本田技研工業(以下、ホンダ)が2024年5月9日、8年ぶりのフルモデルチェンジとなる新型「フリード(FREED)」の概要を公式ホームページで先行公開した。
この記事の画像を見る(98枚)6月発売予定、新型フリードの概要
新型の「フリード エアー」(写真:三木宏章)新型の「フリード クロスター」(写真:三木宏章)
幅広いユーザー層が運転しやすい小ぶりな車体に、余裕ある室内や使い勝手のいい装備を持ち、ファミリー層を中心に根強い人気を誇るコンパクトミニバンがフリード。2024年6月に発売予定の新型モデルは、シンプルで上質な外観の「フリード エアー(FREED AIR)」と、タフな外観でアウトドアにもマッチする「フリード クロスター(FREED CROSSTAR)」という2タイプを設定。6人乗りと7人乗りを選べる従来の3列シート車は継続しつつも、5人乗りの2列シート車はフリード クロスターのみとするなど、ラインナップを刷新。
また、6人乗り仕様車では、1列目から後席への移動を可能とする「ウォークスルー」の利便性を向上するなど、細部をアップデートしていることにも注目だ。ほかにも、ハイブリッド車には、独自の2モーターシステム「e:HEV(イーエイチイーブイ)」を採用するなどで走りを改善。より低燃費で、快適な移動を楽しめるクルマになることが予想できる。
ガソリン車のほか、ハイブリッド車「e:HEV」も設定(写真:三木宏章)そんな新型フリードについて、ホンダが主催したメディア向け事前説明会で、実際に現車を確認しながら取材。まだ、搭載エンジンや価格などの詳細は明らかになっていないが、現時点でわかる範囲で、その内容を紹介しよう。
2008年に発売された初代モデル以来、30代や40代の子育て世代を中心に大きな支持を受けているフリード。現行の2代目モデルは2016年に登場。大きな特徴は、大柄なクルマの運転が苦手な人などでも「ちょうどいい」サイズの車体に、スタイリッシュなフォルム、多彩なシートアレンジを可能とする広い室内空間などが挙げられる。ラインナップには、6~7人乗り・3列シート車の「フリード」、5人乗り・2列シート車の「フリード+(プラス)」を用意。いずれのタイプにも、1.5Lガソリン車と同じ排気量のハイブリッド車を設定し、多様なニーズに対応する。
また、2019年のマイナーチェンジでは、外観を刷新したほか、クロスオーバースタイルの「フリード クロスター」も追加。フリード・クロスターは新型モデルにも設定がある人気グレードになる。2代目フリードは、こうした幅広いラインナップにより、多様化する顧客のニーズに対応。今では「ホンダ登録車でナンバーワンの売れ筋」と呼べるほどの人気モデルとなっている。
「エアー」と「クロスター」の外観について
3代目となる新型フリードは、前述のとおり、フリード エアーとフリード クロスターの2タイプを設定する。
フリード エアーのリアビュー(写真:三木宏章)フリード エアーの外観は、ミドルサイズミニバン「ステップワゴン」の6代目(2022年5月発売)に新設定した「ステップワゴン エアー」を彷彿させる。とくにフロントフェイスには、サテンのメッキ加飾を施した細めのフロントグリル、ボリューム感を持たせたフロントフードやバンパーなどを採用。また、どっしり感のある台形デザインとなったリアビューも、よりミニバン的なイメージに変貌した。そして、これらにより、「エアー」というネーミングはもちろん、シンプルかつクリーンな印象など、まるでステップワゴン エアーの弟分と思えるほど、両モデルのフォルムは近しくなったといえる。
フリード エアーのヘッドライトまわり(写真:三木宏章)ただし、ヘッドライトやテールライトについては、フリードらしい「小粋な印象」をさらに強調したデザインを採用する。ヘッドライト・ユニットの上部にある片側2基、左右で計4基のオーバル形状のライトは、デイタイムランニングライトやポジションライト、ターンライトを兼ねた多機能タイプ。ハイビームとロービームを兼ねるヘッドライトは、その下部に小型タイプを採用する。なお、ハイビームとロービームと自動で切り替えるほか、照射範囲も自動調整するアダプティブドライビングビーム搭載車もオプション設定だ。
ウインカー点灯状態のテールライト(写真:三木宏章)また、テールライトには、シンプルな四角形状に十字を入れたユニットを上下に並べ、どことなくユニークな印象も加味。上の四角がターンライト、下の四角はテールライトとストップライトを兼用する。さらに上下四角の間にもストップライト、下の四角いライト下はバックライトも装備する。
フリード クロスターのリアビュー(写真:三木宏章)一方、フリード クロスターは、現行モデル以上にタフなイメージを演出していることが特徴だ。フロントグリルやリアバンパーには金属調で、立体的デザインの専用ガーニッシュを採用。また、フロントのロアガーニッシュにはフォグライトを装備するほか、フロントバンパーの開口部も大型化。ボディサイド下部や前後フェンダーにも黒基調のガーニッシュ、さらにヘアライン仕上げのルーフレールなども備え、アウトドア・ユースを想起させるデザインを採用する。
フリード クロスターのフロントフェイス(写真:三木宏章)ホンダは、これら2タイプを設定した理由について、ユーザーが「自分のライフスタイルに合わせて選べるようにするため」だという。フリード エアーは、通勤や買い物、小さな子どもを幼稚園や習い事へ送迎するといった日常使い、休日のドライブなど多様な用途で使うことを想定。さまざまなシーンで、現行モデルのフリードやフリード+以上に、上質感や使い勝手の良さを感じられるクルマに仕上げたという。
アウトドアを強く意識した純正アクセサリー装着車(写真:三木宏章)また、フリード クロスターは、日常使いだけでなく、休日のレジャーなど、非日常での使い勝手などを、従来のクロスターから進化させたこともポイントだ。とくに近年人気が高いキャンプやアウトドアスポーツなどの外遊びでも、ユーザーが「より余裕を持って使える」クルマになっているという。
新型のラインナップについて
新型フリードのラインナップは、現行モデルと同様に、3列シート車と2列シート車、また、3列シート車には7人乗りと6人乗りを設定する。ただし、グレード展開は変更されており、主に以下のようになる。
【3列シート車】
・7人乗り(2列目ベンチシート仕様):フリード エアー(FFのみ)
・6人乗り(2列目キャプテンシート仕様):フリード エアーとフリード クロスター(両タイプにFFと4WDを設定)
【2列シート車】
5人乗り(2列目ベンチシート仕様):フリード クロスター(FFと4WDを設定)
ここでいう2列目ベンチシートとは3人乗車(2列目シート乗車定員)が可能な仕様で、2列目キャプテンシートは2人乗車(2列目シート乗車定員)の仕様だ。現行モデルと同じなのは、フリード クロスターに6人乗り・3列シート車と、5人乗り・2列シート車の両方を設定していることだ。また、7人乗り・3列シート車は、現行モデルのフリードと同様、後継モデルのフリード エアーでもFF車のみの設定となる。
2列目ベンチシート仕様の車内(写真:三木宏章)2列目キャプテンシート仕様の車内(写真:三木宏章)ただし、現行のフリード+に該当する5人乗り・2列シート車は、フリード エアーに設定がなく、フリード クロスター専用となる。そのため、2列シート車を希望する場合は、必然的にフリード クロスターを選択することになる。ほかにも福祉車両では、現行モデルにはフリード+に車いす仕様車、フリードには助手席リフトアップシートやサイドリフトアップを用意しているが、新型ではフリード クロスターのみに、スロープ車とリフトアップシート車を設定するラインナップへ変わっている。
パワートレインについて
ちなみに、各タイプに搭載するパワートレインの詳細は、現時点で公表されていない。ただし、現行モデルと同様に、ガソリン車とハイブリッド車の両方を設定するようだ。とくに注目なのはハイブリッド車のシステムで、現行モデルが1モーター式の「スポーツハイブリッドi-DCD」なのに対し、新型は前述のとおり、2モーター式の「e:HEV」に変更される。
e:HEVは、走行用と充電用のモーター2基とエンジンを組み合わせたホンダ最新のハイブリッド機構だ。発進や市街地の低速走行時などはモーターのみ、加速時などではエンジンで発電しモーターで走行、高速道路などでは主にエンジンの駆動力を使うというのがこのシステム。これら各モードを状況に応じて使いわけることで、優れた燃費性能とスムーズな走りを両立する。こうした最新システムにより、新型フリードのハイブリッド車がどんな走りを味わえるのか、今から気になるところだ。
新型フリードのサイズについて
新型フリード エアーのサイドビュー(写真:三木宏章)新型フリード クロスターのサイドビュー(写真:三木宏章)新型フリードは、ボディサイズも若干ながら変更されている。まず、全長は3列シート車・2列シート車ともに4310mm。現行モデルの3列シート車(フリード)は全長4265mmだから、新型は+45mmの延長になる。2列シート車の現行モデル(フリード+)は、FF車で全長4295mmだから+15mm、4WD車は全長4265mmだから+45mm伸びている。
新型フリードが全長を伸ばした理由について、ホンダは「ハイブリッド車に2モーター式のe:HEVを搭載するため」だという。従来の1モーター式よりもパワートレインが若干大型化するため、ノーズ部を伸ばすことでエンジンルームのスペースを拡張したのだ。また、全長が伸びたことで、室内にもさらに余裕が生まれており、とくに全タイプの2列目シートは、着座時に乗員のヒザと前席との間隔を+30mm拡大。また、リアのフォルムを台形デザインとするなどで、3列目の室内幅は+65mm広くなっている。
新型フリード エアーのリアビュー(写真:三木宏章)新型フリード クロスターのリアビュー(写真:三木宏章)全幅では、フリード エアーが現行モデルと同じ1695mmで、フリード クロスターは、3列シート車・2列シート車ともに1720mmと、現行モデルより+25mm拡大。これにより、外観フォルムにさらなる存在感を加味している。さらに地面からアンテナまでの高さは1755mmで、現行モデル比で105mm低くなった。これは、従来のバー状アンテナをシャークアンテナに変更したことが大きな要因のようだ。ちなみに、これらボディサイズの変更により、フリード エアーは5ナンバー車のままだが、フリード クロスターは3ナンバー車に変わったという。
運転席まわりについて
新型フリード エアーの運転席まわり(写真:三木宏章)新型フリード クロスターの運転席まわり(写真:三木宏章)
一方の室内。フリード エアーが全体的に明るい印象、フリード クロスターは比較的にシックな色合いを採用する。
主な変更点は、まず、運転席と助手席に「ボディースタビライジングシート」を採用したことだ。これは骨盤をしっかり支えるフレーム構造や、厚みのあるウレタンパッドの採用などにより、長時間の乗車でも疲れにくいホンダ独自のシートだ。また、全席のシート表皮には、フリード エアーが優しい手触りのファブリック、フリード クロスターはファブリックとレザーのコンビシートを採用する。さらにファブリックの素材には、油汚れに強く、撥水効果もある「ファブテクト」を使用。子どもが室内で食べ物やジュースなどをこぼしたりしても、掃除がしやすく、油ジミなども残りにくいことが特徴だ。
新型フリードのインパネまわり(写真:三木宏章)インパネ(インストルメントパネル)は、丸味を帯びたパッドを採用することで、自宅のリビングにいるような安心感も演出する。助手席側の大きく膨らんだパッドは、カバーを開ければ大容量のインパネアッパーボックスとなり、ボックスティッシュなども収納可能だ。また、出し入れしやすい形状のインパネトレーや、より大開口化した左右のドアポケットなどにより、収納のしやすさや容量の拡充を実現する。
ほかにも、7インチTFT液晶メーターの採用で、運転中に多様な情報を見やすく表示する工夫も施したほか、インパネ上部を水平基調とすることですっきりとした視界も確保。高いアイポイントで運転時の不安を軽減したり、Aピラーの改良などで車幅をつかみやすくするなど、幅広いユーザーに運転のしやすさを提供する。
室内・荷室の広さや使い勝手について
新型フリードのインテリア全景(写真:本田技研工業)新型フリードでは、現行モデルの6人乗り・3列シート車でも好評なウォークスルーの利便性も向上している。ウォークスルーは、車外に出ることなく、1列目や2列目、3列目などのシート間移動をしやすくする構造。例えば、停車時に2列目や3列目のシートに装着したチャイルドシートに座らせた子どもを、運転席や助手席から移動して世話する際に便利。雨の日などでも車外に出ることなく、後方へ移動できる。
ちなみに、ライバル車であるトヨタ「シエンタ」の場合は、7人乗り・3列シート車か5人乗り・2列シート車しかなく、いずれも2列目は3人掛けベンチシートだ。フリードの6人乗りのように、2列目の左右シートに間隔がある仕様はないため、コンパクトミニバンでウォークスルー機能を持つのはフリードのみ。この点が長年の強敵シエンタとの大きな違いで、フリードが持つ大きな特徴のひとつだといえる。
新型フリードの6人乗り・3列シート車では、運転席と助手席、2列目の左右キャプテンシートの形状を変更。各シートの背もたれ内側上面をより絞り込むことで、人が通りやすくなる工夫を施している。これにより、より楽でスムーズな室内の前後移動を実現。メインターゲットの子育て世代から支持を受けている、使い勝手のよさをアップしている。
新型フリードの3列目シート(写真:三木宏章)2代目に比べて、3列目シート横のガラスを拡大することで開放感を高めている(写真:三木宏章)
また、現行フリードでは、3列目シートの快適性にも定評がある。新型モデルでは、その強みをさらに伸ばすため、リアクオーターガラスの面積を拡大。日中などに外からの光がより差し込むことで、閉塞感をなくし、さらに開放感ある3列目空間を演出する。
3列目シートの改良点では、ほかにも左右に跳ね上げて荷室を広くする際、シート固定位置を90mm低く設定(地面からの高さは1390mm)。また、左右シートを固定するストラップのマウント位置も、現行の真上から新型では後方横にしたほか、シート自体も1kg以上軽くすることで、背の低い人でも操作をしやすくする工夫も施された。さらに左右に跳ね上げて固定する際、現行モデルのシートはハの字となるが、新型は垂直になることで、よりさまざまな形状の荷物を積みやすい荷室空間に変更。固定時の左右シートの幅も160mm拡大することで、荷室容量のアップも実現する。
3列目シートを跳ね上げた状態(写真:三木宏章)ちなみに、フリード クロスターの荷室には、ステンレス製の「ユーティリティサイドパネル」も採用。複数の丸穴に多様なアウトドア系ギアなどをぶら下げられるものだ。また、テールゲートには、ランタンなどの小物などをフックできる「ユーテリティナット」も6カ所に設置。これらにより、アウトドアのレジャーなどでの利便性も向上させている。
シートアレンジについて
多様なシートアレンジを可能とするフリードだが、新型モデルも基本的に現行モデルを踏襲する。
例えば、フリード エアーやフリード クロスターの6人乗り・3列シート車では、3列目シートを跳ね上げることで、4名乗車で荷室に大きめの荷物を積むことができる。27インチの自転車でも、2列目キャプテンシートの間に前輪を入れることで積載を可能とする。また、2列目シートを前にロングスライドさせ、3列目シートを跳ね上げれば、2名乗車でより大きな荷物を積める最大ラゲッジモードに。2列目シートの背もたれを後方へ倒し、3列目の座面とつなげれば、ロングソファのようになり、大人2名がゆったりと横になれる。
一方、フリード エアーの7人乗り・3列シート車では、3列目シートを跳ね上げれば、荷室を拡大しつつ5名乗車を可能とする。また、3列目シートを跳ね上げたまま、2列目ベンチシートの背もたれを前に倒し座面ごと前に起こせば、2名乗車で最大ラゲッジモードとなる。加えて、2列目シートの背もたれを後方へ倒し、3列目の座面とつなげてロングソファ風にすることも可能だ。
そして、フリード クロスターの5人乗り・2列シート車では、現行モデルでも人気の「ダブルフォールダウン機構」を継承。これは、2列目ベンチシートの座面を前方に跳ね上げたあと、背もたれを倒し座面のあった位置に収納することで、フラットな荷室を作ることができる機能だ。自転車などの大きな荷物を積むことを可能とする。
また、この状態で、1列目の背もたれを前に倒せば、大人2名が横になれるお休みモードに。さらに、2列目シートは6:4分割式のため、左側のみフラットにすれば、4名乗車でサーフボードやカーペットなど長尺物を積むこともできる。ちなみに、このタイプでは、これも現行モデルと同様に、荷室用ユーティリティボードも採用。荷室を上下に分割することで、スペースを有効活用できるほか、ボードを取りはずせば、背の高いアイテムを積載することも可能だ。
2列シート車の荷室(写真:本田技研工業)このように、新型フリードでも、シートアレンジはかなり豊富。だが、現行モデルと異なるのが運転席・助手席のアレンジだ。厚みのあるボディースタビライジングシートの採用により、背もたれを後方に倒してフラットにすることができなくなった。そのため、例えば、現行モデルの3列シート車で可能だった全シートの背もたれを後方に倒し、よりゆったりと横になれるモードは不可能となった。前述のとおり、ボディースタビライジングシートは、移動時の疲労軽減に貢献するものだが、このあたりはユーザーの使い方や好みによって賛否がわかれるところかもしれない。
フルモデルチェンジでライバルのシエンタに勝てるのか
現行モデルのフリードは、自販連(自動車販売協会連合会)のデータによれば、2023年度(2023年4月~2024年3月)の新車販売台数で7万4681台を記録し、全体の10位にランクイン。モデル末期にもかかわらず、依然として高い人気を誇っている。
東洋経済オンライン「自動車最前線」は、自動車にまつわるホットなニュースをタイムリーに配信! 記事一覧はこちらただし、長年しのぎを削るライバル車のシエンタは、同じ2023年度の新車販売台数で12万2706台、全体の3位を記録。2022年度(2022年4月~2023年3月)の新車販売台数では、シエンタ9万2766台(全体の5位)、フリード7万9820台(全体の6位)だったから、差は広がった印象だ。現行のシエンタは2022年にフルモデルチェンジを受け、より最新の装備を持つのに対し、フリードの基本装備は8年間変わっていない。シエンタに対抗するには、さすがに現行モデルではつらくなってきていることがうかがえる。
そんななか、新型フリードに対し、市場がどのような反応を示すのかが今後気になるところだ。強敵シエンタの牙城を打ち崩し、コンパクトミニバンの覇者に君臨できるのかに注目したい。
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