しばしお世話になったスタッドレスタイヤに別れを告げ、いよいよ夏タイヤのシーズンへ!

 でも、トラックの夏タイヤとスタッドレスタイヤって、どこが違うの? 商用車専門のタイヤマン、ハマダユキオさんに聞きました。

文・イラスト/ハマダユキオ
写真/トラックマガジン「フルロード」編集部

スタッドレスから夏タイヤへ

夏タイヤのオールシーズンのパターンイメージ。スタッドレスタイヤと比べ硬いゴム質とブロックの変形を抑えた構造が多いです

 関東では桜も散り、春というより初夏の陽気。積雪や凍結の心配をしなくて大丈夫ということで、スタッドレスタイヤから夏タイヤへの履き替えが進んでいるかと思います。

 新商品がリリースされるたびに、スタッドレスタイヤ、夏タイヤとも進化し続けておりますが、それでもスタッドレスと夏タイヤの性能はそれぞれ特徴的なものがあり、現状では使い分けているユーザーさんも多いと思います。

 夏タイヤのオールシーズンタイヤは、通常使用での耐摩耗性の向上はもちろん、雨天での滑りにくさ、摩耗末期における性能低下の抑制、そして浅く積もった新雪くらいまではカバーできます。

 しかし、凍結路ではゴムの性質がスタッドレスタイヤに及ばないため、そこはスタッドレスタイヤの専門性が必要なのです。

 スタッドレスタイヤは低温時に硬くならないゴムを使用して凍結路の食い付きをよくしていますが、それゆえに路面温度が上がる夏に使用すると夏タイヤに比べ摩耗が早いというのが実情です。

大まかな違いはゴムの性能とトレッドパターン

スタッドレスタイヤのパターン。ブロック一つ一つが独立しているイメージで、ブロックには細い筋の「サイプ」が刻まれてます。溝の深さはありますがブロックの動き(変形)も大きくなる傾向

 夏タイヤとスタッドレスタイヤの違いを大まかに分けるとすれば、ゴムの性能とトレッドパターンの違いになります。

 トレッドゴムは前述したようにスタッドレスタイヤは低温時でもゴムが硬くなりにくく、凍結路でも路面表面の細い凸凹をピッタリと掴むようなイメージですね。

 ゴムの特性は各メーカーでさまざまですが、低温時の硬化を防ぐという目的はほぼ同じだと思います。この低温時の硬化を防ぐ性能が仇になるのが夏の高温時です。

 トレッドのゴムの摩耗はミクロの世界で見た場合、簡単にいうとゴムが千切れて行く現象なんですね。この千切れていく現象は熱が加わるとさらに促進されるので、スタッドレスタイヤを夏の暑い時期に使用すると夏タイヤより摩耗が早くなる傾向があります。

 スタッドレスタイヤの特性でもう一つの長所は積雪時の走破性ですが、これにはトレッドパターンの形と溝の深さが関係しています。深い溝で積もった雪を踏み固め、雪の柱を作るイメージで、その柱に駆動力や制動力を伝えてクルマを止めたり進めたりするわけです。

 スタッドレスタイヤのトレッドパターンはブロックパターンに分類されるのですが、ブロックパターンは悪路での路面を摑むパターンデザインですので、回転方向でブロックはつながっておらず、横方向にも溝があり、結果独立した直方体が並んでいる形になります。この独立した直方体は路面との接地で大きく変形しやすくなります。

 この動きがハンドリングの「フワついた感じ」や、ブロック本体の動きが大きくなれば燃費の悪化につながる可能性も高くなるわけです。

 夏タイヤはスタッドレスタイヤに比べ溝はいくらか浅く、オールシーズンタイヤのブロックパターンでもブロックの動きを抑制する工夫が施されてるデザインになっていたりします。

 路面へ接地した時のブロックの変形は、ハンドリングの不安定感に加えブロック自体の偏摩耗や燃費の低下も招いてしまいます。

 車両やエンジンの性能向上で低燃費化が進んでいますが、タイヤも燃費に大きく影響するパーツの一つです。タイヤの転がり抵抗が大きく、早期摩耗や偏摩耗が激しく、タイヤを破棄することが増えれば、不経済で環境負荷も高くなってしまいます。

 そこでオールシーズンの夏タイヤのブロックパターンは、ブロック自体の動きを抑える構造やデザインにより偏摩耗を抑え、ロングライフ、省メンテナンス、低燃費を実現しています。

 積雪を踏み固めたり氷上での走行は考慮していないので、低燃費ゴムも使えますし、ドライ、ウエットとさまざまな路面をそこそこ走破できるタイヤにできるのです。

スタッドレスタイヤの泣きどころ

スタッドレスタイヤのウエット路面でのイメージイラスト。ウエット路面の水分量は氷上の水膜のような僅かな量ではなく、主溝での排水はされるもののタイヤ(ゴム)に含まれる水で水膜ができやすいくなります

 スタッドレスタイヤは積雪や凍結路での性能を重視しておりますので、夏タイヤに比べると多少燃費が悪く、偏摩耗も出やすく摩耗ライフが短めです。

 氷の上で滑るのは、タイヤと路面との間にできるミクロの水膜が影響してタイヤが路面に喰いつけないせいですが、スタッドレスタイヤのゴムやトレッドパターンは、氷上性能を上げるためにタイヤと路面の間にできる水膜を除去する特性があります。

 ゴム本体で水を吸い上げるのは、トレッドゴムに老眼では絶対に見えないような細かい気泡の穴が空いていて、ゴムが水を吸い上げ、路面と密着させ氷上性能を確保する仕組みになります。

 また、トレッドパターンによる水膜除去は、トレッドパターンに細い「サイプ」と呼ばれる切れ込みがあり、毛細管現象を利用して水膜除去する仕組みです。

 夏タイヤにはない、こうしたスタッドレスタイヤの「水を含む」性能が仇となってしまうのが雨天時のウエット路面です。

 スタッドレスタイヤにも排水のための溝がありますので、ウエット路面では問題なさそうですが、タイヤが水を含む感じになり、夏タイヤに比べウエット性能が落ちる傾向にあるんですね。

 近年は低燃費とライフを両立させるトレッドゴムの採用でタイヤは着々と進化しています。将来的に行き着くところは、夏タイヤとスタッドレスタイヤの「いいとこ取り」のタイヤが登場するかもしれませんが、それまでは各々の長所を活かし上手に使い分けましょう

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