東京モーターサイクルショーに展示されたヤマハの新型「XSR900GP」(筆者撮影)

ヤマハ発動機(以下、ヤマハ)の新型「XSR900GP」を初めて見たとき、「かなり完成度が高いカスタムバイクのようだ」と思った。2024年5月20日に発売を予定する当モデルは、同社の900cc・スポーツモデル「XSR900」がベースになる。

もともとは、カウルレスのネイキッドと呼ばれるバイクなのだが、カウリングや赤×白のカラー、セパレート式のハンドルなどの装備により、まさに1980年代の伝説的レーサー「YZR500」の雰囲気を見事に再現している。

「青春時代に憧れたバイク」を彷彿させる仕上がり

当時の2輪車レース・ブームを知る筆者は、まさに「青春時代に憧れたバイク」を彷彿させる仕上がりだと感じた。しかも製作は、カスタムを専門にするショップなどではなく、メーカーであるヤマハ。「よくぞ、ここまで改造(アレンジ)したな」と感服しつつ、じっと見入ってしまったのだが、きっと同世代のバイクファンにも、同じように気になってしかたない人も多いだろう。

ここでは、そんなXSR900GPについて、採用するスタイルの時代背景や機能の特徴などを紹介。また、「第51回 東京モーターサイクルショー(2024年3月22~24日・東京ビッグサイト)」で現車を間近に見てきたので、その感想などもお届けしよう。

【写真】1980年代のレーサーを忠実に再現したヤマハの新型「XSR900GP」。まるでYZR500のようなスタイル(70枚以上)ベースになるXSR900。ボディカラーは新色のブラックメタリックX(写真:ヤマハ発動機)

XSR900GPは、ヤマハが「スポーツヘリテージ」と呼ぶ「XSR」シリーズの新型モデルだ。従来のラインナップは、125ccの「XSR125」、700ccの「XSR700」、そして新型のベースとなった900ccのXSR900。いずれも、往年の名車をオマージュしたスタイルと最新の装備をマッチさせ、世界的に人気の高い「ネオクラシック」というジャンルに属するモデル群だ。

主な特徴は、カウリングのないネイキッドというスタイルを採用し、丸目一灯ヘッドライトやバーハンドル、クラシカルなシートなどを装備すること。ツーリング先の郊外はもちろん、都会にもフィットするスタイリッシュなフォルムと、幅広いライダーが扱いやすい動力性能などが魅力だといえる。

ニューモデルXSR900GPの特徴

XSR900GPの外観(写真:ヤマハ発動機)

そんなXSRシリーズで初となるカウリング装着モデルがXSR900GP。大きな特徴は、大型クリアスクリーンとナックルバイザーを装備したフロントマスクだ。とくに別体式のナックルバイザーは、まさに1980年代のYZR500が持つスタイルを彷彿させる。また、イエローのゼッケンプレートも採用。これは、YZR500が参戦した世界最高峰2輪車レース「WGP(ロードレース世界選手権、現在のMotoGP)」の頂点、「GP500ccクラス」に出場するマシンにだけ与えられたものをモチーフとする。さらに、もともとのバーハンドルをセパレート式ハンドルに変更。ハンドルをマウントするトップブリッジ上面部分など、コックピットまわりのボルトも新デザインとし、質感の向上も図っている。

XSR900GPのエンジン(筆者撮影)

エンジンには、XSR900と同じ888cc・直列3気筒を搭載。最高出力88kW(120PS)/10000rpm、最大トルク93N・m(9.5kgf・m)/7000rpmを発揮するパワーユニットは、コンパクトな燃焼室などにより燃焼効率を上げることで、高いトルク性能を実現する。また、独自の走行支援テクノロジー「YRC(ヤマハ・ライド・コントロール)」も搭載。ライダーが好みや路面状況に応じて、エンジンの出力特性や各種電子デバイスの介入度を選択できる機能だ。ワインディングやサーキットに適した「スポーツ」、市街地走行に適した「ストリート」、雨天時などで悪化した路面状況に適した「レイン」といった3つの走行モードを選択可能。また、各種設定を任意に設定できる「カスタム」モードも2タイプを用意し、幅広いライダーのニーズに対応する。

XSR900GPのメーターまわり(写真:ヤマハ発動機)

加えて、5インチフルカラーTFTメーターも採用。表示パターンは、専用のアナログ風タコメーターを含む4種から選択可能だ。さらに専用アプリ「Y-connect(Yamaha Motorcycle Connect)」をインストールしたスマートフォンとバイクを接続する機能も持つ。これにより、電話やメールの着信通知など、さまざまな情報や画像をメーターに表示可能。また、スマートフォンを使い、バイクに乗らなくてもYRCのセッティングを行うこともできる。

車体まわりでは、XSR900と同じく、独自のCF(コントロールド・フィリング)アルミダイキャスト技術を用いたメインフレームを採用。もっとも薄い部分の肉厚が1.7mmというこのフレームは、直進安定性と操縦性を両立させるために、縦・横・ねじり剛性のバランスを最適化。軽快なハンドリングと扱いやすさに貢献する。また、YZR500に採用したデルタボックスというタイプのフレームをオマージュし、アルミ地を模したシルバー塗装を施すなど、細部にこだわった仕上がりとなっている。

XSR900GPのリアビュー(筆者撮影)

加えて、新型では、リアフレームを新作とするなどで車体剛性をチューニング。専用開発の前後サスペンションは、調整幅を増やすとともに、サーキット走行などの高荷重にも対応する仕様となっている。

ほかにも、クラッチ操作やアクセルの操作なしでシフトチェンジを可能とする「クイックシフター」もアップとダウンの両方に対応するなど、レトロなスタイルながら最新の装備が満載だ。

カラーリングは、赤×白のシルキーホワイトのほか、パステルダークグレーも設定(写真:ヤマハ発動機)

なお、カラーバリエーションは、赤×白カラーの「シルキーホワイト」と、「パステルダークグレー」の2色で展開。価格(税込み)は143万円だ。

なぜ1980年代のレーシングマシンなのか

以上がXSR900GPの概要だが、なぜヤマハは、1980年代のレーシングマシンをオマージュしたモデルを出したのか。あくまで私見だが、おそらく、当時を知る筆者をはじめとする長年のバイクファンにとって、当時のYZR500が特別なマシンのひとつだからだろう。そうしたファンへアピールするために、XSR900のフルカウル版を出したことがうかがえる。

XSR900GPの元ネタ、1980年代前半から後半にかけてのYZR500は、前述のとおり、レース・ブーム全盛期といえる時代に活躍したマシンだ。しかも、キングの異名を持つケニー・ロバーツを筆頭に、エディ・ローソン、ウェイン・レイニーといった世界的スターライダーが続々と登場し、ヤマハのマシンで勝ちまくった。いずれも、WGPの最高峰500ccクラスで年間チャンピオンを数多く獲得し、日本だけでなく、世界のバイクファンが熱狂したのだ。

当時のGPマシンを彷彿とさせるイエローのゼッケンプレートも再現(写真:ヤマハ発動機)

まさにその時代を象徴するモデルのひとつ、YZR500の雰囲気がプンプンするのがXSR900GPだ。とくに筆者のような当時を知る者にとって、惹かれる要因のひとつが、赤×白カラー仕様のカラーリング。1980年代、ヤマハWGPワークスチームには、タバコのブランド「マールボロ(Marlboro)」がスポンサーになっており、赤と白のグラフィックと、サイドカウルなどにブランドのロゴが入っていた。XSR900GPは、Marlboroのロゴこそないものの、カラーのパターンはかなり忠実に再現。そして、冒頭で紹介したように、筆者が「よくぞ、ここまで」と感心した理由のひとつが、そうしたヤマハの徹底ぶりだ。

ちなみにショーモデルでは、シングルシートカウルが装着されているが、これは市販モデルではオプション設定。なお、純正アクセサリーには、ほかにもアンダーカウルキットなども用意し、これらを装着すれば、まさにフルカウルのYZR500仕様にすることができる。

オプション装着より再現度が高まる

ストロボカラーが印象的な純正アクセサリー装着車も展示された(筆者撮影)

純正アクセサリーといえば、今回のショーには、さらに2タイプの外装セット装着車も展示されていた。標準仕様のカラーリングと異なり、白いボディに、断続する赤のグラフィック(いわゆるストロボカラー)を用いた外装は、やはり1980年代の国内レースなどで活躍したヤマハワークスマシンのカラーを彷彿させる。

FZR400Rを連想するブルーの外装を備えたモデルも登場した(筆者撮影)

一方、赤×白とフロントカウルなどにブルーもあしらった外装は、1984年に登場した「FZ400R」をイメージさせる。このモデルは、当時、国内で盛り上がっていた400ccの市販車をベースとする、全日本選手権フォーミュラ3レースというカテゴリーに参戦し、初代チャンピオンなどに輝いた「FZR400」のベースマシンだ。

なお、これら2タイプの外装は、予約販売(受け付け期間は2024年5月10日まで)で、発売は2024年9月の予定。価格(税込み)はいずれも33万円に設定されている。

新色のシルキーホワイトのカラーリングを採用したXSR900(写真:ヤマハ発動機)新色のブラックメタリックXのカラーリングを採用したXSR900(写真:ヤマハ発動機)

 

ヤマハでは、ほかにもネイキッド版XSR900の2024年モデルに、XSR900GPとのリレーションを図った赤×白の新色「シルキーホワイト」を発表。同じく新設定の「ブラックメタリックX」とともに、こちらも2024年5月20日に発売予定。価格(税込み)は125万4000円だ。

白✕赤のカラーリングが施されたXSR700も展示されていた(筆者撮影)

また、まだ正式発表はないが(2024年4月20現在)、今回のショーには700cc版ネイキッドのXSR700にも白をベースに、燃料タンクなどに赤いグラフィックを採用した仕様が展示されていた。こちらも市販予定車というから、2024年のヤマハは、徹底して1980年代レーサーのイメージを推し進めていくようだ。

ネオクラシック×レーシングスタイルの潮流

1980年代のレーサーレプリカのようなスタイルが印象的なXSR900GP(写真:ヤマハ発動機)

近年、こうしたネオクラシックモデルは、ヤマハだけでなく、国内外2輪メーカーの多くが力を入れているジャンルだ。そんななかで、レースにおける自社の伝統を強くアピールしたXSR900GPが、市場からどのような反響を受けるのかは気になるところだ。少なくとも、1980年代のレース・ブーム時代に青春を送ったライダーたちは、このモデルにある程度の興味を持っているであろうことは予想できる(かくいう筆者も、興味津々ではあることは間違いない)。

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ちなみに、ヤマハによれば、同社がリリースする市販車のなかでも、従来のXSR900やXSR700は、国内2輪車市場のメインユーザーだといわれるベテランライダーだけでなく、近年増加する若い世代の購入者も多いという。きっと、レトロなスタイルや雰囲気は、長年バイクに乗る層には懐かしく、若い人たちにとっては新鮮に感じるからだろう。果たして、新型XSR900GPも、そうした幅広いライダーからの支持を受け、大きなセールスにつなげることができるのか。今後の動向に注視したい。

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