親が亡くなり、「実家じまい」に悩む人は少なくない。空き家は放置すると倒壊などの危険がある。そのため、国は手入れが不十分な場合に課税を強化する一方、相続した空き家の売却益は3千万円まで課税しない制度で処分を促している。1月に始まった新たな税制のポイントを専門家に聞いた。 (市川千晴)
「相続した実家が遠方にあり、維持費や固定資産税などがかさむ」。NPO法人、空家・空地管理センター(埼玉)には、こうした相談が寄せられる。空き家は増え続け、総務省の2018年の調査で全国に約850万戸、空き家率は13・6%に上る=グラフ。
そんな中、今回の税制改正を「アメとムチ」と税理士の石橋もと子さん=写真=は説明する。 「ムチ」と表現するのは、課税の強化。空き家を相続すると、毎年、固定資産税が課されるが、住宅が建っていれば6分の1まで減額される。このため、節税の目的で空き家を残す人も少なくないという。 こうした状況を受け、昨年12月に施行された改正空き家対策特別措置法では、窓や屋根が壊れた建物などを市区町村が「管理不全空き家」に認定し、それが改善されなければ税の軽減が受けられなくなった。事実上の増税というムチで、空き家を減らす狙いがある。
これに対し、「アメ」となるのが、譲渡所得の特別控除(空き家特例)だ。相続した空き家を売却して得た利益のうち、最大3千万円まで所得税と住民税(計20・315%)が課されない仕組み。昨年末までの特例だったが、27年末まで4年間延長し、対象も拡充した。石橋さんは「最大600万円の減税効果があるため毎年、制度利用者が増えている」と話す。 同センターの副代表理事、伊藤雅一さん=写真=も「住宅の売却価格が比較的高い東京や首都圏、地方の大都市などで特に恩恵があるだろう」と期待を込める。
ただ、利用時の条件には注意したい=表。1981年5月31日以前に建築された一戸建て住宅が対象で、亡くなった人が直前まで1人暮らしで、相続から売却まで空き家だったことが必要になる。さらに土地と建物の両方を相続し、相続から3年目の年末までに1億円以下で売却した場合などに限られる。 これまでは売り主が耐震化工事や解体をする必要があり、空き家解消のネックになっていたが、買い主が売却の翌年2月15日までに行った場合も対象になった。石橋さんは「空き家特例は利用価値が大きい。早めに相談を」と呼びかける。
◆若い世代への資産移転促す 変更、贈与やタワマンでも
1月から、贈与や住まいに関する税制が見直され、子育てなどにお金が必要な若い世代への資産移転も促している=表。
贈与税は、毎年課税される「暦年課税」と、相続時にまとめて計算する「相続時精算課税」の二つがあり、どちらかを選択する。 暦年課税は、年110万円まで贈与税が発生しない基礎控除がある。この制度を利用して毎年、財産を移す生前贈与が主流だった。暦年贈与をする場合、これまでは相続開始(死亡)前3年間に贈与された分は相続財産に加算され、相続税の対象となるが、この期間が7年間まで広がった。 一方、相続時精算課税では2500万円までの生前贈与の贈与税が非課税になる。今回新たに年110万円までの基礎控除が認められることになり、その分は相続税の対象外。税理士の石橋もと子さんは「制度が大幅に改善され、今後は相続時精算課税が大幅に増えるだろう」と話す。 このほか、タワーマンションは1戸当たりの土地の持ち分が小さく、相続税の算定根拠となる評価額が実際の価格より大幅に低かったため、市場価格の6割程度に引き上げられた。 子や孫に一括贈与すると非課税になる特例は、学費などの教育資金(1500万円まで)が26年3月末まで、結婚・子育て資金(1千万円まで)が25年3月末まで延長されている。
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