家族のために、嚥下(えんげ)食を取り入れたいと思っています。おいしく食べてもらえるでしょうか。  とろみ剤加え まとまりを   嚥下食は、そしゃくやのみ込み機能のレベルに応じて、形態やとろみなどを調整した食事をいいます。  金谷栄養研究所(浜松市)所長で管理栄養士の金谷節子さんは「さまざまな工夫をした嚥下食が開発されている。口にすることで、生きている喜びを実感できることが大切」といいます。

豚の角煮の嚥下食(嚥下食ドットコム提供)

 金谷さんによると、嚥下食づくりの最も重要なポイントは、つなぎやとろみを加え、まとまりをつけること。ゼラチンなどのゲル化剤や増粘剤(とろみ調整食品)を使います。食材はミキサーでペースト状などにします。細かく刻んだ「きざみ食」はのみ込むのが難しく、誤嚥(ごえん)を引き起こす恐れがあるそうです。  金谷さんが監修した「嚥下食ドットコム」のサイトはさまざまなレシピを紹介しています。これによると、例えば、豚の角煮は、豚肉と和風だし、煮汁、ゲル化剤などを粒がなくなるまでミキサーで攪拌(かくはん)し、加熱するなどして作ります。金谷さんによると、寿司やウナギのかば焼き、ステーキ、刺し身などの嚥下食も人気だそうです。  嚥下食メニューの味や食感、美しさ、調理技術、栄養面などを競うコンテストも開かれています。金谷さんは「全ての面でレベルアップし、とってもおいしくなっている」といいます。  嚥下食を簡単に取り入れられるレトルトや冷凍の商品も開発されています。

七日屋が製造、販売する嚥下食。右下から時計回りに「海老のチリソース」「ハンバーグ」「にんじんのグラッセ」「ブロッコリーのすり流し汁」「白いんげん豆のマリネ」

 こうした商品を製造、販売する「嚥下食工房七日屋」(北九州市)は、もともと障害のある子どもの施設の給食部門からスタートしました。共同最高経営責任者(CEO)の柾谷(まさや)知輝さん(55)は、昨年10月に90歳で亡くなった母親が、気に入らない食事は「まずい」と言って食べてくれなかったそうです。そうした経験もあり、「家族で一緒においしく楽しめることが大切」といいます。  「七日屋」の商品の場合、ムース状の肉や魚などが袋詰めで冷凍されており、解凍は氷水につけたまま冷蔵庫で8時間ほど置くことを勧めます。変色やくさみを引き起こす酵素反応が起きにくくなり、肉や魚のうまみを保てるそうです。  「食欲がわくよう見た目に気を配るのも大事」と柾谷さん。ハンバーグは皿に移し替えた後、俵形に成形し、ニンジンのグラッセなど付け合わせの嚥下食を添えます。海老(えび)のチリソースはあえて形を崩して元の料理のイメージに近づけます。  スープやおかゆなども盛り付けや彩り、食器などを工夫するといいでしょう。親が集めていたとっておきの器を使うのも手です。  柾谷さんは「嚥下食は高齢、障害だけでなく口腔(こうくう)関係の術後の人にもおすすめ。心待ちにできる食事を演出してください」と呼びかけます。 (砂本紅年、土門哲雄)

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