写真:Photofest/AFLO

かつて大絶賛されたのに、時代の流れの中で評価が変わることがある。アカデミー賞に輝いた『風と共に去りぬ』(1939)は、奴隷が合法だった時代を懐かしむかのように描写していると批判されて一時アメリカで配信ラインナップから削除された。1994年から10年間、アメリカで抜群の視聴率を誇った『フレンズ』も、後になって「ニューヨークなのに白人だらけ」と批判された。

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「白すぎる」という批判は、1998年から6年間放映された『SEX AND THE CITY』に関しても、後々言われてきたこと。だが、今、このドラマに関しては、それ以外の問題点も数々指摘され始めている。なぜ、急に批判が集まることになったのか。それは、今月からNetflixでも配信が始まったからだ。

HBOが製作したこのドラマは、これまで、同じワーナー・ブラザース・ディスカバリー傘下のMaxが独占配信していた。しかし、利益を出すのに必死の配信各社は、最近、お宝のコンテンツであってもじっと抱えているのでなく、他社に提供してライセンス契約代を稼ぐのが得策と考えるようになってきた。

メーガン・マークルが出演した『SUITS/スーツ』も、昨年、NBCユニバーサル傘下のPeacockが、会員数の多いNetflixにも提供したおかげで、突然ブームになっている。ワーナーも『SEX AND THE CITY』に関して同じ決断をしたのだが、その結果、今の時代の感覚には合わない部分も注目されてしまったのである。

トランプは華やかなニューヨークの象徴だった?

たとえば、第1シーズンの第1話で、サマンサ(キム・キャトラル)は、後に主人公キャリー(サラ・ジェシカ・パーカー)の運命の人となるミスター・ビッグ(クリス・ノース)について、「彼は次のドナルド・トランプよ。もっと若くてもっとイケメンだけどね」と言う。

さらに、第2シーズンにはバーのシーンでトランプ本人がカメオ出演。このシーンで、パーカーは、「サマンサ、コスモポリタン、ドナルド・トランプ。これ以上にニューヨークな状況はないでしょう」とナレーションで語る。トランプが大統領選に出馬してアメリカを分断するなど想像もしなかった時代だったから起きたことなのだが、あるX(旧ツイッター)ユーザーは、「『SEX AND THE CITY』を見ていたら、いきなりトランプが出てきた。言われていた通り、僕らの世代にこのドラマは向いていない」と投稿している。

Netflixで初めてこのドラマを見たこれらの若い人たちがこの後も見続けたなら、第3シーズンのある回にも、大きく反応すると思われる。その回で、深夜に近所にやってくるトランスジェンダーの売春婦に悩まされるサマンサは、彼女らのことを「半分男、半分女」と表現。「ペニスのある女。胸はあるけど下には睾丸がある」とまで言う。

このシーズンの別の回には、付き合い始めた男性がバイセクシャルだと知ったキャリーが、パニックするくだりもある。自分は古風だから受け入れられないと、キャリーは友人たちに告白。「バイセクシャルなんて本当に存在するのかしら? ゲイになるまでの途中通過点なんじゃないの?」とも、彼女は言う。

その話を聞いたミランダ(シンシア・ニクソン)は、「両方に手を出すのは欲張り」だとバイセクシャルの人たちを一蹴。シャーロット(クリスティン・デイヴィス)も、「はっきりラベルを貼るべきよ。ゲイなのかストレートなのか決めて、そこにとどまるべき」と主張する。性的流動性がよく聞かれる現代にしてみれば、古い会話だ。

このドラマのクリエイター、ダーレン・スターも、脚本家、製作総指揮、監督を長年務めたマイケル・パトリック・キングもゲイ。キャリーの親友としてゲイのキャラクターは初回から登場するし、ある段階でサマンサはレズビアンと交際する。当時のほかの作品に比べれば、このドラマの製作者たちはLGBTQをずっと受け入れていた。そんな彼らでも、バイセクシャル、トランスジェンダーについての配慮は、当時十分でなかったということだ。

お酒を良く描いていたが…

お酒の描かれ方に対する批判も、そのうちぶり返してくるかもしれない。このドラマでキャリーたちがいつも飲んでいるコスモポリタンは、当時、女性の間で大人気カクテルになった。ほかの登場人物たちも、ディナーやバー、パーティ-ーのシーンで必ず何か酒を飲んでいる。

しかし、依存症への理解が高まってきた近年では、お酒を素敵なもの、セクシーなもののように出してくることに、一部から警告の声が上がっているのである。

(写真:Moviestore Collection/AFLO)

それらの問題点については、今さら言われるまでもなく、製作者たちは認識済みだ。だから、2021年に配信開始し続編『AND JUST LIKE THAT…/セックス・アンド・ザ・シティ新章』では、ミランダが自分の依存症に気づき、酒をすっぱりやめるという展開が用意されている。

ミランダの新たな恋人には実生活でもノンバイナリーであるコメディアンをキャストし、「白すぎる」問題を是正すべく、黒人のキャラクターも複数出してきた。それはそれで、「意図が見え見え」とか、「出してくるやり方が不自然」などと長年のファンから批判されたのだが、2021年のハリウッドにおいては、それをやらないという選択肢はない。やっても、やらなくても批判されるのは辛いが、それが今の世の中なのだ。

だが、修正のすべがなく、長年のファンの心におそらくもっと引っかかるのは、出演者たちのリアルライフがわかってしまっていることだろう。ドラマの中で4人は大親友を演じたが、カメラの裏でパーカーとキャトラルの仲が悪かったのは、今や世界中が知るところだ。

4人がアトランティック・シティに行く回のロケで、プロデューサーでもあるパーカーは、ニクソンとデイヴィスを自分と同じところに宿泊させたが、キャトラルについては放置し、彼女は自分でホテルを予約しなければならなかったという裏話も伝えられている。それを知りつつ、アトランティック・シティを楽しんでいるドラマの4人を見るのは、なんとも複雑だ。

『AND JUST LIKE THAT…』のワンシーン©Craig Blankenhorn/Max

出演者の性的行為の強要疑惑が浮上

そして、クリス・ノース。『AND JUST LIKE THAT…』がちょうど放映になった頃に、彼が過去に女性に性的行為を強要したと暴露されたのだ(本人は被害者女性の主張を否定)。ミスター・ビッグはこの続編の初回で死ぬので、その後のストーリーへの影響はなかったものの、『SEX AND THE CITY』にはもちろん彼がたっぷり出てくる。

とは言っても、このドラマが生まれて、もはや四半世紀だ。長い人生の中では、職場の同僚に暗い秘密があったとか、お互いとの関係がうまくいかなかったとかいったことは、誰にでもある。ドラマの中に出てくる昔の価値観や理解の欠如も、当時の自分たちを振り返れば納得だろう。実際、当時は誰も問題視しなかったのだ。

このドラマに思い入れのない若い世代には、たしかに「向いていない」のかもしれない。だが、リアルタイムで見てきた世代にとって、当時すべての意味で画期的だった大傑作であることに変わりはない。長年の大ファンのひとりである筆者は、昔ならではの問題点には「ああ、あの頃だからしかたないな」と苦笑しながら、これから製作される『AND JUST LIKE THAT…』第3シーズンが正しいことをやり、より楽しいものになるよう、応援している。

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