クルマを所有している人なら、「リセールバリュー」という言葉を聞いたことがあるだろう。
これは「再販価値」を意味する言葉で、クルマでいえば下取りや売却時の価格を左右するもの。当然、リセールバリューが高いほうが売却時の価格も高いため、リセールバリューを考慮して車種やグレード、色などを選ぶ人も少なくない。
では、新車購入者は、そのリセールバリューをどのぐらい意識しているのだろうか。それが今回のテーマである。
「ネットで買い物」が当たり前の今だから
なぜ、リセールバリューに注目したかというと、「中古車売買とオンライン」の関係が深まってきたからだ。
「Yahoo!オークション」がサービスを開始したのは1999年、「Amazon」の日本語版サイトがオープンしたのが2000年、「メリカリ」のスタートは2013年。ネットで物を買う(あるいは売る)ことは、もはや当たり前となっているが、クルマという視点で見ると、まだまだ“当たり前”というには至っていない。
テスラは当初より新車もオンラインのみで販売する(写真:Tesla, Inc. )新車販売のオンライン化はおだやかに進もうとしているとはいえ、カーディーラーでの契約がまだまだ一般的。一方、中古車市場では、中古車情報サイト、オークションサイト、フリマアプリなど、すでにある程度のオンライン化が進んでいる。
つまり、新車販売に対して中古車の売買はオンライン化が一般化しており、相場検索サイトをチェックしたり、「まずはネットで相見積もり」というケースも多い。「せっかく売るなら少しでも高く売りたい」と思うのは、自然なことだ。
では、自動車ユーザーは、新車を買う際にリセールバリューをどの程度、意識するのだろうか。市場調査会社のインテージが2024年3月に行った自主調査の結果から、分析してみた。
<調査対象>2021年3月以降の新車購入者かつ2022年3~9月の間に納車された、全国の18~69歳の男女9285人。調査結果の表を見る
ここからは「車種を選択するときにリセールバリューを意識するか」を、さまざまな分析軸を切り口に見ていく。質問に対し「とてもあてはまる」~「まったくあてはまらない」の7段階の選択肢で聞いたものだ。
まずは年代別に見てみると、20代が特に強くリセールバリューを気にしている結果となった。
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理由はいくつか考えられる。ひとつは、この先のライフステージや居住地が変化する可能性が高く、クルマの買い替え機会が潜在的に多いこと。近い将来に売却することを想定するなら、なるべく高く売れる車種にしようと考えるのは自然である。
また、中古車情報サイトなどで大まかな相場が可視化されているように、WEB上の情報に接する機会が多いことも、20代が突出した理由だろう。リセールバリューの良し悪しという観点だけ見れば、リセールバリューの良い車種(=人気車種)はネットで目にする機会も多い。
20代ならではの価値観
そもそも、昨今は世代間で考え方が大きく異なる。いわゆるZ世代を含む20代は、洋服などを買うときも、売却時のことを考えて選ぶ人が少なくない。具体的には、メルカリなどのフリマアプリで相場を把握することが多いようだ。
このような入り口(購入)と出口(売却)が頭の中で自然に1セットになっていると、クルマ購入時においても同じような考え方になるのは不思議ではない。ちなみに、性別も分けて見たのが次の表である。
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この結果から、全年代で男性のほうが女性よりもリセールバリューを意識する人が多いことがわかる。20代男性は、約6割の人が「あてはまる」と回答している。なお、この傾向がクルマ特有のものなのか、商品カテゴリーを問わず似た結果になるのかまでは今回の調査からはわからない。
次に「世帯年収別」で確認してみよう。結果は、世帯年収が高いほどリセールバリューを強く意識しているが、一定のライン(1500万円以上)を超えるとやや下がる、となった。
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金銭的に余裕があると車種選択の幅が広くなるため、その中で好条件のクルマを選ぼうと思うのではないだろうか。一方で、一定以上の収入を超えると、リセールバリューを意識する人が減っていく傾向はおもしろい。「細かいことは気にせず、乗りたいものに乗る」という人が増えるのだろう。とは言え1000万円未満の人たちよりは、リセールバリューへの意識は強い。
レクサス/ジープ/ベンツの特異性
続いて「メーカー別」のリセールバリューへの意識を見ていこう。国産メーカーでは、ラグジュアリーブランドであるレクサスが突出している。次いでトヨタ、日産、ホンダ、マツダ、三菱が続く。軽自動車を主力商品とするダイハツとスズキは、低い結果となった。
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輸入車に目を移すと、ジープのスコアの高さ(特に「とてもあてはまる」の多さ)と、メルセデス・ベンツが5割を超えている点が特徴的だ。
輸入車は、国産車よりもリセールバリューが低くなりがちであるが、中古車でも人気の高いジープとメルセデス・ベンツは比較的高い。新車価格が高いほど値落ち幅が大きくなるため、そういったブランドや車種を避けようと考える人が多いのかもしれない。
最後に「顧客構成別」のデータも紹介する。具体的には「メーカー再購入意向」の指標と、「継続購入状況」を組み合わせて分類し、ユーザーを次の5つに分けたものだ。
<A:生涯顧客>そのメーカーのクルマを今後も購入し続ける人
<B:準生涯顧客>
生涯顧客ほど強くないが、乗り続ける可能性の高い人
<C:ニュートラル>
この先の意思決定は未定な人
<D:離脱予備軍>
このままでは他社へ流出するおそれのある人
<E:次期離脱>
このままいけば高い確率で他社へ流出する人
「とてもあてはまる+あてはまる」を見ると、離脱性の高い人ほどリセールバリューを意識していない結果となった。購入したクルマのメーカー(ブランド)への愛着の強さが表れた形だ。
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しかし、ここで疑問が湧く。生涯顧客の多さは、顧客基盤の強固さを表すものだ。その生涯顧客が、ほかの顧客層よりもリセールバリューを重視しているのは、どうしてだろうか。
今回の調査では因果関係はわからないが、リセールバリューを意識した結果、同一メーカーを乗り続けているのかもしれないし、同一メーカーでのより上位車種への買い替えを考慮して、リセールバリューの高いクルマを選んでいるのかもしれない。
ポジティブな連鎖を実現するには?
好きなメーカーのクルマを購入し、数年後に同じメーカーの別のクルマに乗り換える。その際に高く売れることは、ユーザーとして嬉しい。言うまでもなく、次に買うクルマの予算を増やすことができるためだ。想定していた予算よりも1つ上のグレードを選択したり、追加でオプションをつけたりもできる。
売り手のメーカーやディーラーの視点で見れば、その分1台あたりの利益を増やすことができる。これらポジティブな連鎖を実現するためには、中古車市場でそのクルマが価値を保ち続け、値崩れしないこと、そしてそもそも新車市場で高い人気を得る必要がある。
東洋経済オンライン「自動車最前線」は、自動車にまつわるホットなニュースをタイムリーに配信! 記事一覧はこちらトヨタにしろメルセデス・ベンツにしろ、エントリーモデルからのステップアップに対応するラインナップを持つメーカーは、このポジティブな連鎖をうまく構築できている例といえるだろう。
リセールバリューを意識しすぎてライフスタイルに合わないクルマを選ぶのは本末転倒だが、ユーザーとしてはやはり、ある程度リセールバリューは気にしたいところだ。
もう一度調査結果の表を見る鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。