現在、WRCのRally1カテゴリーに参戦する自動車メーカーはトヨタ、ヒョンデ、フォードの3社のみ。「もっと参加企業が増えてほしい」と願う人は多いが、その有力候補として熱い視線を集め続けているのが、スバルだ。はたしてラリーの名門がWRCに復帰する可能性はあるのだろうか?

文:山本シンヤ/写真:Rally Japan、スバル、ベストカーWeb編集部

■モリゾウ氏も期待を寄せるスバルの再参戦

スバルは3年連続マニュファクチャラーズ王者に耀くなどWRCで大活躍を演じてきた

 2024年で3回目の開催となったWRC(世界ラリー選手権)フォーラムエイト・ラリージャパン。4日間の来場者数は有料来場者/イベント広場/沿道応援を含めて54万3800人と前年を上回る結果となった。

 個人的には絶対数だけでなく、来場者の観戦スタイルや楽しみ方に変化が出てきたような気がした。筆者の肌感覚だが、今年は熱心なラリーファンだけでなく、「何か楽しそうなので、来てみた」といった人も多かったように感じる。

 モリゾウこと豊田章男氏は「ラリーは町おこし」と語るが、筆者は今年のWRCジャパンはラリーをキッカケにそれぞれが思い思いに楽しむことができるお祭りのような雰囲気をより強く実感した。もう少しカッコよく言うと、ラリーが文化になり始める兆しが薄っすらだが見えてきたと思っている。

 ただ、WRCで盛り上がったのは愛知県を中心とした地域のみだったのも事実だ。筆者はWRCジャパン開催中に別件の仕事のために上京したが、駅を降りるとWRCの開催を感じさせるモノは一切ない普通の週末にガッカリした。やはり日本全体の感心事になるためには、F1のように“継続開催”が大事なので、そこは今後も頑張ってほしい所だ。

 それに加えて、WRCに参戦するメーカーを増やす事も大事な部分だ。現在WRCのトップカテゴリー(Rally1)に参戦するメーカーはトヨタ、ヒョンデ、フォード(Mスポーツ)3社のみ。かつてはその倍以上のメーカーが参戦していた事を考えると、やはり少ない。

 FIA評議員の役割を持つ豊田氏は「以前からスレイエム会長と『Rally1が3チームじゃ少ないよね』という話はしています。現在多くのメーカーのモデルが参戦しているRally2は盛り上がっていますが、やはりWRCの頂点であるRally1をさらに盛り上げるためには、参加者(=メーカー)を増やす必要があります」と語っている。

 そんな豊田氏がWRC参戦のラブコールを熱心に送るメーカーの1つが「スバル」である。

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■スバルをその気にさせるには?

ラリー1カテゴリーは変革期にありスバルが参戦しやすい気運が高まっている

 かつて一部のモータースポーツメディアから「スバルがWRCへ復帰する可能性が浮上」、「FIA会長が復帰に向けた話合いがスタートしたことを公言」、「豊田氏が架け橋に」などと報道された事もあるが、実際はどうなのか?

 筆者はこのように考えている。スバルはこれまでのWRC参戦によって「クルマ」も「人」も鍛えられてきたことは紛れもない事実だし、社内にも復帰を望んでいるエンジニアがたくさんいることもよく知っている。

 富士スピードウェイで行なわれたS耐最終戦でニュル24時間仕様のスバルWRX S4 × モリゾウのサプライスを見るために訪れていたスバルの大崎篤社長は、自動車メディアからのラリーへの質問に対してこう答えている。

「出るとなると、具体的にどういう車両でどのようにやるかとか、レギュレーション上の難しいところもある。我々も離れてずいぶん経っているので、準備にも時間がかかるでしょう。長い目で見てください」と語っている。

 ちなみにWRCは“世界”と名がつくもののスバルがビジネスの主戦場する北米にラウンドがない。さらにはRally1車両に適するBセグメントのコンパクトモデルが現在スバルのラインアップにないこと、などが挙げられる。そういう意味でいうと、現時点のWRCにはスバルが復帰するメリットが少ないのも事実だ。

 自動車メーカーはWRCに参戦することが目的ではなく、WRCに参戦して何が得られるかが大事な部分である。当然、今後の量産車開発に活きることは間違いないだろうが、それだけではダメであり、マーケティングや耐費用効果も含めた総合的な判断が求められる。そういう見方をするとどうだろうか?

 つまり、スバルを“その気”にさせるためには、「WRCを変える」という決断も必要となってくるだろう。ただ、そのキッカケになりそうな変革はいくつかある。

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■参戦自体ではなく参戦から何が得られるかが重要

水平対向の叫びをもう一度ラリーフィールドで聞きたい!

 ひとつは2025年シーズンからのハイブリッドユニット使用の禁止だ。この狙いは「参戦する自動車メーカーの開発費削減」、「下位クラスからステップアップする選手の順応性を高める」、「CN燃料に焦点を絞り車両技術を簡素化する」が目的。

 さらに2026年からRally1の技術規則が改定される。高コストや複雑さを軽減するためにセーフティセル(保護用骨格)は共通のものを使用。さらにB/Cセグメントのコンパクトカーに加えて、性能均等化のために重心や空力など、厳しい技術基準に基づいて設計されたコンセプトカーなど、市販モデルをベースにした独自の車体を持ったマシンの開発も可能になるという。

 他のモータースポーツをみると、たとえばWEC(世界耐久選手権)はハイパーカークラスに参戦するメーカーが増えたことで人気が高まった事例があるが、WRCもそうなってほしいと願っている。

 スバルの技術トップである藤貫哲郎CTOは「スバルがスバルであるためには、水平対向エンジンの技術は絶やしてはならない」と語っているが、是非ともWRCで鍛えてほしい。

 もうひとつは興行面の改革である。2025年のWRCカレンダーには南アメリカのパラグアイが加えられたが、1988年以来行なわれていない北米でのWRC開催も検討中のようだ。ちなみにラリーUSA(アメリカ国内ラリー選手権の公認イベント)の主催者チームが「2026年のWRC昇格を目指している」と言う報道も耳にしている。

 かつてF1は北米ではインディ・NASCARなどにまったく歯が立たなかったが、動画配信サービス「Netflix」がF1を題材にして制作したドキュメンタリー番組の効果により、若年層のファンが急増した。

 F1は1カ国1レースの開催が原則だが、北米は特例で現在3つのレースが行われている。ホンダは2026年にF1に復帰するが、その理由の1つは「北米でのビジネスに活きる」と言うことも大きかったのではないかと分析している。

 繰り返すが、自動車メーカーはWRCに参戦することが目的ではなく、WRCに参戦することで何が得られるのかが大事。そういう部分で見ていくと、レギュレーション、興行、そして参戦メリットの三位一体がスバルを動かす原動力になってくれるはずだと信じている。

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