北海道札幌市で当時2歳の女の子が虐待され、衰弱死した事件から5年が経ちました。

 女の子と母親は支援からこぼれ落ちた末、事件は起きました。

 事件を防ぐために何ができるのか、現場からの報告です。

 2019年6月、札幌市中央区にあるマンションの一室で2歳の池田詩梨ちゃんが亡くなりました。

 母親とその交際相手に虐待された末の衰弱死でした。

 事件を検証した報告書は親子が支援からこぼれ落ちた実態を明らかにしました。

 母親は18歳で詩梨ちゃんを出産。

 当時は未婚で経済的に困窮していたにもかかわらず、市は十分に支援できませんでした。

 報告書は「行政が相談しやすい存在になる必要がある」としました。

 札幌市は事件を受けて、児童相談所の職員を約120人から180人に増員。

 虐待などの相談に対応する児童福祉司も19人増やすなど専門性を高めてきました。


 また、困りごとのある若い女性を支えるため、夜の繁華街などを回る取り組みも始めました。

 「詩梨ちゃんのことを風化させてはならないと思っています。福祉に関わる職員みんなでこの教訓を胸に強く刻みつけていかなければならないと思っています」(札幌市児童相談所 笹谷 美奈 地域連携課長)

 2025年秋ごろには、白石区に2か所目の児童相談所が開設されます。

 市内の児童虐待件数は2023年度、2627件と過去最多を更新しました。

 子どもや親のSOSに迅速に対応したいとしています。

 「学校や保育園や医療機関の方と連携をしっかりと深めて地域に根差した支援を考えています」(岩崎 晃雄 第二児童相談所担当係長)

 子育てに悩む親を支える取り組みも行われています。

 札幌市北区の子どもの育ちに関する相談機関「興正こども家庭支援センター」です。

 この日訪れたのは、美咲さん(仮名 30代)。

 ひとりで2人の子どもを育てています。

 子どものころ、親から褒められた記憶がなく、自分の気持ちにも共感してもらえませんでした。

 そのため、自分も息子との向き合い方が分からず、手を上げることもあったといいます。

 「子どもに言うことをきかせるには恐怖しかないと思っていました。怖くなければいけない、親が。だから怖いお母さんでいるために怒る」(美咲さん)


 息子の泣き声を聞いた近隣の住民が通報し、児相の職員が自宅を訪れたこともありました。

 「精神的に追い込まれる感がすごくつらくて、どこに行っても周りから『うるさい』と言われる。『子どもを産んで、すみません』という感じです」(美咲さん)

 1年前からセンターで受け始めたのが、PCITという心理療法です。

 おもちゃが置かれた部屋で息子と遊んでいると、マジックミラー越しで様子を見ているセラピストが無線のイヤホンを通じて、美咲さんにアドバイスを送ります。


 「『ブロックをくっつけてください』と命令したら喜んでやってくれると思います」(セラピスト)

 「このブロックをここの塀のところに黄色のブロックをくっつけてください」(美咲さん)

 「素晴らしい『直接的命令』です。うれしそうにすぐやりましたね」(セラピスト)

 子どもとの遊びを通して、適切な接し方を学ぶことができ、親子関係の改善や虐待の防止に効果があるとされます。

 この日は、適切な指示の伝え方を練習しました。

 「ママ、壊さなくてよかったのに」(息子)

 「…」(美咲さん)

 「『選択的無視』、上手にできています。」(セラピスト)

 子どものネガティブな行動にはあえて注目しません。一方、好ましい行動は積極的に注目し、具体的に褒めるなどします。

 「すごい!」(美咲さん)

 「つけてくれてありがとう」(セラピスト)

 「つけてくれてありがとう」(美咲)


 「粘り強くやったことも褒めてください」(セラピスト)

 「あきらめないで直してすごいね」(美咲さん)

 「すごくいいところを評価できて、素晴らしいです」(セラピスト)

 こうしたやり取りで、親は子どもの行動の良い面に目を向けることができるといいます。

 「支配する怖い親。恐怖で子どもをコントロールするしかないと思っていた。違うやり方を身に着けたことで子どもを人として尊重する関わりができるようになります。お母さんが自信をつける、仲良くなる。日常の困りごとが減る。子どもも成長しくいくのがみられるというのが多いです」(興正こども家庭支援センター 今泉 明子 副センター長)

 美咲さんも息子との関係に変化を感じられるようになりました。

「(息子が)私に対して話しかけていいって思えるようになったんだなと思います。話かけることさえなかった、私のことが怖いから。遠慮がなくなった。うれしいなと思うようになりました」(美咲さん)


 美咲さんはセンターのすすめで、放課後等デイサービスに息子を預けるようになり、子育ての相談もするようになりました。

 「(息子に)『なんでそんなこと言われないといけないの』という気持ちもあるので、話をしていても途中で、伝わらないからもういいやってなっちゃう。」(美咲さん)

「自分の経験してきたこと、そうでないことの比較が出てきたり、(親と子の)性別の違いもあるしね。優しい二人なんだけどね。」(リライアンス 伊藤 由実子さん)

 これまで話すことができなかった子育ての悩みや苦しみを受け止めてくれます。


 「お母さんが何を言いたいのか、どんなことで困っているのか、聞いて、共感をして、受け止める。SOSを早めにキャッチして、気持ちが楽になれる時間があればいいなと思っています」(伊藤さん)

「“一人じゃない”という感じです。『助けてください』と言える人がいるというのは大きいです。何となく大丈夫」(美咲さん)

 美咲さんは最近、相談に乗ってもらっていた民生委員の誘いで、子育てサロンのボランティアをはじめました。

 自分と同じように子育てに悩んでいる親の力になれたらと思っています。

 「今もどこかで部屋の中に閉じ込められている子もたくさんいると思う。周りに聞こえないように声を出さないように怒りつけているお母さんは結構いると思う。子育てはみんなが協力してくれないとどうにもならないと思っています」(美咲さん)

 「自然体で自分の言葉で親たちと接しているのはとてもいいなと思います。子どもを的確に見ていてくれていて、愛されているよね」(民生委員 五十鈴 理佳さん)

 「あなたは一人じゃない」。

 地域で親子を支えることが、子どもの命を守ることにつながります。

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