きれいに取り出した大豆を手にする子どもたち=いずれも静岡県伊豆の国市で

 作物の一生に関わりながら農を体験する小学校の授業がある。自分たちが食べているものって何だろうと、子どもたちの理解が深まっていく。  校庭のブルーシートの上に、からからに乾いた大豆が枝ごと山のように積まれていた。静岡県伊豆の国市の長岡北小学校の畑で、5年生が栽培してきた在来種「伊豆大豆」だ。  昨年6月に種をまき、10月に枝豆を一部収穫。年末に根から抜き取って保管し、乾かした。2月中旬のこの日は、脱穀して大豆になった残りの豆を取り出す。みそや豆腐に加工し、調理して食べるまで1年以上かけてすべて体験。身近な食べものが、どこからどのように来たのかを学ぶ。  「この豆はどうやって育てたのでしたっけ?」と講師のNPO法人あしぶね舎理事、石尾友紀さん(43)が質問すると、「有機栽培!」と18人の子どもたちが一斉に答えた。脱穀には、昭和初期まで現役だったという足踏み脱穀機と手動の木製選別機「とうみ」を使い、ひと昔前の農作業の苦労も経験した。

木製の選別機「とうみ」で大豆をえり分ける。ひと昔前の農作業の苦労も経験

 「とうみは、何回も(ハンドルを)回すのが大変だった。みそを造るのが楽しみ」と青木里緒さんはうれしそう。  昨年、枝豆が1株から100個以上も取れて、ゆでて食べたという久保田光稀(みつき)さんは「化学肥料を使わなくても、おいしいものはできる」。大豆の成長を見守ってきた昆野愛梨(あいり)さんは「昼休みにタブレットで日記も付けた」といい、新村瑚々さんは「(種まきから脱穀までやって)すべて自分で作った感じがする」と話した。  大豆の収穫に満足げな子どもたちに、「今日取った豆が来年まく種になります」と、伊豆大豆に詳しい講師の松田由己さん(49)。種は次の5年生が受け継ぎ、畑にまく予定だ。  この授業は、有機栽培を広げようと静岡県でオーガニックフェスなどを主催する、あしぶね舎の提案で一昨年に始まった。市内の3校が実践している。当時の鈴木勝也校長(60)は「なかなか学校だけではできない」と話す。  大豆を選んだのは、身近でありながら、自給率が7%と低いから。そんな背景や、土の仕組みを有機農業の研究者、水野昌司さん(65)から座学で学ぶ授業もあった。授業のタイトルは「タネから始まる持続可能な地域づくり」だ。  「ここで学んだことが種になって、土に触れることに前向きな子どもが増えたり、農家さんになったり、いつか地域で花開けばいい」と、あしぶね舎の石尾さんは期待を込める。  *   東京都日野市では20年以上、小学生がゴマや陸稲(おかぼ)、黒米などを育てている。  子どもたちに教えている市内の農家、小林和男さん(68)は「田植えと稲刈りの『いいとこ取り』だけでは米は食べられない。種の選別も代かきもどろんこ遊びも、1年間農家になったつもりで身をもって感じてもらいます」と、口調に熱が帯びる。  学校給食の食材に地元産の野菜が使われて40年以上になる。農家と栄養士や調理員らの率直なコミュニケーションが、継続の大きな理由という。小学生の農業体験を始めたのは、栄養士から「黒米が入手しにくくなった」と悩みを聞いたのがきっかけだった。  小林さんは言う。「子どもたちは給食で新鮮な野菜を食べているから本物の味を知っている。作る大変さが分かっていれば食べ物を粗末にしない」  子どもを中心に、地域の食の輪が広がっている。  =この連載は鈴木久美子が担当しました。


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