道路上での事故や故障といったトラブルの際に活躍する「発炎筒」。とはいえ日常では使う機会がほぼないものだけに、具体的な使用方法や、どんなシーンで必要なのかはぜひ知っておきたい。
文/井澤利昭、写真/写真AC、Adobe Stock
■そもそも発炎筒ってどんなもの?
正式な名称を「自動車用緊急保安炎筒」といい、国内を走るほぼすべてのクルマに備わっている「発炎筒」。
高速道路やバイパスといった多くのクルマが速いスピードで行き交う道路や踏切などの危険な場所で、事故や故障によってクルマが立ち往生してしまった際、周囲にその存在を知らせるためのものだ。
火薬類取締法上は「がん具煙火」、つまりオモチャとして遊ぶ花火と同様に扱われるため、その構造も市販の花火と似ており、赤い筒状の本体内部に詰められた発炎剤が燃焼することで、炎が持続的に上がる仕組みとなっている。
車載用としては使うものは、道路運送車両の保安基準第43条の2で「灯光の色、明るさ、備付け場所等に関し告示で定める基準に適合する非常信号用具を備えなければならない」と定められており、「発炎筒」を積んでいない状態では、そのクルマは車検も通らない。
具体的には「夜間200mの距離から確認できる赤色の灯光を発する自発光式のもの」とされており、その設置場所も「使用に便利な場所に備えられたものであること」や「振動、衝撃等により、損傷を生じ、又は作動しないもの」と細かく定められている。
「発炎筒」が取り付けられている場所は車種によって異なるものの、国産車では助手席の足元付近、グローブボックスの下あたりに設置されていることが多い。
ちなみに同じ「ハツエントウ」と呼ばれるもので間違いやすいのが「発煙筒」。こちらは文字通り煙を発するもののため、道路上に置いてしまうと後続車の視界を遮る可能性もありとても危険。
そんな人はいないとは思うが、ネット通販などで現物を確認できない場合の購入時は、間違えないよう十分に気をつけたい。
■発炎筒が活躍するシチュエーションと使い方
先ほども少し触れたが、「発炎筒」は事故や故障といったトラブルで、道路上にクルマを停める必要がある場合に使用するもの。
よくありうるのが、パンクやガソリン切れといったトラブルを高速道路やバイパスといった本来は停車してはいけない場所で起こしてしまい、やむを得ずクルマを停める必要に迫られるケースだ。
こんな場合はまずは落ち着いてハザードランプを点灯し、安全な路肩にクルマを停めてから同乗者をガードレールの外側など安全な場所に避難させ、後ろから来るクルマに十分に注意をしながら、 停止表示器材(三角表示板)と着火した「発炎筒」を停めたクルマの後方に置くようにする。
ここでポイントとなるのが発炎筒を置く場所。停止したクルマから50m以上後ろに置くのが重要で、カーブの先など見通しが悪い場所にクルマが止まっている場合は、さらに後方に置くようにする。
踏切内でクルマが動けなくなった場合などは、同乗者を避難させるとともに踏切に備え付けられた非常ボタンを押し、着火した発炎筒で走ってくる電車に危険を知らせるようにする。
「発炎筒」は、こうした非常時以外は使用する機会がほとんどないだけに、その使い方を知識としてきちんと知っておくのも重要だ。
とはいえ、その使い方は決して難しいものではなく、ケースである外筒から取り出した本体のキャップを外し、キャップの先端にあるすり板で本体の先端をマッチと同じ要領でこするだけ。
若いドライバーのなかにはマッチを使ったことがなくピンとこないかもしれないが、本体に記載されている説明や、使い方を紹介した動画などを見ておくだけでもいざというとき役に立つはず。
なお、着火時や使用中はやけどなどに気をつけるのはもちろん、周りに可燃物がないことを必ずチェック。事故や故障で漏れたガソリンなどに引火してしまうと、車両火災につながる可能性あるからだ。
また、トンネル内でのトラブルの場合は、発火時に出る煙が充満することで視界の悪化を招く可能性があるため、「発炎筒」の使用は避けるようにしたい。
■発炎筒の使用期限と処分方法
クルマへの搭載が義務付けられており、それがない場合は車検にも合格することができない「発炎筒」。その性能には「夜間200mの距離から確認できる赤色の灯光を発する自発光式のもの」という基準があることは前述のとおりだ。
それに加えて、保安基準の細目を定める告示第220条のなかには、「JIS(日本産業規格)で定められた規格またはそれと同等以上の性能を有していない発炎筒は、使用することができない」と定められおり、燃焼時間が5分以上ある点や有効期限が製造後4年間であることも「JIS D 5711」で明示されている。
そう「発炎筒」はずっと使えるわけではなく、有効期限があるのだ。
有効期限を過ぎてしまったものは劣化によって、万一の際点火できないこともあるため、新品への早めの交換が必須となる。
車検時の検査項目には発炎筒の有効期限までは含まれていないため、これによって即車検落ちということにはならないものの、検査官によって緊急時に使用できないと判断されれば、不合格になる可能性も十分にありうる。
なお、有効期限切れの発炎筒を処分する際には、発火する可能性を考えて十分な注意が必要。
クルマの車検や定期点検時など、新品と交換するタイミングでディーラーなどに処分をお願いするのが手っ取り早いが、カー用品店やガソリンスタンド、ホームセンターなどでも回収している場合があるので、近くに対応してくれる店舗がある場合は相談してみよう。
ちなみに使用済みの「発炎筒」であれば、しばらく水につけてから燃えるごみとして処分することが可能だ。
■点火式と比較してメリットの多いLED式発炎筒
いっぽうでここ最近登場し注目を集めているのが有効期限のないLED式の発炎筒だ。
便宜上「発炎筒」とはいわれているものの、こちらは火が出るわけではなく、搭載されるLEDを内蔵の電池を使って発光させるもので、「非常信号灯」がその正しい名称。
点火式の「発炎筒」と比較して、連続して約8時間もの長時間の発光が可能なうえ引火ややけどの心配がなく、煙が出ないためトンネル内でも使用が可能。
さらに雨天時に湿気って火が着きにくくなるという心配がない点や、電池を交換すれば繰り返し使用できるなど、そのメリットは多岐にわたる。
登場して間もない頃は価格の高さがネックとなっていたものの、現在では比較的リーズナブルに購入できるものも多く出回っており、導入へのハードルは大きく下がっているといっていいだろう。
ただし、購入時はその製品が車検に対応する保安基準に適合したものである点は必ず確認しておきたい。
LED式の発炎筒(非常信号灯)で唯一気をつけておきたいのが電池切れの可能性だ。
いざ使おうとしたら入っている電池が切れていた! なんてことにならないよう、グローブボックスなどに予備の電池を常備しておくと安心できる。
これからのカーライフにおいて、できることなら使う機会が訪れないことを祈りたい「発炎筒」。
とはいえ万一の際に慌てないよう、自分のクルマのどこに「発炎筒」が備わっているかや、その使い方、有効期限が切れていないかなど、この機会にぜひ一度チェックしておきたい。
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