ドライバーは順守しなければならない交通ルール。だが、このルールも時代によって変化する。そして現在の常識では信じられないようなルールもかつては存在していた。今回は、そんなゆる~い交通ルールを紹介する。

文/長谷川 敦、写真/ボルボ、メルセデスベンツ、写真AC、イラストAC、Adobe Stock、アイキャッチ画像/gustavofrazao@AdobeStock

■交通ルールが変化する理由

時代によって交通ルールは変更され、かつてはOKだったことが現在では処罰の対象になることもある。運転者は常にこうした情報をアップデートしておきたい

 交通ルール、または道路交通法は、時代によって変わる。やってもいいこととやってはいけないこと、つまり“善悪”の基準が変化するというのも不思議な話ではある。

 だが、現在深刻な問題になっている携帯電話のながら運転とそれに対する罰則も、携帯電話そのものが存在しなかった数十年前には考える必要すらなかった。そして自動車の増加と性能向上、さらに環境整備によっても求められるルールは変化する。

 こうした理由により、交通ルールはその時代に合わせて変わるのである。もちろん、国によっても事情が異なり、世界の交通ルールはすべて共通なわけではない。

 とはいえ、その時代ですら「コレはちょっとどうなの?」というゆるいルールがあったのも事実。そこで次の項目からは、ゆるすぎるムカシの交通ルールを見ていきたい。

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■飲酒運転がOKだったってホント?

 個人差はあるが、お酒を飲むと反射神経や平衡感覚、さらには集中力が低下するのはよく知られている。こうした状態でクルマを運転するのは、本人ばかりか周囲にまで危険を及ぼすのは言うまでもない。

 そのため、現在の道路交通法では、呼気1Lに対するアルコールの量が0.15mg以上の状態でクルマを運転した場合に罰則の対象になり、さらに飲酒運転による事故には厳罰が科される。

 だが、それは現在の話。実は、20世紀は今よりもずっと飲酒運転の基準が甘かった。

 アルコール量0.15mg/L以上が罰則の対象になったのは2002年のこと。それまでの基準値は0.25mg/Lであり、その基準も1960年に定められたもの。つまり、1959年以前は飲酒運転に関する基準そのものが存在していなかった。

 そして基準値が制定されても「基準以下なら飲酒運転も許される」と解釈されてしまい、飲酒運転を行うドライバーは後を絶たない。

 当然ながらこの風潮をよしとしない政府は、1970年より基準値以上での運転を処罰の対象とした。

 だが、これでも飲酒運転やそれに起因する事故は減らなかったため、2002年からは基準値を0.15mg/Lに改めると同時に、違反した場合には厳罰が科されることになった。

 さらに2007年と2009年には処罰の対象が広げられ、運転手本人のみならず同乗者や、クルマを運転するとわかっている相手に酒を飲ませた人も罰せられるように道交法が改定された。

 こうした現在の状況からは、かつて飲酒運転が処罰の対象にならなかったということに驚かされる。これこそ、ゆるすぎるにもほどがあるルールだといえよう。

■命を守るシートベルト着用義務化の歴史

 クルマを運転する時にシートベルトを着用するのは、なによりもまず自分の身を守るため。だから「自分は絶対に事故を起こさない」「万が一事故に遭っても自分は大丈夫」などの根拠のない自信を持っている人はシートベルトを使わないということも考えられる。

 特に年配のドライバーにそうした傾向が見られるが、それは自身が運転免許証を取得した時にシートベルトの着用が義務ではなかったからかもしれない。

 運転手のシートベルト着用が義務になり、これに違反した場合に罰則の対象になったのは1985年9月からだ。とはいえ、これは高速道路と自動車専用道路での話。

 一般道でもシートベルト着用が義務となったのは1992年11月からとなる。それまでシートベルトを締めるかそうでないかは運転手自身が判断していた。

「シートベルトをせずにケガをしても自分の責任だからいいじゃないか」という考えの人は現在でも存在する。

 だが、シートベルトをしなかったばかりに事故の際のケガが重度になり、本来ならば自力でクルマから脱出できたはずなのに、救助員の手間を増やして事故処理を長引かせたら、それはもう自己責任の範疇を超えている。

 最初に行われたのはシートベルトの着用義務化ではなく、クルマへのシートベルト設置の義務化だった。1969年4月から国産車では運転席にのみシートベルトの設置が義務付けられ、1973年には助手席、1975年に後部座席も設置が義務化された。

 シートベルト着用が義務化されたのは先に紹介したとおり、1985年の9月。はじめは運転席&助手席のシートベルト未着用が罰則の対象になった。後部座席の義務化までは時間がかかり、施行は2008年と比較的最近の話になる。

 なお、シートベルト設置義務化前に製造されたクルマに乗っている場合、シートベルトを締めていなくても違反にはならない。

 1985年以前は、事故に遭った際の安全率を高めてくれるシートベルトの着用が義務ではなかったという事実にも驚かされるが、実は公道よりもはるかに速いスピードで走るレースカーもシートベルトが標準化するのは1970年代からである。

 これは、シートベルトを締めていると、事故の際にクルマから脱出するのが遅くなってしまうという考えからきている。

 かつてのレース中の事故では燃え盛るクルマの中から脱出できないといった悲劇も起こっていて、それがシートベルトの普及を遅らせていた。

 しかし、まずは事故のインパクトから身を守るのが優先という考えと、レースカーの安全性が向上して出火しにくくなった(とはいえ出火の危険性はまだある)ことにより、現在ではサーキット、公道ともにシートベルトが使用されている。

■ヘルメットなしでもバイクに乗れた?

事故によって傷ついたヘルメット。ヘルメット自身が傷つくことによってライダーの頭部を守ってくれるのだが、実は1978年まで着用の義務はなかった(Nelli@Adobe Stock)

 2023年4月には自転車に乗る際にもヘルメットの着用が努力義務化された。そして自転車よりも速度が高く、クルマと同じ道路を走るバイクもヘルメットなしで乗ることは許されていない。

 だが、このヘルメット着用もムカシは義務ではなかった。

 バイク(自動二輪車)でのヘルメット着用が義務化されたのは実は1978年からで、それまではノーヘルで乗っても取り締まりの対象にはならなかった。

 もちろん、安全意識の高い人は罰則の有無にかかわらずヘルメットを被っていたが、ノーヘルは普通に見られたし、排気量50cc以下の原動機付自転車(原付)では、1986年までヘルメットの着用義務はなかった。

 実際、ヘルメットの着用義務化からしばらくの間は、それを知らずにノーヘルでバイクに乗っていた人も存在した。

 自転車のヘルメット着用努力義務化が施行されて1年が経過したが、現時点ではあくまで努力義務であり罰則はない。

 しかし、これもまた自転車でのヘルメット着用が常識化した未来において「え、ムカシはノーヘルで自転車に乗れたの?」という状況になっている可能性は高い。

 交通関係にかぎらず、時代が変わればそれに応じてルールも変わる。そして安全性にかかわる装備とルールに100%もありえない。

 今では常識となっているルールも、そう遠くない将来により安全・安心なものへと変わっているかもしれない。

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