2012年、輸入車が売れている。特にドイツ勢が好調で、BMW、ベンツ、アウディ、VWともに、すべて前年を大幅に上回る売れゆきを見せている。しかし本企画担当は思うのだ、輸入車って高いわりに売れすぎじゃない? 特にドイツ車ってその傾向強くない?? イメージ先行で下駄履かされている人が多いんじゃない?? 年に100回は輸入車の試乗会に出向く自動車評論家 石川真禧照氏とともに考えてみた。(本稿は「ベストカー」2013年3月10日号に掲載した記事の再録版となります)

TEXT/石川真禧照、編集部

■ハイブリッドもディーゼルも好調! BMWの評判はどうか?

BMW アクティブハイブリッド3(699万円)……直6、3L直噴ツインスクロールターボエンジンにモーターを組み合せ、システム出力は340psを発生。0~100km/h加速タイムは5.3秒という俊足をみせる

●BMWへの疑問
 話のキッカケは某日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員のコメントでした。
「86/BRZはとてもいいクルマだけど、クルマとしての性格が似ているBMW3シリーズに比べるとまだまだ及ばない」
 ちょっと待ってください、86/BRZはざっくり250万円のクルマ、いっぽうBMW3シリーズ(セダン)は450万円のクルマ。これを比べて「BMWのほうがいい」ってそりゃ当たり前じゃないですか?
「ガソリンだけでなく、ハイブリッドもある、ディーゼルもある、ターボもある。先進性と多様性を兼ね備えている」
 いやいやいや、BMWって今何車種販売してますか。派生モデルを別カウントしても、いいところ30車種でしょう。そりゃ取り扱い車種が少なければ1車種あたりに詰め込める技術は多様化しますよ。トヨタは60車種以上ラインアップがあるんだから、1車種あたりに詰め込める技術が少なくなるのは仕方ないでしょう!
 特に評論家陣やクルマ通を自認する人に多いのですが、なぜBMWはこんなに評価が高いのですか!? 贔屓してませんか!!

*   *   *

【企画担当(以下担当)】というわけで、(主に私の)疑問に答えてください。

【石川真禧照(以下真禧照)】なになになに? 今度はなに?

【担当】ここ最近BMWって褒められすぎじゃないですか?

【真禧照】えーそうかなあ……。実際に乗ってみるとクルマとしてキチッとしているよ。優れているものを「優れてる」と評価するのがジャーナリズムの仕事でしょう。

【担当】250万円のクルマと450万円のクルマを比べて「450万円のクルマが優れてる」と書くのはジャーナリズムとは関係ないと思うのですが……。あ、これ、86/BRZと3シリーズの話です。

【真禧照】あ、それは本来比べる話ではないよね。フェアでない、という意味でもそうだし、読者に誤解させる意味も含めて。

【担当】でしょう!? 同じくらいの価格帯のクルマと比較するべきですよ。

【真禧照】まあBMWの3シリーズは同じ価格帯のライバルと比べても優れてるんだけどね。

【担当】あれ、そうなんですか。

【真禧照】頭ひとつ抜けていますね。BMWというメーカーはいわゆる「選択と集中」がうまく言っていて、ここ10年コツコツと研究していた成果がピシッとハマっている環境にあります。

【担当】ハイブリッドとかディーゼルとか、なんでもやってるイメージがありますけど……。

【真禧照】ハイブリッドに関してはスポーツ方面だけで、環境技術についてはトヨタと提携したよね。そもそも2L以下の小型車についてはスパッと諦めて、それより大きいサイズに特化しているでしょう。

【担当】それは成功しているんでしょうか?

【真禧照】しています。それはBMWという会社が長年高級スポーティセダンを作り続けてきたという、積み重ねだからね。スバルの4WDや水平対向エンジンはやっぱり凄いと思うでしょう? それと同じですよ。

【担当】積み重ね、ですか。

BMWはやはりエンジン屋。ガソリン、ディーゼルともターボやモーターとのマッチングがいい

【真禧照】ドイツではトヨタや日産やホンダが高く評価されていますが、それと同じように日本でもBMWを高く評価するべきだと思いますよ。ただもちろん前述のように得意分野というものはあるからね。例えば東京の都市部で乗っていても、あまり「BMWのよさ」は関係ないんじゃないかな。

【担当】東京だと関係ないとおっしゃる??

【真禧照】100km/hくらいの速度域でないと、ちょっとわかりにくい「よさ」ですね。

【担当】日本のほとんどの道でわかりにくいじゃないですか!

●結論……適正だが日本では分かりにくい!

BMW i8(2014年発売予定)…後輪を3気筒1.5Lターボ223psが駆動し、前輪は131psのモーターが駆動するプラグインハイブリッド4WDスポーツがi8だ

●ここ最近(つまり2012年当時)のBMW
・今年1/24にトヨタとの共同開発を正式決定。
・2012年の年間世界販売台数は過去最高の184万5186台。前年比10.6%増で絶好調
・国内販売はMINIと合計して5万7314台とこちらも約20%の伸びを見せている
・特に好調なのは2012年1月にデビューした3シリーズで、日本仕様は日本向けに全幅を抑え、ディーゼル、ハイブリッドもラインアップ。日本カー・オブ・ザ・イヤーのインポートカー賞を獲得

■オシャレな高級車の代名詞に成り上がり? アウディの評判はどうか?

アウディ S8……フラッグシップA8のスポーツバージョンがS8。520psをクアトロ(4WD)がしっかりと受け止める

●アウディへの疑問
 ここ10年くらいでいきなり「オシャレなお金持ちの代名詞」に成り上がったイメージのアウディ。ディーラーの雰囲気やLEDデイライトの処理、大きく開いたフロントグリルなど、レクサスが思い切り真似している気がします。だからといって10年前と比べていきなりクルマがよくなったとは思えないんですが……。この不景気に「2012年は2万4163台を登録し前年比14%増、6年連続で過去最高登録台数を記録」という凄まじい成長ぶりを見せられると、さすがに「褒められすぎでは?」と思ってしまいます……。

【担当】アウディっていきなり売れ出したし、そのわりに「昔っからオレ、こうだから」っていう雰囲気じゃないですか?

【真禧照】どういうこと?(笑)

【担当】なんていうかな、高級輸入車って値段が高い理由を説明しなくてもいいって思ってませんか?「アウディが高いのは当たり前だ。理由が分からないのはお前の感性がショボいからだ」と思ってそうで。

【真禧照】被害妄想だよ(笑)。

【担当】そうかなぁ。少なくともアウディってプラットフォームはVと一緒のクルマがいくつかありますよね。ポロとA3とか。内装の仕立てとフロントマスク、足回りのセッティングが違うだけで150万円高くなることも普通にあるし、「うん、高くなるのは当たり前だよ、だってアウディだもん」って感じじゃないですか。

【真禧照】ブランドってそういうものだよね。それに今アウディが受けている真骨頂ってそこじゃないと思うけどな。

【担当】どこなんですか?

【真禧照】高級でしかも4WDの安心感ってところだと思うよ。これまで日本での高級サルーンってベンツにしてもBMWにしてもFRだったでしょう。クラウンやセルシオもそうだよね。そこにアウディが「クワトロ」という看板を背負って参入してきたことで、お金持ちで走行性能も気になって、それで4WDで安心して走りたいっていう層がアウディに流れたんだと思っています。

アウディ Q5ハイブリッド……A6と同じ2Lターボのハイブリッドシステムを採用するがクワトロ(4WD)となるのがポイント。2月1日発売

【担当】それは説得力ありますね。しかしそれがキッカケにしても、アウディ、評価されすぎだとは思いませんか?

【真禧照】もうちょっとレクサスに頑張ってほしいなっていう思いはあるけど、アウディが褒められすぎだとは思わないなぁ。

【担当】高すぎるとも思わない?

【真禧照】「高くないと嫌だ」って人がたくさんいるんだから、文句つけようがないよね。

【担当】そ、そんな人が……。

【真禧照】いっぱいいるよ。

●結論……ブランド力自体は認めよう

●ここ最近(つまり2012年当時)のアウディ
・2012年のアウディブランドの世界販売台数はこちらも新記録となる145万5100台。前年比11.7%増で、欧州市場の不調をものともせず記録更新
・日本での販売も絶好調で2万4163台を販売し全値比14%増と6年連続の過去最高販売台数を記録中
・新車だけでなく中古車も好調で年間登録者数6429台とこちらは前年比23%増。日本でアウディユーザーが順調に増えていることを改めて示した
・HVを発売しさらに躍進予定

■一時期の栄光が影を潜めてない? ベンツの評判はどうか?

メルセデス・ベンツ MLクラス(750万円から)……3代目となるMクラス。V6、3.5Lガソリンに加えV6、3.0Lクリーンディーゼルも選べ人気が高まっている

●ベンツへの疑問
 前述のBMW、アウディに比べると、最近のベンツは急に元気がなくなったように見えます。少なくとも日本では「高級車=ベンツ」という時代があったのに、その座をBMWやアウディと分け合ったかたちになってしまった気が。そうなるとやっぱり「以前のベンツは褒められすぎだったんじゃないの?」とも思うわけです。

【担当】ベンツの話題が少なくなったのって、やっぱりほかのドイツ系高級車メーカーが元気になってきたからなんですか?

【真禧照】クルマの出来やクオリティに関していえば昔から変わっていないから、君がそう感じているなら、そういうことじゃないかな。

【担当】変わってないですか。

【真禧照】大変よろしいですよ。特にMLクラスのディーゼルなんかは、ちょっと他メーカーの追随を許さないくらいで。

【担当】日産、三菱、マツダのクリーンディーゼルでは太刀打ちできませんか?

【真禧照】比べられるものではないね。振動も騒音も完璧。

【担当】それでもMLクラスってCX-5の3倍以上しますよね(ML350ブルーテック4マチックで790万円也)。そりゃ確かに比べちゃいけないよなあ。

【真禧照】確かにそうだけど、じゃあマツダが3倍お金をかければベンツMLが作れるかというと、おそらく無理なんだよ。

【担当】ベンツも1/3のお金でマツダ車は作れませんよ、きっと。

●結論……やっぱり値段が高いぞ

●ここ最近のベンツ
・ベンツの世界販売は(スマートを含み)142万3835台。前年比4.5%と微増だが、こちらも歴代最高の数値を出した
・日本では昨年4万1901台を販売し、前年比26.2%と大幅に伸びている。
・特に今年は新型Aクラスを投入して、プレミアムコンパクトクラスに殴り込み。これまで大型車が得意だったイメージを払拭する狙い
・日産と協業で北米向け事業も順調。次期Cクラスはスカイラインと共通となる……か?

■今年はゴルフVIIが導入予定 VWの評判はどうか?

VW up!(149万円から)……価格と安全装備で日本車に衝撃を与えている1台

●VWへの疑問
 2~3年前のゴルフやシャランを出した頃には「日本メーカーのシェアを奪い取るぞ」という気概が見られたVW。ここ最近は新車のわりに元気なくないですか?

【担当】up!は輸入車としては売れてるんでしょうが、「黒船」と言われてたことを考えると、もっと売れてもいいかな……。

【真禧照】いっぺんに出すぎちゃってるよね。パサートオールトラックもザ・ビートルも、本来であればもっとじっくり評価されるべきクルマなのに販売店もユーザーもどうしていいか困ってる気がする(笑)。

【担当】困ってるんですか?

【真禧照】「いいクルマ度」と「話題になっている度」のバランスが悪く。「褒められすぎ」の逆で「話題にならなすぎ」のメーカーだ。

【担当】もっとアピールすべき?

【真禧照】そうだよ。ベストカーとかにどんどん露出しなきゃ。

【担当】それはいい考えです。広告とか(笑)。

●結論……クルマはいいが、アピール不足

●ここ最近のVW
・VWの2012年の世界販売台数は前年比11.2%増の907万台で過去最高を記録。中国と北米で販売を伸ばした。
・日本の販売台数は5万6191台で2013年連続ブランド別で1位。モデル別でもゴルフが2万2252台で1位だ
・昨年発売のup!を拡販して、小型車を普及する戦略!

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