2021年に、「先進国全体でのEV、FCVの販売比率を2030年に40%、2035年には80%、2040年には、グローバルで100%を目指す」という目標を発表し、事実上の「エンジン全廃宣言」をした、ホンダ。当時は、欧州を起点としたBEV転換の動きが加速し始めたタイミングであり、このホンダの発表は、日本の自動車メーカーのなかで先陣を切ったかたちだった。

 あれから4年、状況は少しずつ変わってきており、多くのクルマメーカーが、BEV化へのアクセルを緩め始めているが、ホンダはいまも着々と計画を達成しようとしているようす。実際、ホンダの三部敏宏社長は、先日(2024年5月16日)に実施した「ビジネスアップデート」会見で、EVの生産拡大などの電動化と自動運転などのソフトウエア開発を強化するため、2030年度までの10年間に10兆円を投資する計画を明らかにしている。しかしホンダは、本当にそれでいいのだろうか。

文:吉川賢一/写真:HONDA

エンジン技術に長けたホンダが、エンジンの可能性にチャレンジをしてくれないのは残念すぎる

 BEV開発に積極的だったBMW、GM、フォード、そしてテスラなどが減収を発表し、メルセデス・ベンツは2030年の新車販売全車EV化を撤回(もともと市場動向によって判断するとしていた)、アップルも10年間頑張ってきたBEV開発の中止を発表するなど、少し前までイケイケだったBEV化への流れが、昨今は少し変化してきている。中国自動車企業による激安BEVの拡販や、そもそものBEV需要が鈍化したことなどが理由だと考えられ、急速なBEV転換を図ろうとしたことよる綻びが露わになってきたのだろう。

 ただ、冒頭で紹介した通り、ホンダの将来計画は現時点(2024年5月中旬)で変更の発表はない。2024年1月にも、アメリカラスベガスで行われた世界最大級のテクノロジーの祭典CES 2024の場において、ホンダの三部社長は、新グローバルEV「Honda 0シリーズ」を世界初公開し、本シリーズにかけた想いを熱く語っている。この「Honda 0(ゼロ)シリーズ」は、2026年より北米市場を皮切りにグローバルで展開する予定だという。

CES2024の場で、ホンダ社長の三部氏は新EVシリーズ「Honda 0シリーズ」への思いを語った

 また、2024年4月に行われた北京モーターショーでは、広汽ホンダから発売する新型BEVの「e:NP2(イーエヌピーツー)」を発表。さらには中国市場で、2027年までに10機種のHondaブランドEVの投入(2022年に中国で発売したe:NP1、e:NS1を含む)し、2035年までにEV販売比率100%の達成を目指す旨も発表するなど、計画遂行に向けて気合十分といったところだ。これらのホンダの将来計画を無謀だとは思わないが、業界の流れをみていると、ホンダはBEVへ全振りし過ぎではないかと心配になる。

 特にホンダは、エンジン技術に長けたメーカーというイメージが強いため、エンジンの可能性についてチャレンジをしてくれないホンダに対し、残念に思っている人は少なくないと思う。

2024年4月に行われた北京モーターショーで広汽ホンダが発表した新型BEVの「e:NP2(イーエヌピーツー)」。6月には、東風ホンダからも新型EVの「e:NS2(イーエヌエスツー)」が発売される
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ぜひ、次世代軽スポーツ向けの660ccエンジンの開発を!!

 ここからは、ホンダへの期待を込めて、ホンダに新たに開発してほしいエンジンについて考えてみよう。まず期待したいのが、次世代軽スポーツ向けの660ccエンジンだ。2022年3月に生産終了したS660のエンジンは、64馬力規制のもと、専用設計されたターボチャージャーを採用した高回転型エンジンで、珠玉の一基だった。少ない排気量で上位機種と張り合う姿勢は、まさにホンダのチャレンジ精神を表していると思う。次世代軽スポーツカー向けとして、ぜひ水素燃焼エンジンとする道を考えてほしい。

 また、次世代ミニバン向けの1.5Lスポーツエンジンも期待したい。現行ステップワゴンには、2.0Lガソリンエンジンと、1.5Lエンジン+モーターのe:HEVの2基があるが、とくにe:HEVの低燃費は魅力的だ。その魅力をさらに引き出すため、超低燃費ミニバン向けの定点回転型エンジンの開発を期待したい。

 また、次世代スポーツカー向けの2.0Lスポーツエンジンもぜひ開発してほしい。現行のFL5型シビックタイプRが登場前には、「遂にタイプRもハイブリッド化するか?」とウワサされていたが、蓋を開けてみれば、先代FK8の2.0Lターボエンジンの改良型での登場となった。ただ、スポーツカーとはいえ、カーボンニュートラルを目指さなくていいわけではなく、ホンダにはぜひ、CNF(カーボンニュートラル燃料)でも速い、新世代スポーツカー向けエンジンを考えてほしいと思う。またホンダのエンジンサウンドが存分に聞こえるオープンカーへの搭載も期待したい。

専用設計のターボチャージャーを採用した高回転型DOHCエンジン「S07A型」が搭載されていたS660。上限64馬力のため、低・中速域での力強さを狙ったターボチャージャーのセッティングがなされていた
いつの時代もクルマ好きが憧れるのはオープンカーだ。晴れた日にはルーフを開け、エンジンサウンドを存分に浴びたくなる

「君子豹変す」をみせてほしい!!

 BEV化はあくまでカーボンニュートラル達成のためのひとつの手段であり、それ自体が目的ではないことを見失ってはいけない。カーボンニュートラルの達成には様々なアプローチがあるはずであり、いまから「世の中の流れに即して検討した結果、ホンダはエンジンも諦めません」となっても誰も怒らないはずだ。そうしたチャレンジ精神に溢れた技術屋集団が、ホンダという企業だったはずであり、ホンダにはぜひ、「君子豹変す」をみせてほしいと思う。

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