グリサポくわなの参加者によるおくるみ作りを見学する医療関係者ら=いずれも三重県桑名市の善西寺で

 日本では年間約1万6千人の赤ちゃんが死産で亡くなっている。悲しみを抱える母親らの中には、医療機関で十分なケアが受けられず傷ついたり、孤立したりする人も。よりよい支援について、医療者と当事者らが連携して探る動きが始まっている。(熊崎未奈)  3月上旬、三重県桑名市の善西寺の本堂に産婦人科医や助産師、看護師ら40人ほどが集まった。死産や流産による喪失体験に寄り添う「グリーフケア」について考える研修会だ。  「流産や死産では、赤ちゃんとの出会いと別れが同時に起こる。その時間を医療者が支えることはとても大事」。自助グループ「グリサポくわな」代表で、善西寺住職の矢田俊量さん(60)が力を込めた。33年前、出産予定日に娘を亡くした。分娩(ぶんべん)後に医師から渡されたのは性別と時間が走り書きされた紙1枚。詳しい説明や声かけもなく、受け止めるのに時間がかかった。  死産や流産の後、病院での経験で傷つく人は少なくない。「統計的にはよくある」などの言葉につらくなったり、他の妊婦や赤ちゃんを見て悲しみを深めたりすることも。一方、写真や手形などの思い出づくりや、家族同室で過ごすといったケアが、その後の心の支えになっている人もいる。矢田さんは「亡くした後に最初に出会う医療者の影響は大きい」と呼びかける。  病院でのケアの重要性が増す中、桑名市総合医療センター産婦人科部長の前田佳紀さん(39)は「現場もどうサポートしたらいいのか常に考えているが、限られた時間の中では難しさがある」と葛藤を明かす。  外来や救急搬送で胎児の異常が分かり、分娩まで数日というケースが多い。突然子どもの死に直面した母親に対し、「何と声をかけたらいいのか」と戸惑う医療者は多いという。さらに退院後は1カ月検診で母体に異常がなければ、患者との関わりは終わる。前田さんは「病院だけでは難しい。退院後に地域全体で支える取り組みが必要」と話す。

グリーフケアについて話し合う矢田俊量さん(右)や医療関係者ら

 こうした中、グリサポくわなでは昨年、メンバーが手作りした小さなベビー服を病院に無償提供する「おくるみプロジェクト」を始めた。週数の浅い小さな赤ちゃんのために14~40センチの6サイズあり、これまで三重、愛知県の7施設に計120着を届けた。わが子をおくるみで包み、ひつぎに入れる親もいるという。  家族へのおくるみの提供は、退院後の相談先を知らせる機会にもなり、医療者も「病室に入るきっかけになった」と歓迎。矢田さんは「おくるみを通じて連携を深めたい」と意気込む。  死産や流産後の支援については、厚生労働省が2022年に手引を公表。当事者への配慮や情報提供の方法をまとめたが、施設ごとに差が大きいのが現状だという。  当事者や医療者でつくる「周産期グリーフケアはちどりプロジェクト」(大阪府)が21年、全国の当事者721人に尋ねたアンケートによると「医療機関から退院後のサポートに関する情報提供がなかった」との回答が62・8%に上った。  同プロジェクト共同代表で甲南女子大看護リハビリテーション学部講師の遠藤佑子さん(45)は、そもそも医療者がケアの方法を学ぶ機会がほとんどないと指摘する。同プロジェクトでは当事者の交流会に医療者も参加してもらうなど、お互いの理解促進に力を入れる。「当事者と医療者がそれぞれの立場を尊重し、連携を深めていくことが重要」と話す。


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