新車の納期が年単位になり、果ては注文を受け付けてくれない事態になりつつある昨今。人気のあるクルマほど手に入りにくくなり、新車への乗り換えも車検を通しながら考える時代になってきた。欲しいクルマが買えない状況で、自動車ユーザーと営業マンは何を思っているのだろうか。

文:佐々木 亘/写真:Adobe Stock(トップ画像=WavebreakmediaMicro@Adobe Stock)

■オーダーストップはもうやめて! せめて注文だけでも受け付けてはくれないものか

欲しいクルマがあるのに門前払いは、厳しすぎやしませんか(Puwasit Inyavileart@Adobe Stock)

 これまで、コロナ、ウクライナ戦争、半導体不足など、クルマが作れないと言われる原因が様々に言われてきた。しかし、現在はこうした問題も乗り越え終わったようにも感じる。それでもクルマが届かない・買えないという事態が収まる気配はない。

 部品調達なのか、工場の操業スケジュールやコストの問題か、日本で売っても利益が出ないからなのか。日本メーカーが日本市場にクルマを届けられない(届けないのかも)理由は、社会情勢以外に必ずあると思う。まずはここを、本音で語ってほしいし、明らかにしてほしい。

 もしも安定供給に消費者側の負担が必要なら、それもやむなし。食料品も値上げラッシュだし、クルマの価格が上がっても誰も驚かないと思う。それよりも、よくわからない理由で注文もできない状況を、ただただ指をくわえてみているだけの方が、納得いかないし、つらい。

 納車が、何年先になってもいいから、せめて注文だけでも受け付けてほしいのだが。欲しいクルマがあるのに門前払いは、厳しすぎやしませんか。

■「もはや機械でも」と言わせてしまう状況は超深刻

 自動車の製販分離が広がった今の日本では、売り手側のディーラーがメーカーとユーザーの板挟みになり、厳しい立場に置かれている。ディーラーは、唐突に出るオーダーストップに振り回されっぱなしだ。ここ数年は、まともにクルマを売っている気がしていないだろう。

 ディーラーで働く中堅営業マンは、最近の状況をこう話す。

 「『先着だ、抽選だ』と、後出しで出てくる販売方針の変更には疲れました。正常に販売できるクルマが極端に少なく、出てはオーダーストップの繰り返し。クルマを売るって楽しいことだったはずなのに、最近は商談の面白さを感じることはありません。」

 クルマの売り方も、この数年で大きく変わったように感じる。また最近気になる製造都合の売り方に、営業マンはこうも話してくれた。

 「今の売り方を、自動車販売の営業とは言いたくないです。この売り方なら、機械でもできると思う。もっと血の通ったやり取りを、私たちは販売現場で行っていたはずなのに。懇意にしてもらっているお客様の希望にも添えず、何もできずつらいです。」

 家も時計も高級バッグも、他の何百万円もする買い物は、ほとんどが1度きりの買い物だ。しかし、クルマは交換サイクルがあり複数回買う。

 同じユーザーから「代替(だいがえ)」してもらった時が、自動車ディーラー営業マンの至福の瞬間だったのに。ユーザーのニーズに応えられない今の営業マンは、やるせない気持ちでいっぱいだろう。

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■今こそ御贔屓さんに立ち戻る時

自動車ディーラーには、決してコンビニエンスにならず、心を通わせたやり取りを、逃げずに続けてもらいたい(makibestphoto@Adobe Stock)

 ネットショッピングのように、ボタン1つでクルマが買える状況も、それもそれで便利なのだろうが、日本には血の通った自動車販売を残してほしいと筆者は願う。自動車ディーラーには、決してコンビニエンスにならず、心を通わせたやり取りを、逃げずに続けてもらいたい。

 そして私たちユーザーは、目の前の問題に、真摯に取り組むディーラーを十分に評価しようではないか。

 欲しいクルマが買えない状況を相談しても、代替案が出てこない、門前払いのディーラーならそれまでだ。

 しかし、少なくとも私が知る限り、クルマが買えない状況を困りごととして相談すれば、ディーラーは解決へと導いてくれる。代わりのクルマを提案してくれたり、注文再開時には、いの一番に連絡をくれたりするだろう。

 常連さんになり「ひいき」してもらうのが不平等と言われる昨今。しかし、人の血が通った販売なら、ひいきも当たり前に起こるし、それがいいと思う。ひいきのある商売の方が、経済も豊かになっていくだろう。

 お店では「どうぞごひいきに」などの言葉を、最近聞かなくなった。メーカーからのあおりを受けても、ディーラーが踏ん張っている今だからこそ、クルマが欲しいという場合には、ディーラーの御贔屓さんになるのが最善策だと筆者は思う。

 クルマは単なる乗り物ではない。人と人とが交わり合って生まれた文化だ。ユーザー、ディーラーともに辛い状況が続くが、ここは手を取り合って日本の自動車メーカーに対し、一石を投じる必要があるだろう。

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