果の一つだ。10日間の有効期間のうち、「SUNQパス」として任意の3日間(連続していなくても可)、鉄道乗り放題も3日間(同)有効だから、「乗りバス」はかなり効率的になるだろう。
■遅延時分や運行間隔を地図やグラフで可視化
そして九州産交バスの今釜卓哉課長が登壇し、熊本のバス「共同経営」について説明した。独占禁止法(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)のカルテル除外規定により、5社がダイヤや系統を調整するようにして路線の維持や効率化を図った結果だ。
同氏は成定氏とのトークセッションで、ダイヤ調整の事例を紹介した。Will Smart社のシステムを使えば、ICカードの乗降データやバス走行データを組み合わせて、区間ごとの乗車人数や遅延時分、前便との運行間隔などを簡単に地図やグラフで表示できる。今釜氏によれば「多くは現場の感覚で掴んでいた数字だが、可視化することで各社の経営陣との調整が容易になった」という。
■データ公表により沿線の理解を得る
共同経営5社らでは「バス・電車無料の日」などを繰り返し実施しており、その度に渋滞緩和やCO2削減などの効果をデータ化して公表している。「バスが苦しいから支援してくれ」ではなく、社会の便益をアピールし市民の理解を得て自治体などの支援を得る方針は長い目で見れば至極まっとうな方法だと感じた。
これまで現場の「経験と勘」が中心だったバス業界だが、データ分析による科学的な経営を目指す時代が来たようだ。
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