多くの会社が陥りがちな「無意味な新卒採用」とは(写真:8x10/PIXTA)これまで1万人超の採用・昇降格面接、管理職・階層別研修、また多数の企業の評価会議、目標設定会議に同席し、アドバイスを行ってきた人事コンサルタント・西尾太氏による連載「社員成長の決め手は、人事が9割」。エンターテインメントコンテンツのポータルサイト「アルファポリス」とのコラボによりお届けする。

選考時に人事が見抜くべきポイント①「エネルギー」

人事コンサルタントという職業柄、私は経営者や人事担当者の皆さんからさまざまなご相談をいただきます。特に多いのは「いい人が採れない」という課題です。「いい人」の定義は会社によって異なりますが、経歴よりも意外に重要なのは「自社に合うか」。たとえ優秀な人材を採用できても、自社に合わなければ、すぐに辞めてしまいます。

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どうしたら自社に合った「いい人」を採用できるのでしょうか?

エントリーシートや職務経歴書だけでは、応募者の本質はなかなか見抜くことはできません。選考時には、以下の3つのポイントに注目してみてください。

1つ目のポイントは「エネルギー」。採用面接では少なくとも「所定労働時間を働けるか」を第一に確認しますが、ここではタスク(目標設定・計画立案・進捗管理・目標達成)の完遂能力を指します。対人関係におけるエネルギー(積極性・主体性・共感性など)も重要です。これらを見抜くためには、面接で以下のような質問をするといいでしょう。

「これまでに“やり遂げた”のは、どのようなことですか?」

「目標を達成しなかったことはありますか? その原因は何でしたか?」

「周囲の人をどのように巻き込みましたか?」

「うまくいかなかったことはありますか? どのようにすればよかったですか?」

これまでの振り返りと反省を「具体的なエピソード」として話してもらうのです。目標を設定し、計画を立案し、進捗を管理し、目標を達成する。このPDCAサイクルを回していくことは業務の基本。組織で働く以上、周囲を巻き込む力も不可欠です。

これらの質問に対して、具体例が出てくれば出てくるほど、自社にとっての「いい人」を判断しやすくなります。一方、具体的なエピソードがなく、抽象論に留まるようなら、「エネルギーがあるとは判定できない」と考えていいでしょう。

選考時に人事が見抜くべきポイント②「知能」(概念知能・感情知能)

2つ目のポイントは「知能」。知能には「概念知能」と「感情知能」の2種類があり、仕事をするためにはどちらも必要です。

概念知能とは、物事を構造的に理解し、それをわかりやすく伝える能力。自身の思いや考えはもちろん、相手に問いかけられたことを的確に理解し、問題に対して的を射た答えを出すことができる。概念知能は、優先順位をつけて仕事を段取りよく進める「タスクマネジメント」につながります。

「次の会社に求めるものを3つ教えていただけますか?」

概念知能を判断するには、このような質問をするといいでしょう。要点をいくつかのポイントにまとめ、わかりやすく伝えるためには概念知能が必要です。自身が会社に求めているものを3つにまとめ的確に伝えられる人は、概念知能があると判断できます。

逆に3つにまとめることができなかったり、要領を得ない回答の場合は「概念知能があるとは判定できない」と考えていいでしょう。また、概念知能があっても「次の会社に求めるもの」を自社が提供できない場合も、採用は見送ったほうがいいでしょう。

一方、感情知能とは、人の気持ちがわかる能力。相手の気持ちを理解し(あるいは理解しようと努め)、それに対して適切な言動が取れる。感情知能は、人を巻き込んだり、育成したりする「ヒューマンマネジメント」につながります。

「周囲の人々は、あなたのことをどんな人だと言っていますか?」

感情知能の判断をするには、このような質問をするといいでしょう。自分自身について客観的かつ具体的に述べられるならば、一定の感情知能があると判断することができます。逆に「優しい人と言われます」と曖昧な一言で終わってしまったり、具体的な説明がない場合は、「感情知能があるとは判定できない」と考えていいでしょう。

選考時に人事が見抜くべきポイント③「パーソナリティ」 (性格的特徴・行動傾向性)

3つ目のポイントは「パーソナリティ」。これは性格的特徴や行動傾向性を指します。パーソナリティは、生まれつき備わっている性格や素質に加え、家族や生活環境、周囲との人間関係など、子どもから大人への成長過程で次第に形成されるものと考えられています。そのため、人によって考え方や行動に以下のような違いがあります。

「周囲に気を使う」⇔「周囲に惑わされずに行動する」
「物事をすぐに決めたい」⇔「決めるまでに慎重に行動する」
「計画好き」⇔「アドリブ好き」
「人と一緒にいたい」⇔「周囲に惑わされずに行動したい」

これらは、どちらかが「正しい・間違っている」ということはありません。しかし、自社の仕事や社風に「合う・合わない」はあると考えられます。たとえば、チームプレーを重視する会社なら「周囲に気を使う人」を採用すべきでしょう。逆に主体的に動くことを重視する会社なら「周囲に惑わされずに行動する人」を採用すべきです。

職種や仕事内容、社風によって、採用すべき人材のパーソナリティは異なります。自社が求める人材像を明確にしたうえで、それに合った性格的特徴や行動傾向性を持つ人を採用していけば、採用後のミスマッチや離職を防ぎやすくなります。

とはいえ面接のやりとりだけで応募者のパーソナリティを判断するのは、正直かなり難しいものがあります。求人情報の「求める人物像」などを参考にすれば、応募者は演じることもできてしまいます。パーソナリティの判定については、SPIなどの適性検査(パーソナリティ検査)も活用することをおすすめします(詳細は第17回参照)。

面接による主観的な判定の妥当性は2割未満と言われていますが、適性検査の妥当性は長期的には4割、その時点におけるものなら7割ぐらいの確率で出力できるとされています(長期的には、人は環境等によって変化していくので妥当性は下がります)。

いずれにしても比較的高い確率で応募者のパーソナリティを判定できると考えていいでしょう。適性検査も併用することによって、より自社に合った人材を採用しやすくなります。

優秀な人材を採用するための重要ポイント:「自社」と「応募者」の話を半々にする

自社にとっての「いい人」を採用するためには、面接における大事なポイントがもう1つあります。それは「応募者の話を聞く」だけでなく「自社についての話もする」こと。優秀な人材を獲得するためには、これは特に重要です。

応募者に対して「自己紹介」「志望動機」「長所・短所」「将来のキャリアビジョン」などを質問するのと同じように、採用担当者も「自社の紹介」「募集理由」「強み・課題」「中長期的な経営戦略」などを伝えるようにしましょう。

面接とは、企業と求職者がお互いについて情報交換をする場。企業が「いい人」を求めているように、求職者も「いい会社」を求めています。企業がより良い人材を選ぼうとしているのと同じように、求職者もより良い企業を選ぼうと考えています。

優秀な人材は、特にその傾向が強いです。彼ら・彼女らは、やりたいことが明確にあり、それができる環境を探しています。ましてや今は、あらゆる業界が人手不足。優秀な人材を欲しがっている企業はいくらでもあります。自社についての情報提供を行い、しっかりアピールしなければ、優秀な人材ほど寄ってきません。

自社の情報を伝えたうえで「いかがですか、応募されますか」と尋ねると「でしたら、ちょっと違いますね」と辞退する人もいるでしょう。しかし「ぜひやってみたいです」と入社意欲を高める人もいます。自社にとっての「いい人」は、当然後者です。

面接が1時間だったら「自社の話」と「応募者の話」は半々ぐらいが理想的。それぞれが30分ずつぐらい時間をかけて情報提供を行い、「合う・合わない」の判断をする。そうすることによって、自社にとっての「いい人」を見つけやすくなります。また、採用のミスマッチや離職を防ぐことにもつながります。ぜひ参考にしてみてください。

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