三井住友海上火災保険は2023年4月、育児休業を取得する社員の同僚に最大10万円を給付する「育休職場応援手当(祝い金)」を創設した。子育てを理由に仕事を休む人などを「子持ち様」とやゆし強く批判する声がSNS(ネット交流サービス)上で広がっており、そうした声を和らげる一つのヒントになるのではと注目を集めているが、この1年で職場の風土は変わったのだろうか。育休取得者や手当を受け取った同僚らに話を聞いた。
同社によると、給付は23年7月から始まり、職場の人数や育休の期間に応じて同僚全員に3000~10万円が出される。最高額の10万円は13人以下の職場で、期間が3カ月以上という条件。24年2月末までに延べ約7000人が手当を受け取り、予算額は数億円に上るという。
少子化対策となる制度の創設を検討していた同社では当初、子どもが生まれた社員に現金を給付する案が出ていたが、子どもがいない社員との間に不公平が生じることが懸念された。そのため、仕事を肩代わりする可能性がある同僚が心から喜べないような雰囲気を変え、育休取得者にも気兼ねなく休んでもらおうと、逆転の発想で同僚に手当を給付することにした。
広報部の鶴海翔太さん(32)は長女の誕生を受け、2回に分けて計約1カ月の育休を取った。期間中に同僚数人が自宅を訪れ、手当で購入したおもちゃをプレゼントしてくれたという。育休の取得促進に力を入れる同社では元々、男性の取得率はほぼ100%。制度の創設以降、男性の平均取得日数にも大きな変化はないが、鶴海さんは「手当のお陰で同僚との交流が深まった」と感じている。
また、同社は23年9月に実施した社員アンケート(回答者271人)で、手当の導入により同僚が育休を取る場合の感情に変化があったかどうかを尋ねた。「0」に近づくほど変化がなく、「10」に近づくほどお祝いの気持ちが高まったという具合に11段階で回答を求めたところ、「10」が最多の26・4%に上り、平均は6・07となった。
「0」を選んだ人は19・7%と2番目に多かったが、中には「手当がなくてもお祝いの気持ちがある」というコメントもあり、必ずしも否定的な感情ばかりではなかった。
実際、北陸地方で支社長代理を務める女性社員(43)は「私は子どもがいませんが、制度の有無にかかわらず、仕事と育児を両立する社員を応援したい気持ちはあり、制度の導入前後で感情の変化はありませんでした」と語る。その上で、「育休に入る人がいると、一定期間は業務量が増えますが、手当を受け取ることで気持ちのモヤモヤは解決できる面がありました」と制度を評価し、自身も受け取った手当を旅行の費用に充てた。
計1年3カ月の産休・育休などを経て24年4月に職場復帰した女性社員(34)は現在、子どもに発熱などのトラブルがあった場合、仕事を休んだり在宅で働いたりしている。この社員は制度について、「育休に入るタイミングだけでなく、復帰した後の職場のコミュニケーションにも良い影響があると感じる」と話す。
一方で、仕事を休まざるを得ない理由は育児に限らず、介護や自身の病気の治療など多岐にわたる。そのため、育休に焦点を当てた制度には当初から疑問の声が上がっていた。人事部の担当者は「今後、育休以外の事情で休む人の同僚にも手当を給付することなどを検討したい」としている。【御園生枝里】
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