土に触れる農的な活動が、都市部などでも生まれている。食料自給率は低いままで、農家も農地も減少の一途をたどる日本で、こうした新たな農とのつながりは食や暮らしをどう変えるだろう。3回で報告する。(鈴木久美子)

◆有機農家の仲間に

有機農業をする山崎利江さん(右)と木曽大原さん。お互いに農作業などを手伝うこともある=さいたま市桜区で

 レモングラスやエビスグサ…。さいたま市桜区の荒川の堤外地にある畑約15アールには、ハーブが丁寧に区分けされて育っていた。昨春、就農したばかりの同市、山崎利江さん(45)が、お茶や料理、アロマ用にと100種以上を有機栽培している。  「農業をやるなんて思ってもいなかった」と明るく話す山崎さん。元々はメディカルハーブセラピストとして東京都内などで講師の仕事をしていた。2人の子育てが一段落したころ、海外産の多いハーブを試しに自分で育てて教室で使ってみたら、生徒から次々に売ってほしいと求められた。  そこで、市内の有機農家、木曽大原(たいげん)さん(28)の紹介で、畑を借りて本格的な生産に踏み出した。有機栽培の新規就農者のネットワーク「さいたま有機都市計画」に加わり相談できる仲間もできた。  3年前に木曽さんら5人でつくったネットワークは、20~40代を中心に男女ほぼ半々で計20人近くまで広がった。「生産者や消費者のつながりが増え、地域社会が豊かになるといい」と木曽さん。自身は大学時代から各地の有機農家を訪ね、「農法だけでなく、環境に負荷をかけない暮らしや考え方が大事」との思いがある。  山崎さんも農作業のほか、郷土史家を招いた畑周辺の散歩会や落ち葉集めと腐葉土作りの会を開き、近所の子どもたちも参加した。  「地域ぐるみでやれることが多いんです。人や生き物とのつながりが感じられて楽しい」

◆こども食堂に野菜

 千葉県成田市では、こども食堂が自前の農園で育てた有機野菜を提供している。地域生協「なのはな生協」が開く、こども食堂「からべえ」。正午前、小学生や家族連れ、高齢夫婦らが次々にやって来た。  この日のメニューは、豚丼、サバの文化干し、ツナサラダ、ウインナー、おひたし、みそ汁、牛乳、バナナ。子どもは無料、大人300円で、「おなかいっぱい食べて帰ってもらいます」と調理スタッフは話す。  月2回開催して7年目。すっかり地元に浸透した。なんと、食材のうち米6升、豚肉6キロ、サバ120匹、牛乳は生産者や小売店などからの差し入れだ。そして、おひたしのホウレンソウは、「からべえ農園」(同県富里市)の取れたて野菜。なのはな生協が3年前、食堂に来る子どもたちに収穫体験の場を、と始めた畑で、農薬や化学肥料は使わない。  「最初は種が大雨に流されたりしたね。でも、自分で種をまいて耕して芽が出てくるってのは楽しい」と生協顧問の加瀬伸二さん(74)は農園でカブの小さな双葉をいとおしそうに見つめる。春と秋の収穫体験に子どもたちは大喜び。野菜は一気にたくさん取れるから、こども食堂でおみやげに持ち帰ってもらう。  「周りの協力なしには、できないね」と加瀬さん。土に支えられ、人が分かち合う食がある。食堂で「おかわりー」と声が響いた。 <「日本の食と農の未来」の著者で千葉商科大学准教授の小口広太さんの話> 地産地消という言葉が広がったのは1990年代以降だが、地域の人間的なつながりはまだ脆弱(ぜいじゃく)。近年はコロナ禍を経て地域に目が向き、ウクライナ危機で食料安全保障が議論されているが、日本人は熱しやすく冷めやすい。常日頃から身近に畑や食べ物があることの豊かさを見直す時ではないか。   


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