20日は国連が定めた国際幸福デー。日本人は幸福なのかを探るため、南山大総合政策学部教授の鶴見哲也さん(43)らの研究グループは2014年から3年間、国内最大規模の30万人を対象にしたアンケートを実施し、その後も追跡調査を続ける。女性を就業状態別で比べたところ、働く女性の主観的な幸福度は専業主婦より低かった。背景には、男女間の家事分担の不均衡があるとみられる。(大森雅弥)

南山大総合政策学部教授の鶴見哲也さん

 研究グループのアンケートは千項目以上で、経済的な豊かさや人とのつながり、住みやすさ、働き方などの要素と幸福度を尋ねた。このうち、自分の現在の状況について「とても幸せ」を5点、「とても不幸」を1点として幸福度を尋ねた質問の回答者平均では、女性は3.67で、男性の3.53を上回った。  鶴見さんによると、女性の方が高いのは、人とのつながりなど非物質的なものを重視する考えの人が多く、所得など物質的なものを重んじる傾向の男性より幸福を感じやすいなどの理由があるという。

◆就業状態別で分析

 一方、女性の幸福度を就業状態別で見ると、専業主婦が一番高かった=グラフ(上)。逆に低かったのは無職、派遣社員、契約社員。生活の安定感が関係しているようだ。  ただ、正社員も専業主婦に及んでいない。女性の社会進出が進む中、この結果をどう見るか。研究グループが海外約40カ国の約10万人に同様のアンケートをした結果では、25カ国は統計的に有意な差はなく、主婦の方が幸せとはいえない。主婦の方が高かったのは日本、シンガポール、カナダなど8カ国。正社員が高かったのはエジプト、オランダなど4カ国だった。  日本における女性正社員の幸福度の低さは、働く時間と関係があるようだ。研究グループが、1日の労働時間の長さと生活満足度の関係を分析したところ、男性正社員が10時間働いてもプラスの満足を得ているのに対し、女性正社員では6時間より長くなればなるほど満足度が減ってしまう=同(下)。

◆「家事負担に偏り」

 鶴見さんは「共働きの場合、家事の負担が女性に偏っているため」と推測している。新型コロナ流行後の21年に実施した追跡調査で、テレワークと幸福度の関係を分析したところ、男性がプラス、女性がマイナスと受け止め方が正反対になったという。「在宅ワークの際、仕事と家事・育児の両立を要求されたのは女性だったのではないか」  日本と全く違うのは、幸福度世界一で知られるフィンランド。正社員は男女共に労働時間8時間までは働く時間が長いほど満足度が高まる。加えて、仕事を終えた後の活動も活発で課外活動の時間は日本の5倍。とりわけ自然に親しんでいる。  フィンランドの状況に詳しい鶴見さんは「ワークライフバランスが取れており、家事も夫婦共同。余暇を思い切り楽しむことが仕事の活力や労働生産性の向上につながる好循環ができている」と指摘。今回の研究結果が示す日本の現状を踏まえ「働き方改革も進む中、仕事も余暇も全力で楽しめるような仕組み・環境づくりを、官民が一体となって考えていくことが重要ではないか」と提案した。  ◇   研究グループの調査結果は『幸福の測定 ウェルビーイングを理解する』(中央経済社)に詳しい。


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