エシャレットを収穫する金原洋一さん=浜松市で

 遠州灘に面した浜松市南東部の五島地区。中田島砂丘にほど近い砂地の畝に、緑の葉を付けた収穫期のエシャレットが並ぶ。トラクターで掘り起こし、人の手で丁寧に抜く。土の中に埋まっていた「軟白(なんぱく)」という柔らかで真っ白な部分に高圧の水をかけて土を落とすと、真珠にも例えられる白さが浮き彫りになった。  農家の女性はこれを「きれいな肌」と表現するのだそうだ。長い葉を日本髪の「島田髷(まげ)」のように束ねて出荷する伝統の形には、「島田結(ゆい)」の名がある。  エシャレットは軟白を伸ばして若採りしたラッキョウ。水はけのよい砂地や、日照時間が長く温暖な気候が生産を支える。「元気なうちは作っていきたいね」と、会社勤めを卒業し15年ほど前に畑を継いだ金原(きんぱら)洋一さん(70)。妻京子さん(66)の父初男さん(94)が始めたのは約70年前で、浜松のエシャレット栽培の草分けだ。洋一さんは「自分とエシャレットは同い年」と笑った。  JAとぴあ浜松によると、五島地区で約70年前、市場の人がキュウリやトマトの農家と食事をした際、酒のつまみに栽培していた根ラッキョウにみそを付けて食べた。そのうまさに魅せられ、沖縄などの産地から種球を取り寄せて栽培方法などを研究。1955年から特産品として本格的に販売を始めた。  フランスやイタリア料理に使う香味野菜でソースの材料にもなるエシャロットと形が似ていることから、エシャレットと命名。生産量では茨城県に及ばないが、浜松が発祥の地を名乗る。エシャレットとエシャロットは、農業関係者でも混同することがあるとか。  植え付け期は猛暑の7~8月。畝を作るのは機械だが、穴を開けて種球を植えるのは人力だ。熱中症対策で塩とペットボトルの飲料が欠かせない。葉が15センチくらいになると、軟白を10~15センチ程度に長くするために土寄せして畝を高くする。収穫期は11月~翌年5月と長い。  生産農家の減少を補おうと、農家とJAが4年前から「エシャレット養成塾」を始めた。伝統野菜を次世代に伝える熱意がこもる。  文・写真 五十住和樹

◆味わう

 地元では居酒屋でエシャレットを頼むと、みそマヨネーズ付き=写真、JAとぴあ浜松提供=が定番とか。シャキシャキした食感がたまらない。その他にも天ぷらや生ハム巻き、塩昆布あえ、豚肉と合わせてしょうが焼きにするなど、多彩な方法で楽しめる。  保冷庫で保管して通年で市場に出回っている。JAはインターネット販売もしている。


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