15歳で地元を離れ、縁もゆかりもない地方の公立高に「留学」。中学卒業後にそんな進路を選ぶ生徒が増加している。過疎地を中心に受け入れ先の高校も増えており、進路の新たな選択肢の一つとして注目を集めている。
迫る高校再編 「留学生」に望み
豊かな自然に恵まれ、登山やスキー、ラフティングなどのアウトドアスポーツの本場として観光客が絶えない長野県白馬村。抜群の知名度を誇る一方で、「過疎」という地方共通の課題を抱えてきた。
県立白馬高校では近年生徒数の減少が止まらず、2013年から2年連続で高校再編の対象校となった。地元は高校存続の危機を「地域存亡の危機」として捉えた。生徒数増を図ろうと、同校は16年度に国際観光科を新設。全国に門戸を開いた。
山岳学習やアウトドアスポーツのフィールドワーク、外国人観光客向けの英語によるガイドツアーのほか、スキー教室など。都市部の高校では味わえない豊富な課外活動が人気を集め、今年度は新入生55人のうち、半数近い25人を県外出身者が占めた。
4年で3・5倍 保護者の考え多様化
一般財団法人「地域・教育魅力化プラットフォーム」(松江市)は、全国から生徒を募る公立高と、他地域の高校への進学を希望する生徒のマッチングの場を提供するためのプロジェクト「地域みらい留学」を18年からスタート。合同学校説明会の開催や登録校の情報提供をしている。
20年度には全国で63校だった登録校は、24年度には139校と2倍以上に増加。これらの学校に他の都道府県から入学した「留学生」は23年度は744人で、4年間で3・5倍にも増えた。
同法人によると、白馬高校のような成功事例を見て全国募集を開始する学校があるといい、教育や子育てに対する保護者の考え方の多様化も増加の背景にあるという。
生徒獲得に工夫
高校の立地自治体は生徒を集めようと、特色あるカリキュラムや制度作りを工夫する。親元を離れて遠方から入学する生徒は、学費だけでなく生活費もかさむため、寮費や下宿代を補助したり、公営学習塾を運営したりする自治体もある。
23年度から全国募集を始めた北海道鹿追高は、英語教育に力を入れる。立地する鹿追町と姉妹都市提携を結んでいるカナダの町に、2年生が毎年2週間の短期留学に行くが、鹿追町が費用を一部負担することで生徒の自己負担は1人2万円で済むという。こうした取り組みが知られるようになり、今年度の入学者75人のうち16人が道外など地元以外からの生徒だという。
一方、伝統工芸の「砥部焼」で有名な愛媛県砥部町にある県立松山南高校砥部分校は、公立高では珍しい「ゲームクリエーションコース」を来年度に新設する。
県教委によると、ゲームプログラミングや三次元(3D)のコンピューターグラフィックス(CG)など、ゲーム制作の基礎が学べ、IT企業が校内に拠点を設け指導に当たる。
同校も統廃合の対象となってきたが、地元住民や卒業生らが中心になって署名活動や新コース設置を考案し、存続を訴えてきた。白馬高校のように、「留学生」を招き入れることでにぎわいを取り戻したい考えだ。
新たな環境を求めて離島へ
住み慣れた場所や若くして家族の元を離れるのは大きな決断を要する。どんな思いで「留学」を決意するのだろうか。
現在は鹿児島県喜界町で地域おこし協力隊として働く市川萌笑さん(20)は相模原市出身。公立中を卒業後、日本海の離島にある島根県立隠岐島前高校(海士町)に進学した。
「高校に入ってもほとんど同じ顔ぶれ。同じ雰囲気が続くのか……」
通っていた中学校では、明るい性格、スポーツ万能、目立つキャラの人にしか発言力がないように感じ、居心地の悪さを感じた。そんな時に学校に置いてあった「地域みらい留学」のチラシが目に留まり、進路が開けた。
入学後は地域住民の協力を得て飲食イベントを企画し、勉強や部活だけでなく課外活動にも積極的に取り組んだ。何かアイデアを出せば、地域の人々が「肯定的」に受け止めてくれたのが励みになった。
一方、学校、部活、寮、課外活動と常に忙しくて体力的な限界を感じることもしばしば。「体調も自己管理をしなければならないので、適度に休んで無理をしないで」と、「留学生」なりの苦労も語った。
地域・教育魅力化プラットフォームは6~8月末、東京都、大阪市、札幌市の各都市で合同学校説明会「地域みらい留学 高校進学フェス」を開催する。【宮川佐知子】
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