◆荷物あってもOK
真新しい白い壁紙にフローリング。新品のキッチンが輝く。新築さながらの部屋だが、実際は愛知県尾張旭市にある築35年の一軒家だ。両親から相続した空き家を持ち主が売却。一戸建て住宅のリフォームを手がける企業、カチタス(群馬県桐生市)が新たな持ち主に販売した。カチタスが買い取りリフォームした家のキッチンとダイニング=愛知県尾張旭市で
中古の一戸建ての買い取り再販を専門にする同社。近年、取扱件数は右肩上がりで、昨年は全国で5千戸超を販売した。取り扱いの8割が空き家で、相続や贈与で取得したものが半数近くを占める。同社の新井健資(かつとし)社長(55)は「仕入れ先にも販売相手にも『ありがとう』と言われる。確実にニーズがあり、社会的意義もある」と話す。 力を入れるのが、所有者の悩みに寄り添う対応という。「物置として必要」「荷物を片付ける時間がない」といった理由で空き家を放置する例は多いが、同社は荷物が残ったままでも買い取る。実際、依頼の時点で6割以上の物件が荷物を残した状態で、売却時に社側で処分するという。 平均販売価格は1610万円。新井社長は「地方で初めて家を買うファミリー層が、家賃と同じ金額でローンを組めるように」と話す。新築志向が強いと言われる日本だが、「新築ではなく、清潔志向が強い」とみる。水回りなど清潔感が求められる場所はできる限り手を入れる。「ホテルと同じ。きれいなら新築にこだわらない人は多い」 愛知県の女性(52)は一昨年、同県武豊町の家を購入した。築38年で、内見時には「ぼろぼろの状態」。ただ、仕事に使う部屋や子どもの家族が住める広さといった条件に合い「新築の半額くらいで、すごくお値打ちだった」。劣化の状態やリフォームの内容を細かく説明されたことにも背中を押されたという。「びっくりするくらい気に入っている」と喜ぶ。◆双方の思いつなぐ
売りたい人と買いたい人が直接やりとりする仕組みも人気を集める。不動産情報サイト「家いちば」は、通常は市場に出回らない物件の所有者が情報を掲載。運営会社の家いちば(東京)が確認した上で、購入希望者とネットなどで直接交渉する。契約に関する法的な手続きは社所属の宅地建物取引士が取りまとめる。 掲載物件は店舗やホテルなど多岐にわたり、価格帯もさまざま。2015年の開設以来、約900件の契約が成立し、現在は約千件の情報を掲載する。家いちばの藤木哲也代表(54)は「空き家は市場に出回らない物件が多いが、売ろうとすれば売れる。最終的には価格の問題」と指摘する。 千葉市の金谷隆司さん(70)は一昨年、千葉県旭市の実家を登録。1カ月ほどで閲覧数が2万件近くになった。「インターネットの力と潜在的な需要に驚いた」と振り返る。 親の他界後、しばらくは敷地内の畑で野菜を育てたり、家の手入れをしたりした。ただ、自分の子どもの意向や、体力的に農作業が難しくなってきたことなどから売却を決めた。だが、地元の不動産業者は「売れる可能性は低い」と回答。諦めかけたところで、このサイトを知った。 サイトには畑のほか、桜の木があることなどを丁寧に書き込んだ。敷地内には戦時中に海軍が使った防御設備「掩体壕(えんたいごう)」もあり、運営会社の担当者から「物件の目玉になる」との助言も受けた。井戸水を使っているため、トイレの水洗化には浄化槽の設置が必要になることなど、内覧会では欠点も丁寧に説明。母と2人で暮らすための緑豊かな家をネットで探していた出頭(しゅっとう)絵美子さんとつながった。 購入後のリフォーム期間中、出頭さんは慣れない畑仕事について、頻繁に金谷さんに相談。近くで暮らす金谷さんの親族から資材を譲り受けるなど、ご近所の人たちとも良好な関係を築く。「親戚が増えた感じ。お金で買えないものをたくさんいただいた」。出頭さんは喜ぶ。売却した空き家の前で話し合う売り主の金谷隆司さん(右)と購入した出頭絵美子さん=千葉県旭市で
同社は、交渉の過程で売り主と買い主が顔を合わせることを勧めている。「空き家の場合は、買う人が近所と仲良くできるかが大事。家を生かしてくれるなら血縁にこだわらなくてもいい」と藤木代表。「会って心が通い合った人に引き継げれば本望では」と語る。 空き家にまつわる相続や売却と賃貸、近隣での環境問題、その他の困り事などに関する情報や意見をお寄せください。 住所・氏名・年齢・職業・電話番号を明記し〒100 8525 東京新聞生活班へ。ファクス03(3595)6931、seikatut@tokyo₋np.co.jp
鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。