生物多様性を守るため、一種たりとも取り残さない――。現代は「第6の大量絶滅時代」とも呼ばれ、地球上にいる約3000万種(推定)の生物のうち、毎年4万種程度が絶滅しているとされる。絶滅の危機に直面する生物を保護し、増加に転じさせようという挑戦が続いている。
6月5日は国連が定めた「世界環境デー」。環境への関心・理解を深めてもらい、環境保全のための行動を促すことを目指すこの日に、希少な生物を守る意義を改めて考えたい。【山口智】
10種で危険度改善
生物が絶滅に追いやられる背景には開発や外来種の持ち込み、地球温暖化による生息環境の悪化など人間の活動が深く関わっている。一方で、人間の手で絶滅を回避できる可能性もある。
日本では種の保存法に基づき、国内で絶滅の恐れがある動植物を「国内希少野生動植物種」(希少種)に指定し、捕獲などを規制している。今年2月時点で448種が指定されている。
希少種の中でも、特に繁殖を進めたり生息地を整備したりしなければならない種については、政府が計画を作って個体数を増やすための事業を実施している。これまでに計画を作ったのは、イリオモテヤマネコをはじめとする固有種など76種に上る。
対策は交通事故対策や外来種の駆除、繁殖場所の整備など多岐にわたる。トキやタンチョウなど個体数が回復している種もあり、事業開始後、10種が環境省のレッドリストで絶滅の危険度が改善したという。
オオワシ(北海道など)
翼を広げると2メートルを超える国内最大級の猛禽(もうきん)類。体は黒褐色で羽の一部が白く、鮮やかな黄色のくちばしと目を持つのが特徴。ロシア極東で繁殖し、北海道東部を中心に国内各地で越冬する。
水辺で魚などのエサを捕り、周辺の森林をねぐらとする。森林減少のほか、鉛製の銃弾で撃たれたシカの死体を食べることによる鉛中毒や交通事故、感電事故で生息数が減っている。
ライチョウ(本州中部)
氷河期にユーラシア大陸から日本列島に移りすみ、高山帯に定着した「氷河期の生き残り」。冬は雪と同じ白い冬羽、夏には高山植物の間で目立たない白、黒、茶のまだら模様の夏羽に生え変わり、天敵から身を守る。
温暖化の影響で以前は高地にいなかったテンやキツネなどの捕食者が現れるようになるなど、生息環境が脅かされている。動物園で繁殖させ、野生復帰させようという試みが続いている。
アベサンショウウオ(京都、兵庫、福井、石川)
体長10センチ程度。日本の固有種で、京都など日本海側の4府県の狭い範囲で生息が確認されている。沢筋の湿地や休耕田の脇の水路などにすみ、クモやミミズなどを食べる。
生息地が人の生活する場所と重なっているため、開発による環境悪化で生息地が減少している。アメリカザリガニやアライグマといった外来種に食べられたり、ペット目的で不法採集されたりすることの影響も懸念されている。
アマミノクロウサギ(鹿児島・奄美大島、徳之島)
奄美群島の固有種で、全身が黒褐色の縮れた粗い毛で覆われている。生息数は1万~4万匹程度(推定)。体長40~50センチで、他のウサギと比べて目と耳が小さく、手足と鼻面は短い。
夜行性で動きはのろく、ねぐらや子育てのために土に穴を掘る。開発による森林減少で生息に適した場所が失われたほか、交通事故死が頻発している。一方、捕食者(マングースなど)の捕獲などの効果で、生息数は増加傾向にある。
イリオモテヤマネコ(沖縄・西表島)
西表島の山麓(さんろく)から海岸にかけての低地部にすむ。生息数は100匹程度。体長50~60センチで、全身に斑点模様、額には縦じま模様があるのが特徴で、1967年に新種と確認された。
主に夜行性で、特に日暮れ時や明け方に活発に動く。島にネズミなどの小型哺乳類が少ないため、爬虫(はちゅう)類やカエル、昆虫などさまざまな動物を食べる。交通事故やネコ由来の感染症などによって生存が脅かされている。
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