強化ガラスを使用するなどして浸水を防ぐ耐水害住宅の内部=浜松市中央区の一条工務店耐水害住宅体験ブースで
台風や線状降水帯などによる豪雨災害が相次ぐ中、考えたいのが水害への備え。対策の一つが、家自体の性能を高めて被害を最小限にする手法だ。水の浸入を防ぎ、必要なら住宅を浮かせるなどして被災後に素早く復旧できるよう設計された「耐水害住宅」の仕組みを取材した。 (古根村進然) 周囲の水位が1・2メートルに達すると、建物が徐々に浮かび始めた。室内で右左に動くと、ゆっくり傾く。まるで船の上にいるような感覚だ。大手住宅メーカー一条工務店(東京)が設けた浜松市中央区の体験ブース。住宅は安定して浮いており、倒れる気配はない。支柱などに支えられながら浮く住宅のイメージ図=一条工務店提供
実際の現場では敷地の四隅に支柱を立て、専用のダンパーで住宅とつなぐ。大雨で水位が基準を超えると二重構造の基礎の上部から浮上し、ダンパーが適度に伸縮して安定させる。水に流されないようにする役割も担う。水が引けば住宅はほぼ元の位置に。漂流物が下に挟まった場合は、ジャッキで持ち上げて除去する。浮上すると水道管や下水管を自動で切り離す仕組みだ。支柱と住宅をつなぐ専用のダンパー(中央下)=一条工務店提供
室内への浸水を防ぐ機能も備える。窓や玄関ドアは特殊なパッキンを取り付け、水圧で破られないよう強化ガラスを採用。床下の換気口には板状のフロート弁を設け、水が入ると弁が浮いてふたをし、床下への浸水を防ぐ。下水の配管には逆流防止の弁を付けた。これで2階建てなら浸水深5メートルまでの水害に耐えられるという。 浮かすのは、水位が高くなると建物にかかる水圧や浮力に耐えられなくなるためだ。広報担当者は「浮力に耐えるため、基礎のコンクリートを重くすると、地盤が沈下し、耐震性に問題が出る。別の方法でも、水深2メートルでは窓に1平方メートル当たり2トンの水圧がかかり、耐えられる窓の設計ができない」という。 同社は、2015年に茨城県で起きた鬼怒川決壊を受けて水害に強い家造りに着手し、20年9月に耐水害住宅の販売を始めた。住宅が浮くタイプと、浸水深1メートルまで耐える浮上しないタイプの2種類あり、24年4月までに全国から計4085件の申し込みがあった。35坪(約115平方メートル)の木造住宅を新築する場合、浮上するタイプは約77万円、浮上しないタイプが約31万円の追加費用がかかる。津波には対応しておらず、既設の住宅への設置はできない。 浮上しないタイプは外壁の高さ約1メートルの位置に水を取り入れるダクトがあり、この高さを超えた水は、床下の基礎部分に設けた空間に引き込んでしのぐ。内部への浸水を防ぐ機能は、浮上するタイプと同じだ。 静岡市清水区の会社員斉藤篤さん(51)は、市の津波ハザードマップで自宅が浸水する可能性があると知ったことがきっかけで、耐水害住宅に関心を持った。検討の上で購入を決意。住み始めた直後の22年9月、静岡県で記録的な大雨となった台風15号が発生した。周辺は床上浸水などの被害を受け、自宅周辺の水位も約1メートルまで達したが被害を免れた。「本当に助かった。今後も台風に伴う大雨なら耐えられると思えた」 同社によると、水害の復旧費用は数百万~1千万円程度で、床上浸水では期間も約1カ月にも及ぶ。同社は「耐水害住宅は水害後に普段通りの生活をすぐに取り戻せ、居住者の精神的・経済的な負担を大幅に軽減できる。業界でも、水害に強い家造りがスタンダードになれば」としている。◆立地で異なる氾濫の想定 「一律の対策は困難」
建築物の水害対策に詳しい神奈川大(横浜市)工学研究所の田村和夫客員教授=写真=によると、住宅に関する対策は河川の氾濫や、雨水を排水しきれずあふれる「内水氾濫」が主で、津波対策は別に考えるという。さらに、氾濫で想定される水の流れの速さや浸水深などは建物の立つ場所ごとで異なり、「一律の対策は難しい」と指摘する。 住宅の水害対策については、鬼怒川が決壊した2015年の関東・東北豪雨や18年の西日本豪雨といった災害を受け、研究者や住宅メーカーなどの間で議論が深まってきた。 主な対策は、室内への浸水を防ぐために地盤をかさ上げしたり、1階部分を重く強度のある鉄筋コンクリート構造や鉄骨造りで構築したりする方法がある。ほかに、1階部分を柱のみの「ピロティ構造」にして水流の影響を抑える手法も。ただ、田村さんは「2階を出入り口にした場合の利便性や耐震化との兼ね合いも考える必要がある」と語る。 また、木造住宅については現状、地盤のかさ上げや周囲への止水壁の設置といった方法に限定される。田村さんは「まずは、洪水ハザードマップなどを確認し、日頃から安全に避難できるよう心掛けておくことが大切」と話す。
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